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100年前に作られたNYの地下システムに暮らす母娘の物語〜映画『きっと地上には満天の星』

集英社オンライン / 2022年8月4日 14時1分

8月5日(金)より公開される映画『きっと地上には満天の星』は、NYの地下鉄のさらに下に広がる、迷宮のような空間で暮らしてきた母娘の物語。ヴェネチア国際映画祭をはじめ各国で高い評価を受けた本作の魅力を解説するとともに、セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージ監督に話を聞いた。

地図すらない、100年前に作られたNYの地下システム

© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

新鋭セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージの初監督作品『きっと地上には満天の星』が素晴らしい! かつてNYに実在した地下コミュニティに、今も暮らしている設定の母娘が主人公。彼らが新しい一歩を踏み出すまでを感動的に描いた作品だ。母親のニッキー役には監督のひとりセリーヌ・ヘルド自身が扮し、映画初出演ながら天性の輝きを示す娘リトル役のザイラ・ファーマーとの息の合った演技で、観客の目を釘付けにする。



世界中の大都市に地下鉄システムは存在するが、NYの地下鉄ほどミステリアスで恐ろしく、しかも魅惑的な空間はほかにない。今から100年も前の1920年代初めに作られたNYの地下鉄(MTA)は現役で稼働している一方、既に廃線となって打ち捨てられたトンネルも多くある。地下空間の正確な地図はなく、市当局も全容を把握している訳ではないという。そこに、かつては何千人もの人々が地下コミュニティを形成し、暮らしていた。

過去にも、NYの地下に迷い込んで暮らし始める子どもを描いた小説として、フェリス・ホルマン著・遠藤育枝訳『地下鉄少年スレイク――121日の小さな冒険』(原生林刊)や、そのテレビ映画化であるギルバート・モーゼス監督の『Runaway』(1989/日本未公開)、そしてサム・フライシャー監督『Stand Clear of the Closing Doors』(2013/日本未公開)といった佳作が作られてきた。

ところが本作は、迷い込んだのではなく、元々NYの地下で暮らしてきた母娘ふたりの物語。そして、初めて地上に出た娘リトルが、母親とはぐれてしまったときに遭遇する危険と戸惑いをリアルに描いている。――ある意味、NYという都市そのものが主役でもある本作について、セリーヌ&ローガンにインタビューした。ふたりの言葉を紹介しつつ、本作の見どころを解説したい。

いかにして1980年代の状況を現代に置き換えたか?

© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

廃線となった地下トンネル内に、何千人もの人々が暮らしていたのは1980年代のこと。今では退去させられ、地上のホームレスと共に、支援住宅やホームレスシェルターで暮らしているという(でも、今でも息をひそめて地下に暮らす人はいそうな気がする)。

1980年代後半から毎年NYを訪れ、1999年から1年間暮らしたことがある筆者は、80年代当時の地下鉄をよく覚えているが、車両の外側はほとんどグラフィティ・アートで埋め尽くされ、ホームの壁なども同様だった。筆者のようにグラフィティを“アート”と認識して楽しんでいた者は結構いたし、グラフィティ・アートの領域から本当のアーティストになった者もいた。ただし、ガキどもの落書きとみなす大人も多く、記憶ではそれらは1990年代の前半にはきれいに消されてしまった。と同時に、夜は危険という評判だったNYの健全化が市当局によって推し進められた。

共に1990年生まれのセリーヌとローガンは、2010年にニューヨーク大学の同級生としてかの地に暮らし始めたというから、NYの危険な時代は知らないはず。どうやってリサーチして、本作の構成を固めていったのだろうか?

左からリトル役のザイラ・ファーマー、ローガン・ジョージ監督、母親役を兼任したセリーヌ・ヘルド監督
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

セリーヌ ジェニファー・トスの『モグラびとニューヨーク地下生活者たち』など、その時代の地下コミュニティを描写した3冊のルポルタージュを読んだこと。それと、私が学生時代にソーシャルワーカーのバイトをしていて、家がなくて郵便物のアドレスとして学校の住所を使っていた子どもと知り合ったことがきっかけです。万華鏡のように、それらのピースを繋ぎ合わせて物語を作りました。3冊の本はすべて80年代の話なので、それを現代の物語として創作する必要があったんです。

ー彼らは、そのために元グラフィティ・アーティストだったクリス・ペイプをテクニカル・コンサルタントとして雇い、撮影場所に選んだ地下トンネルにグラフィティを再現したという。

地下鉄を使用したシーンの難しさ

© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

ーNYは早くからフィルムコミッション(FC)が発達していて、撮影には協力的な街だが、それでも手持ちカメラで走り回る地下鉄のシーンの撮影は大変だったのではないだろうか?

セリーヌ (リトルとはぐれて)地下鉄の駅から駅へと私が泣きながら走るシーンは6夜かけて撮影したんです。走って反対側のホームへ行って電車に飛び乗るシーンは、乗り遅れてしまうと次の電車まで30分も待たなくちゃならなくて。冬の寒い時期だったから待つだけで大変でした。

ーちなみに、撮影許可はFCが取ってくれるものの、MTAでの撮影は1日当たり10万ドルかかるという。低予算のインディペンデント映画にとっては大変だったはずだ。そしてセリーヌは俳優として演じる役割もあるから、撮影中のコミュニケーションも難しかったのではないだろうか?

ローガン 共同監督として僕たちはすべてをシェアしてやっていたけど、セリーヌが演技をしているとき、小さなイヤーピースを付けてもらって無線で僕とコミュニケーションを取ったんだ。彼女はこの映画で誰よりもよく働いてくれたし、子ども相手で演技をするのはとても大変だったと思う。エモーショナルでタフな役柄だったけど、驚くべき仕事をしてくれた。

ー大人の俳優はみな台詞を頭に入れて撮影に挑んだものの、子役のザイラはさすがに台本通りというわけにはいかず、臨機応変にアドリブで会話することもあったという。

地下で育った子どもにとって本当の幸せとは何なのか?

© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

ー母親と一緒に初めて地上に出たリトルは、あまりの眩しさに思わず両目をつむる。薄暗い地下での生活では、ほのかに差し込んでくる明かりから地上のことを想像するだけだったからだ。そんなリトルとはぐれてしまった母親は、娘を必死に探す中で、最後にある大きな決断を下す。それは娘にとっての一番の幸せとは何なのかを自問自答して導き出したもの。

セリーヌ リサーチ段階で、当局から保護者としての責任を果たせないと判断されて、子どもと暮らすことを諦めざるを得なかった母親たちにインタビューしました。

ローガン 当局に子どもを渡してしまうと、その後、子どもに会えるチャンスは5割あるかないかくらい。映画の最後に彼女が下す決断というのは、キャラクターがその決断をできるだけ、映画の中で成長したとも言えると思います。

ー子どもを産み、育てるには、十分な栄養や安全を与えるだけでは足りず、医療や教育など人として生きていく上で必要となるさまざまな事を担保しなければならない。その責任の重さを痛感する母親の選択は、見るものに大きな余韻を残す。

セリーヌ&ローガン監督の今後のプランと次回作は?

左からローガン監督、セリーヌ監督
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.

ー共同監督&脚本家として2015年からコラボレーションをスタートさせたセリーヌとローガンは、これまで何本かの短編を発表。今回の『きっと地上には満天の星』が長編映画デビュー作だ。セリーヌは俳優として、ローガンは編集者としての活動もしているとのことだが、ふたりのプライベートはどうなっているのか?

セリーヌ 実は私たちは2017年に結婚しました。結婚式の場所は何と東京だったんです! 今は私自身、子どもの誕生を心待ちにしています。

ーどうりで、インタビューでの息もピッタリ合っていたはずだ。若いふたりの前途を祝福したい。私生活でも大きな決断をしたふたりだが、共同監督&脚本家としての仕事の方でも順調にキャリアを伸ばしている。

『シックス・センス』(1999)、『サイン』(2002)で知られるM・ナイト・シャマラン監督が製作総指揮を務めたApple TV+の『サーヴァント ターナー家の子守』(2019~)のシーズン3から監督として参加しているのだが、その流れで、シャマランをプロデューサーに迎えて、第2作目となる新作の長編劇映画の撮影を終えたところだという。

その次回作のタイトルは『The Vanishings at Caddo Lake』というそうだが、そのタイトルから想像される通り、ジャンルとしてはミステリー・ホラーだという。上げ潮の若きふたりの活躍からは今後も目が離せない!



取材・文/谷川建司

『きっと地上には満天の星』(2020)Topside 上映時間:1時間30分/アメリカ
NYの地下鉄のさらに下に広がる暗い迷宮のような空間で、ギリギリの生活を送っているコミュニティがあった。ある日、不法居住者を排除しようと市の職員たちがやってくる。隠れてやり過ごすことができないと判断したニッキー(セリーヌ・ヘルド)は、5歳の娘リトル(ザイラ・ファーマー)を連れて地上へと逃げ出すことを決意する。初めて外の世界を体験するリトルは、眩いばかりの喧騒の中で、夜空にまだ見ぬ星を探し続ける。N.Y.の街で追い詰められていく母娘に、希望の光は降り注ぐのだろうか。

8月5日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.
配給:フルモテルモ、オープンセサミ

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