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初期太陽系の「アルミニウム26」濃度は不均一だった? 古い隕石の年代の再検討が必要な可能性も

sorae.jp / 2023年9月17日 11時6分

初期の太陽系の状態を研究する上で、非常に年代が古い隕石の調査は有効な手段のひとつです。しかし、何十億年もの時間を遡って当時の様子を推定しようとすると、様々な問題や障害が立ちはだかります。

オーストラリア国立大学のEvgenii Krestianinov氏などの研究チームは、年代が古い隕石の1つである「チェック砂砂漠002隕石(エルグ・チェック002、Erg Chech 002、EC 002)」 (※1) の分析結果を発表しました。その目的は、初期太陽系での重要な熱源であり、年代測定の手掛かりとなっているアルミニウムの同位体 (※2) 「アルミニウム26」の推定濃度を他の隕石と比較しながら調査することでした。

分析の結果、初期の太陽系におけるアルミニウム26の濃度はかなり不均一だった可能性が判明しました。この結果は、「アルミニウム26の分布が均一だった」という前提で年代が分析されてきた古い隕石の年代を再検討しなければならないことを示しています。

※1…Ergは砂砂漠 (砂漠という名前から一般的に想像される、砂が主体の砂漠) を意味し、その後に続く番号は発見順や記載順などをもとに付与されます。Erg Chech 002は「チェック砂砂漠の地域で発見された隕石のうち、2番の番号が付与された隕石」という意味になります。

※2…原子核は複数の陽子と中性子で構成されています。同じ数の陽子が含まれている原子核は同じ元素に分類されますが、陽子の数が同じでも中性子の数が異なる場合は、その元素の「同位体」として区別されます。また、異なる元素どうしを比較する場合にも、「核種」という言葉の代わりとして使用されます。

【▲ 図1: チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶 (特に左上側) があることが特徴的な隕石である。 (Image Credit: A. Irving (Public Domain) ) 】

【▲ 図1: チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶 (特に左上側) があることが特徴的な隕石である(Credit: A. Irving (Public Domain))】

■「チェック砂砂漠002隕石」の概要

地球では数多くの隕石が見つかっていますが、そのなかでもかなり興味深い隕石の1つが「チェック砂砂漠002隕石」です。巨大な緑色の輝石結晶が特徴的なこの隕石は、2020年にアルジェリアのチェック砂砂漠(Erg Chech)で発見された隕石の1つです。2021年に発表された研究では、チェック砂砂漠002隕石は約45億年6500万前に固化した安山岩 (※3) であることが分かりました。

この年代は、地球で見つかる最も古い鉱物結晶(約44億400万年前)よりも古く、太陽系が誕生したとされている約45億6730万年前 (±16万年) にかなり近い年代です。現在のところ、チェック砂砂漠002隕石は太陽系で最も古い火成岩 (※3) の1つです。

また、初期の太陽系における標準的な組成の物質を融かして固化させると、安山岩ができることが分かっています。しかし、これまでに見つかった火成岩に分類される隕石のほとんどは玄武岩 (※3) であり、安山岩は非常に珍しく数例しか発見されていません。希少な安山岩の隕石であるチェック砂砂漠002隕石は、誕生したばかりの太陽系に岩石が融けるほどの高温な環境があったことを示す重要な手掛かりなのです。

※3…マグマが冷えて固まった岩石を火成岩と呼びます。火成岩はその成因や成分で様々な分類がありますが、今回の話に限って説明すれば、より金属元素に乏しい火成岩を安山岩、金属元素に富む火成岩を玄武岩と呼びます。

ただし、チェック砂砂漠002隕石の年代は再検討が必要であるとKrestianinov氏らは考えています。上記の2021年の研究とは別に、2022年にはマンガン53の崩壊で生じるクロム53の比率を調べる2つの独立した研究が行われました。2つの研究チームはチェック砂砂漠002隕石が固化した年代を45億6556万年前(±59万年)もしくは46億6666万年前 (±56万年) と推定しており、双方の結果には1億年ものズレがあるからです。

2つの研究で示された古いほうの年代は、チェック砂砂漠002隕石の元となったマグマの中に偶然入り込んだ、より古い年代の岩石による可能性があります。もしもこの予測が正しい場合、チェック砂砂漠002隕石は分析する部分によって異なる年代を示す可能性があるため、より細かな分析が必要になります。

■「アルミニウム26」の概要

初期の太陽系における岩石を融かすほどの熱源には様々な要因(微惑星同士の衝突、重力による分化、太陽放射など)が考えられますが、主要なものとして挙げられるのは「アルミニウム26」の崩壊熱です。

アルミニウム26は半減期70万5000年で崩壊するため、現在の太陽系にはほとんど残っていませんが、太陽系誕生時には豊富に存在していたと考えられており、その崩壊熱が微惑星の主要な熱源の1つになっていたと考えられています。また、アルミニウム26が崩壊すると安定同位体のマグネシウム26に変化するため、マグネシウムの他の同位体との比率をもとに、隕石が岩石として固まった年代を割り出す手掛かりの1つにもなります。

しかし、アルミニウム26とマグネシウムによる年代測定が成立するには、ある前提が必要です。それは「アルミニウム26が初期の太陽系全体で均一に分布しており、他の隕石同士で同位体の比率を補正せずに比較できる」というものです。

太陽系が誕生した当時の詳細には謎が多く、物質がほとんどムラなく均一に分布していたのか、それとも場所によって不均一だったのかはよく分かっていません。そこで、通常の隕石の研究ではアルミニウム26の均一性に依存することを避けるために、他の元素の同位体を分析することで年代測定の確かさを高める手法が取られます。ただ、分析の対象となる元素がサンプルに十分含まれてはおらず、この手法が適用できない場面も多々あります。

古い隕石の年代をアルミニウム26の均一性に依存して測定せざるを得ないというこの問題は、特に太陽系誕生時から一度も変化が起こっていない「コンドライト隕石」と呼ばれるタイプの隕石でよく指摘されています。チェック砂砂漠002隕石のように、全体が融けて均一に混ざっていると推定される「エイコンドライト隕石」と比べて、コンドライト隕石は物質の構成がかなり不均一であり、場所ごとの形成年代もバラバラな傾向にあります。

また、コンドライト隕石の中で最も年代が古いとされる「CAI(Calcium-Aluminium-rich Inclusion)」と呼ばれるタイプの隕石はしばしば詳細な分析が行われますが、CIAは軽い元素が豊富に含まれる一方で、年代測定によく使用されるウランや鉛といった重い元素は不足している傾向があります。そのため、年代が極めて古いと推定される隕石のいくつかは、アルミニウム26が崩壊して生じるマグネシウムだけで年代が推定されているか、アルミニウム26とマグネシウムから推定された年代が精度の低い他の年代測定結果よりも重視される傾向にあります。

■初期太陽系のアルミニウム26は不均一であったと判明

Krestianinov氏などの研究チームは、チェック砂砂漠002隕石の確かな年代を確かめるための詳細な分析を行いました。まず、鉛の同位体比率による年代測定を、チェック砂砂漠002隕石の全体で7回、鉱物結晶の単位で16回(輝石が15回、斜長石が1回)行いました。

その結果、チェック砂砂漠002隕石がマグマから固化した年代は、今から45億6556万年前 (±12万年) であることが分かりました。過去の研究も合わせると、チェック砂砂漠002隕石の元となったマグマが固化した年代は45億6556万年前後で正しいようです。この場合、チェック砂砂漠002隕石は太陽系が誕生したとされる45億6730万年前から174万年後に固化したことになります。

【▲図2: 様々な隕石をアルミニウムの同位体比率 (縦軸) と鉛による年代 (横軸) でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石 (EC002) のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石 (Sahara 99555) の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。 (Image Credit: Evgenii Krestianinov, et al.) 】

【▲図2: 様々な隕石をアルミニウムの同位体比率 (縦軸) と鉛による年代 (横軸) でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石 (EC002) のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石 (Sahara 99555) の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)】

研究チームは次に、チェック砂砂漠002隕石に含まれるアルミニウムと鉛のそれぞれの同位体比率を、同程度に古いと推定される他のエイコンドライト隕石と比較しました。その結果、岩石 (=隕石) がマグマから固化した時に含まれていたアルミニウム26の推定濃度には、最大で4倍もの差が生じていることが分かりました。さらに、アルミニウムと化学的な挙動が関連している他の元素 (※4) の同位体の比率も測定した結果、アルミニウム26の分布が不均一であったらしいという別の角度からの証拠も発見しました。

※4…チタン50、クロム54、ストロンチウム84、および酸素の安定同位体

このためKrestianinov氏らは、アルミニウム26の不均一な分布はエイコンドライト隕石だけでなく、非常に始原的なコンドライト隕石でも同じような傾向にあると推定しています。つまり今回の研究結果は、初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度が相当不均一だった可能性が高いことを示しています。

■古い隕石の “古い年代測定結果” は再検討が必要?

この結果から、Krestianinov氏らは隕石を通じた初期太陽系の分析について再検討が必要だと提言しています。初期の太陽系が時間の経過に応じてどのように変化したのかを知るためには、古い隕石を分析して年代順に並べる必要があります。そしてその年代は、過去の研究で推定された年代を参照している場合がしばしばあります。

現在ほど分析技術が優れていなかった過去の研究では、アルミニウム26以外の方法で年代測定が行われていないことも珍しくありません。前述の通り、この方法のみで年代測定を行うには「アルミニウム26の濃度が太陽系全体でほぼ均一だった」という前提が必要ですが、今回の研究結果はそれを否定しています。

現在では分析技術が進歩しており、わずかな濃度のウランや鉛の同位体比率を利用する、過去には不可能だった年代測定が行えるようになっています。Krestianinov氏らがチェック砂砂漠002隕石を通じて今回の研究が行えたのも、まさにその一例と言えます。このため、他の隕石でも最新の方法を適用すれば、より正しい年代が推定できるようになり、初期太陽系の詳細の理解がさらに進むとKrestianinov氏らは考えています。

 

Source

Evgenii Krestianinov, et al. “Igneous meteorites suggest Aluminium-26 heterogeneity in the early Solar Nebula”. (Nature Communications) Martin Schiller, et al. “Early accretion of protoplanets inferred from a reduced inner solar system 26Al inventory” (Earth and Planetary Science Letters) Jean-Alix Barrat, et al. “A 4,565-My-old andesite from an extinct chondritic protoplanet”. (Proceedings of the National Academy of Sciences) Ke Zhu, et al. “Radiogenic chromium isotope evidence for the earliest planetary volcanism and crust formation in the Solar system”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters) Aryavart Anand, Pascal M. Kruttasch & Klaus Mezger. “53Mn-53Cr chronology and ε54Cr-Δ17O genealogy of Erg Chech 002: The oldest andesite in the solar system”. (Meteoritics & Planetary Science)

文/彩恵りり

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