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信号途絶中のパルサーからの弱い放射を初めて観測

sorae.jp / 2023年9月6日 21時0分

中性子星の1種である「パルサー」は電子時計並みに正確な信号を発することで知られていますが、形成から時間が経った古いパルサーでは短期間信号が途絶する「パルサー・ヌリング(Pulsar Nulling)」があることが知られています。中国科学院国家天文台の韩金林(Han Jinlin)氏などの研究チームは、パルサー・ヌリング中に放射された弱い信号を偶然観測したことを報告しました。電波の解析結果から、パルサー・ヌリングの原因をある程度絞り込んだ結果もあわせて報告されています。

【▲ 中性子星の想像図(Credit: Kevin Gill (CC BY 2.0))】

【▲ 中性子星の想像図(Credit: Kevin Gill (CC BY 2.0))】

■短時間の信号消滅「パルサー・ヌリング」

中性子星のうち、周期的な信号を放射しているタイプを「パルサー(Pulsar)」と呼びます。パルサーの信号周期の正確さは電子時計に匹敵するほどであり、1960年代に発見されてから間もない頃には地球外文明の信号ではないかとも考えられたほどです。

基本的にパルサーの信号は周期的に繰り返されていますが、まれに短時間だけ途絶することが1970年から知られていました。この現象は「パルサー・ヌリング」と呼ばれています。パルサー・ヌリングは古いパルサーで多く見られるため、パルサー周辺の磁場の構造やプラズマの密度などの変化が、信号の発生源となる荷電粒子(電気を帯びた粒子)の生成を一時的に止めてしまうことが原因ではないかと考えられます。ただし、パルサー・ヌリング中に信号が届かないことは、信号が途絶えている間の様子を知るための情報も届かないことを意味するため、これまで信号途絶中の正確な状況を知ることはできませんでした。

■パルサー・ヌリング中の放射「矮小パルス」を発見 【▲ 図1: B2111+46の電波観測結果の一例。番号237番のパルス (左側の237と書かれた横線、および右側中央のグラフ) が矮小パルスで、他のパルスと比べて強度も幅も小さいことを特徴としている。 (Image Credit: Chen, et al.)】

【▲ 図1: B2111+46の電波観測結果の一例。番号237番のパルス (左側の237と書かれた横線、および右側中央のグラフ) が矮小パルスで、他のパルスと比べて強度も幅も小さいことを特徴としている(Credit: Chen, et al.)】

中国科学院国家天文台の韩金林氏などの研究チームは、中国の貴州省に設置された電波望遠鏡「500メートル球面電波望遠鏡(FAST; Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope)」を使用して、天の川銀河に存在する多数のパルサーを観測するプロジェクトを行っていました。その中にはパルサー観測の歴史の初期から存在が知られていて、しばしばパルサー・ヌリングが発生する「PSR B2111+46(B2111+46)」も含まれていました。

この観測プロジェクトにおけるB2111+46は単なる観測対象の1つに過ぎませんでしたが、2020年8月24日・8月26日・9月17日のデータを分析した結果、パルサー・ヌリング中だったにも関わらずB2111+46から届いたパルス信号が数十個含まれていることが明らかになりました。信号の強度は非常に弱いものの、パルスの幅も狭いため、これはB2111+46自身から放射されたものである可能性があります。

韩氏らは観測された弱い信号の正体を探るため、2022年3月8日に再びB2111+46を2時間観測しました。その結果、パルサー・ヌリング中に100個以上の信号を観測することに成功し、強度だけでなくパルスの幅も通常のパルス信号とは異なることが改めて明確に示されました。韩氏らはパルサー・ヌリング中に観測されたこの信号を「矮小パルス(dwarf pulse)」と名付けました。

■矮小パルスからパルサー・ヌリングの特性を推定 【▲ 図2: 観測された信号を強度と幅で分けた分布図。矮小パルス (dwarf pulses) は通常のパルス (normal pulses) とは異なる分布域にあることが分かる。 (Image Credit: Chen, et al.)】

【▲ 図2: 観測された信号を強度と幅で分けた分布図。矮小パルス (dwarf pulses) は通常のパルス (normal pulses) とは異なる分布域にあることが分かる(Credit: Chen, et al.)】

興味深いことに、矮小パルスの偏光特性は通常のパルス信号と比べて変化していませんでした。これは少なくとも、パルサー・ヌリングがパルサー周辺磁場の構造変化によって起こるという仮説を否定するものです。一方で、矮小パルスは通常のパルス信号では非常にまれな「スペクトル反転」 (より短い波長の電波で強い放射が発せられる現象) が起こりやすいことも観測されました。

このことから韩氏らは、荷電粒子の生成の一時停止がパルサー・ヌリングの原因であると予測しています。パルサー表面の磁極の近くでは磁場によって周期的に作られる溝の中で膨大な放電現象が発生することで、荷電粒子が周期的に生成されて電波が発生します。これが周期的なパルス信号の発生源だと考えられていますが、古いパルサーでは時々この放電が発生せず、荷電粒子の生成も極めて少なくなってしまうことがあります。この場合、電波はほとんど、または全く発生しないため、遠く離れた私たちには「信号が届かないパルサー・ヌリング」として観測されるというわけです。

パルサー・ヌリング中の矮小パルスの発見は今回が初めてであり、電波の強度と周波数の特性によりFAST以外の電波望遠鏡では観測が困難であることから、これまで見逃されていたのではないかと韩氏らは推定しています。FASTでの矮小パルスの観測も偶然ではあったものの、既にFASTは他のいくつかのパルサーでも矮小パルスのような信号を捉えることに成功しています。観測データが増えれば、今回推定された矮小パルスの発生機構が正しいかどうかの検証もできるようになるでしょう。

 

Source

X. Chen, et al. “Strong and weak pulsar radio emission due to thunderstorms and raindrops of particles in the magnetosphere”. (Nature Astronomy) “中国天眼发现脉冲星辐射新形态——矮脉冲族群”. (中国科学院国家天文台) D. C. Backer. “Pulsar Nulling Phenomena”. (Nature)

文/彩恵りり

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