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観測史上地球に最も近いブラックホール「Gaia BH1」を発見

sorae.jp / 2022年11月17日 22時0分

一般に知られているように、「ブラックホール」はその強大な重力により、一定の距離 (シュバルツシルト半径) よりも近付いたものは光でさえ逃げ出すことができない非常に極端な天体です。

一方で、その極端な性質にもかかわらず、ブラックホールの存在はかなり一般的であると推定されています。太陽の5倍から100倍の質量を持つブラックホールは、天の川銀河だけでも1億個はあると推定されています。質量が太陽の数倍から数十倍の恒星質量ブラックホールに限っても、この宇宙に存在する普通の物質 (暗黒物質と暗黒エネルギーを除いた成分) のうち約1%を占めているとも推定されています。

しかし、 “黒い” を意味する言葉が示しているとおり、ブラックホールは単独では電磁波をまったく放射しません。近くにある別の物質が吸い込まれる過程で放出されるX線によって間接的に観測できるブラックホールもありますが、そのような活動的なブラックホールは全体のごく一部と推定されています。大部分のブラックホールは、X線を含むあらゆる周波数の電磁波で直接観測することが不可能であるため、その多くが未発見のまま存在するとみられています。

ただし、これらの “黒い” ブラックホールを観測する方法もまったくないわけではなく、いくつかの方法が考えられます。その1つは、ブラックホールが普通の恒星を伴星として従えている連星の場合です。ブラックホールが恒星を吸い込めるほど近接していないとしても、ブラックホールと恒星は互いの重心を中心に公転運動をすると予測されます。その様子を遠くから観測すると、ブラックホールは見えないため、単独の恒星だけが連星のように周期的に動いているように見えるはずです。そこに存在するはずなのに電磁波では一切観測できない重力源があるとすれば、ブラックホールである可能性が高くなります。

スミソニアン天体物理観測所とマックス・プランク天文学研究所に所属するKareem El-Badry氏らの研究チームは、欧州宇宙機関 (ESA) が打ち上げた位置天文学衛星「ガイア」によって観測された天体のカタログにある恒星「Gaia DR3 4373465352415301632」の観測を行いました。

この恒星は、地球から1560光年しか離れておらず、ガイアの観測によってその位置にわずかなズレが起きることが判明しており、以前から “見えない伴星” との連星系の候補として名前があがっていました。El-Badry氏らは、ジェミニ北望遠鏡による「Gaia DR3 4373465352415301632」の精密な観測を通して、この伴星がブラックホール以外では説明できないことを報告しました。

【▲ 図1: ブラックホールGaia BH1と 恒星Gaia DR3 4373465352415301632の想像図 (Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine/M. Zamani) 】

【▲ 図1: ブラックホール「Gaia BH1」と 恒星「Gaia DR3 4373465352415301632」の想像図 (Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine/M. Zamani) 】

新たに「Gaia BH1」と名付けられたこの伴星には、ブラックホール以外では説明がつかない性質がいくつもあります。

まず、「Gaia DR3 4373465352415301632」の質量は太陽の0.93倍であるのに対し、伴星の質量は5倍以上、おそらくは9.62±0.18倍であると推定されました。電磁波の放射が微弱なためにブラックホールと誤って観測されうる天体に白色矮星や中性子星がありますが、推定される伴星の質量はその可能性を否定するほど大きな値です。

また、仮に伴星が下限の質量 (太陽の5倍) を持つ恒星だった場合、電磁波の放射量は「Gaia DR3 4373465352415301632」の500倍になると推定されます。もちろん、そんなとんでもない放射は観測されていないため、もしも伴星が恒星なのだとしたら、放射の推定値と実際の値の間には大幅な差があることになります。

加えて、「Gaia DR3 4373465352415301632」は恒星としては典型的な、ゆっくりとした自転周期と低い金属量を持つため、観測値を大幅に歪めかねない特別な要素はないと考えられます。これらのことから、伴星「Gaia BH1」はブラックホール以外では説明がつかない天体となります。

【▲ 図2: 今回の発見を反映した、地球に近いブラックホールのリスト。 (Image Credit: 彩恵りり) 】

【▲ 図2: 今回の発見を反映した、地球に近いブラックホールのリスト。拡大画像はこちら (Image Credit: 彩恵りり) 】

「Gaia BH1」は地球から1560光年 (480パーセク) という近い距離にあります。これは、これまでの最短距離記録だった「A0620-00」の約3000光年 (約1000パーセク) を下回り、地球に最も近いブラックホールとなります (※1) 。また、「A0620-00」はX線変光星として発見された活動的なブラックホールであるのに対し、「Gaia BH1」は電磁波をまったく放射していない、という点でも、とても珍しい発見であると言えます。

※1…「とも座V星B」と「HR 6819 Ab」は「Gaia BH1」よりも地球に近いブラックホールの候補天体ですが、その存在には論争があり、実在しない可能性が高いため、これらを除外します。

ただし、「Gaia BH1」の軌道の性質には謎があります。連星系の公転周期は185.6日 (※2) で、軌道長半径 (平均距離) は2億1000万km (1.40天文単位) 、軌道離心率は0.45であると計測されています。これはちょうど、太陽の位置にブラックホール、火星の位置に恒星を置いたような位置関係です。また、「Gaia BH1」の質量をもとに、ブラックホールになる前の恒星の質量は、少なくとも太陽の20倍だったと推定されます。このような恒星の寿命は数百万年しかありません。一方で、「Gaia DR3 4373465352415301632」の性質は、ほとんど太陽と一緒です。

もしも両方の恒星が同時に誕生した場合、「Gaia BH1」は超新星爆発を起こす前に膨張して、まだ主系列星にもなっていない「Gaia DR3 4373465352415301632」を飲み込んでしまう可能性があります。飲み込まれずに済むほど十分に距離が離れていたとしても、超新星爆発の衝撃に耐えた上で、軌道が収縮される過程が必要になるはずですが、理論的に示された結果は、どれも現在よりもずっと近い公転軌道になることが示されました。理論上予測される軌道と実際の軌道の違いについてはまったくの謎であり、現状の天文学では恒星とブラックホールからなる連星系の理解がまだ不足していることを示唆しています。

※2…余談ですが、研究チームが観測を始めた時、連星系がお互いに最も接近し、恒星の位置が短期間でずれる期間まであと1週間しかなかった、という幸運に恵まれておりました。もしこの機会を逃していたら、研究チームが同じ成果を得るのに1年ほど待たなければならなかった可能性があります。

残された謎については、将来の観測でブラックホールが数多く見つかることで解決される可能性が残されています。実際に、今回の研究では地球から3番目に近いブラックホールの候補として「Gaia DR3 5870569352746779008」も発見されています。また、ガイアの恒星カタログには、ブラックホールと連星をなしている可能性がある恒星の候補がまだたくさんあるため、これからも続々とブラックホール連星が発見される可能性があります。天文学的には “近所” と言える天の川銀河でも、ブラックホールが無数に存在する可能性はどうやら高そうだと、今回の発見からは言えそうです。

 

Source

Kareem El-Badry, et.al. “A Sun-like star orbiting a black hole”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) Kareem Al-Badry & Charles Blue. “Astronomers Discover Closest Black Hole to Earth”. (NOIRLab)

文/彩恵りり

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