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「シニアの元ヤクザの8割は生活保護」…暴力団離脱後に直面する厳しい現実。「引退してもクレカどころかTSUTAYAのカードさえ作れない」「元組員だと明かせば色眼鏡で見られ…」

集英社オンライン / 2023年1月19日 17時21分

暴力団の解散。社会的には歓迎すべきことであろうが、組員たちにとっては死活問題だ。元組員の再就職割合はたった3%とも。“元ヤクザ”のレッテルを貼られるなか、彼らは暴力団離脱後の生活をどのようにやりくりしているのか。

元神戸山口組直系組織、侠友会が解散。
構成員は全員カタギに

2022年12月20日、神戸山口組の元若頭で侠友会の寺岡修会長が引退し、侠友会の解散を表明した。六代目山口組の分裂時、神戸山口組に参画、六代目からは絶縁処分を受けていた寺岡会長だったが、2022年8月には神戸山口組からも離脱し独立。
一時は侠友会の事務所が神戸山口組の拠点として使われるなど中核的存在だったが、神戸山口組の井上邦雄組長からも絶縁処分を受けていた。



この日、新幹線で新横浜駅に降り立った寺岡会長は、六代目山口組若頭補佐で三代目弘道会の竹内照明会長や稲川会の幹部らに出迎えられ、横浜市内にある稲川会館に向かった。稲川会の仲介で六代目山口組・高山清司若頭に謝罪し、引退を認めてもらうためだと報じられている。
謝罪後は再び稲川会の幹部らに見送られて、新幹線で新横浜から兵庫への帰路についた。

新幹線に乗り込み帰路につく寺岡修元会長

ある指定暴力団の元組長はこの時の映像を見て「たったひとりで新幹線に乗り込む姿は、寂しい限りです」と述べた。

翌21日、寺岡会長は兵庫県警に引退と組の解散を届け出た。組員は他の組織に移籍することなく、全員“カタギ”になる予定だという。だが警察は当面の間、「解散が実態を伴うかどうか慎重に見極める」という。

「侠友会の会長ともなれば、ある程度の蓄えはあるはずだ。引退したといって、すぐに生活には困ることはないだろう」とある暴力団関係者H氏はいう。だが、カタギになるという他の組員らはどうなのか。

暴力団を辞めてもTSUTAYAのカードさえ作れない

2022年2月6日の西日本新聞の記事では「警察庁によると2010年~2019年で、警察などの支援を受けて離脱した元組員約6020人のうち、就労できたのはわずか194人」と伝えている。また、暴力団博士として知られる社会学者・廣末登の著書『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』によると、2010年~2018年の間に、警察や全国暴力推進追放運動センターの支援による離脱者5453人のうち、就職できた者は165人、その割合は3%と非常に低い。

その理由のひとつに挙げられるのが、2011年までに47都道府県に施行された暴力団排除条例による「元暴5年条項」と呼ばれる規定だ。組を離脱しても元組員は、おおむね5年は暴力団関係者とみなされ、銀行口座の開設ができないのである。口座が開設できなければ、家の賃貸契約、家や車などのローン契約、携帯電話の契約や保険の加入などもできない。クレジットカードはもちろんのこと、TSUTAYAのカードさえ作れないと嘆いていた元組員もいる。この規定が足かせとなり、社会復帰が難航するのだ。

だが、H氏は「普通の組員なら5年経たなくても口座は作れる」という。
“普通”という表現がわかりにくいが、要するに新聞沙汰になるような事件を起こさず、名前が公表されていない組員のことを指す。名前が出てしまうと、金融機関などによるデータベースに載ってしまうが、“普通”の組員ならブラックリストに載っていないことも多いのだ。
H氏が知る若い元組員らはデータベースに名前がなかった。

「自分は反社会的勢力の人間ではないとサインするかどうかは本人次第。例えリストに名前があっても、金融機関は危ない人物と思わない限り、なかなかそこまでチェックしてこない。組を辞めて5年以内に口座を作ったことがもし銀行にバレても、自分の知る限り、銀行側が顧問弁護士を通して口座を解約することはなかった」(H氏)

現役の暴力団組員が反社会的勢力ではないと偽って口座を開設し、それが発覚すれば、即刻詐欺罪で捕まる。「だが離脱していればカタギ、一般人だ。バレても詐欺罪にはあたらない。信義則違反にはなるが、それ以上のお咎めはない」と語る。

「条例ができた時は、口座がなくなったという話をけっこう聞いたが、すり抜けたヤツはけっこういる」とH氏。「残高が多い口座はそのままだったから、それを今さら、銀行がどうこうするということはない」と皆、高を括っているという。

暴力団と関わりを持ち続ける元組員も

しかし、元組員が、就職するのが難しいという根本的な問題は変わらない。東京を拠点とする暴力団の組長N氏は「自分らのまわりでも元組員が、一般の会社に就職したという話は聞いたことがない」と語る。

「福岡県のように県や県警が積極的に協力体制を取り、元暴力団員の就職を支援することは稀だ。サポートしてくれる団体がなければ、職種はおのずとある程度決まってしまう」

福岡県警は2014年以降、特定危険指定暴力団工藤会の壊滅を目指し「頂上作戦」を実行。すなわちトップは逮捕し、組を離脱しカタギになった元組員らの生活や就職はサポートしているのだ。

N氏はこうも言う。
「もともと一般企業には入れないような人間が多いから、元暴力団、元組員というレッテルが就職できない理由ではない。ヤクザをやっていても食えないヤツは、いくらカタギになろうが一般企業に就職するなんて無理。職種を限定せずに仕事を探すなら、稼げる仕事はある」

暴対法やコロナ禍によりN氏の組の若い衆はほとんどが組を離れ、カタギとなっている。従事しているのは主に建設業や解体業だ。

「自分から応募して面接に行くのはハードルが高い。ハナから元組員だと明かしても色眼鏡で見られるだけで、雇う側も簡単には採用しない。仲間が働いているとか、知人友人の紹介を頼りに仕事を探すと同じ業種が多くなるのは当然」(N氏)

暴力団と共生しつつブローカーとして金を稼いでいるという元組員は、

「暴力団と組んで仕事をしているというより、手の届く距離に組織があるという感覚。どこまで手を伸ばすかは自分次第。情報の交換はするが、助けを求めることはない。仕事をしていく上でこれまでの人間関係は必要だし、自分が元組員だったと知っている人も多い。そこで稼いでいけるかどうかは自分の能力次第」

と言い切る。
経験や人間関係を生かして仕事をすれば、暴力団との関わりを断ち切ることはできないが、「仕事で一般人に迷惑をかけることはない。つかず離れずの絶妙な距離感は経験上、わかるので」と言う。

シニアの元組員の8割は生活保護

若ければ肉体労働もできるが、シニアになるとそうもいかない。「カタギになったシニアは、その8割が生活保護に頼る。生活保護は楽だから」とN氏はその実態を解説する。

「引退してもシニアの年齢では募集が少なく、元組員となれば応募すら難しい。指がなければ仕事にはほぼ就けない。客商売もできないし、配達員に指がなかったら客は驚くだろう」

そのため生活保護に走るのだという。

それでもらえる金額が月に13~14万円とする。そのうち5~6万が家賃なら、手元には残るのが8万円程度。光熱費や電話代を引いても、使えるのは1日当たりだ2500円近くになる。食べるだけなら十分の金額で、1食分は真面目に働く会社員のランチ代より多くなる。

「食費を抑えれば小遣いも出るが、酒や博打に使えばあっという間になくなる。彼らには酒や博打に使う時間があり余るほどあるからな」(N氏)

カタギになり生活保護を受ける元組員が戦っているのは“元ヤクザ”のレッテルよりも、暇を持て余すことなのかもしれない。

取材・文/島田拓
集英社オンライン編集部ニュース班

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