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ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた“こと座”の惑星状星雲「環状星雲」の姿

sorae.jp / 2023年8月29日 11時10分

こちらは「こと座」(琴座)の方向約2500光年先の惑星状星雲「環状星雲」(Ring Nebula、M57、NGC 6720)です。惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が進化する過程で形成されると考えられている天体です。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された惑星状星雲「環状星雲(M57)」(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson)】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された惑星状星雲「環状星雲(M57)」(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson)】

太陽のような恒星が主系列星から赤色巨星に進化すると、外層から周囲へとガスや塵が放出されるようになります。やがてガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが中心星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになるとされています。

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で2022年8月4日に取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています(※1)。

※1…この画像では1.62μmを青、2.12μmをシアン、2.0μmを緑、3.0μmを黄色、3.35μmを赤で着色しています。

ウェッブ宇宙望遠鏡による環状星雲の観測を提案した研究チームの一員であるカーディフ大学のRoger Wessonさんによると、環状星雲という名前の由来でもある明るいリング状構造は、水素ガスが高い密度で集まっている無数の塊で構成されています。塊の数は約2万個で、1つの塊の質量は地球と同じくらいだといいます。

リングの周囲には無数の細い針状の構造が並んでいますが、過去に「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」で撮影された画像(本記事の最後に掲載)にはとてもかすかにしか写っていませんでした。赤外線で観測すると顕著に現れるこの構造についてWessonさんは、星雲の中心星の強い放射から保護されている、リングの高密度な部分の影で形成された分子に由来する可能性があると説明しています。

また、NIRCamはリングに存在する多環芳香族炭化水素(ベンゼン環を2つ以上持つ化合物の総称、PAH)から放出された赤外線も捉えました。Wessonさんは、環状星雲で多環芳香族炭化水素が形成されるとは予想しなかったと語っています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された惑星状星雲「環状星雲(M57)」(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson)】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された惑星状星雲「環状星雲(M57)」(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson)】

次に掲載した画像は、ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されている別の観測装置「中間赤外線観測装置(MIRI)」で2022年7月14日と8月21日に取得したデータをもとに作成された環状星雲です。NIRCamとは観測に利用する赤外線の波長が異なるため、同じ星雲でも異なる姿に見えています(※2)。

※2…この画像では5.6μmを紫、7.7μmを青、10μmと11μmをシアン、12μmと15μmを緑、18μmを黄、21μmをオレンジ、25μmを赤で着色しています。

Wessonさんによると、環状星雲をMIRIで観測したところ、リング状構造のすぐ外側で規則的に並んだ同心円状の構造が最大10個見つかりました。この構造は、環状星雲を生み出した星に伴星が存在していることを示しているといいます。

伴星は太陽から冥王星までの距離(平均約40天文単位)と同じくらい中心星から離れた軌道を公転しているとみられていて、かつて中心星からガスが放出された時にこの伴星が相互作用した結果、約280年ごとに形成された同心円状の構造が残されたと考えられています。ウェッブ宇宙望遠鏡が登場するまで、この繊細な作用を明らかにできる感度と空間分解能を備えた望遠鏡は存在しなかったとWessonさんはコメントしています。

ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamとMIRIで観測した環状星雲の画像は、アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、ウェッブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)から2023年8月21日付で公開されています。なお、本記事の執筆時に参照したNASA等の記事で紹介されているのは進行中の研究内容であり、まだ査読プロセスを経ていない点をご留意下さい。

【▲ 参考画像:ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3(WFC3)で撮影された惑星状星雲「環状星雲(M57)」(Credit: NASA, ESA, and C. Robert O’Dell (Vanderbilt University))】

【▲ 参考画像:ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3(WFC3)で撮影された惑星状星雲「環状星雲(M57)」(Credit: NASA, ESA, and C. Robert O’Dell (Vanderbilt University))】

 

Source

Image Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, M. Barlow, N. Cox, R. Wesson NASA - Webb Reveals Intricate Details in the Remains of a Dying Star (NASA Blogs) ESA/Webb - Webb captures detailed beauty of Ring Nebula STScI - Webb Reveals Intricate Details in the Remains of a Dying Star

文/sorae編集部

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