ダークマター粒子の正体、銀河形成…宇宙の未解決問題を一石二鳥に解決する革新的な検出器
sorae.jp / 2024年4月15日 21時0分
「一石二鳥(two-for-one deal)」ということわざは宇宙に関する未解決問題においても望まれるようです。米国SLAC国立加速器研究所がダークマター(暗黒物質)の探索用に開発した粒子検出器が、2030年代に運用予定のX線プローブ(観測衛星)「Line Emission Mapper(LEM)」に搭載されることが決まりました。銀河周辺物質(CGM: Circumgalactic Medium)や銀河間物質(IGM: Intergalactic Medium)から放射されるX線を正確に計測することが目的だといいます。
【▲ LEMに搭載されるTESをベースにしたエネルギー検出器(Credit: Joshua Fuhrman/ Northwestern University)】 ■銀河形成にとって重要な役割を果たす熱いガスLEMはスミソニアン天体物理観測所、米国航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター、ロッキード・マーティン社が共同で開発中のX線プローブです。LEMのようなプローブクラスのX線観測衛星の開発は、米国国立科学アカデミーが10年毎に発表する天文学や天体物理学に関する評価報告書「Astro2020」においても重点化すべき項目だと評価されています。LEMが実現すれば、銀河から放射されるX線を従来よりも正確にマッピングできるといいます。
関連記事
・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に続く望遠鏡は?米国の10年プログラム「Astro2020」(2022年2月21日)
現代の天体物理学でも未解決の問題は幾つかありますが、そのうちの1つが銀河の形成です。銀河の形成は、星やブラックホールなどが及ぼす影響(フィードバック)や、銀河に流入・流出するガスに依存することが明らかになっており、CGMやIGMといったガスの温度・密度・速度および構成要素を計測することが求められるといいます。
【▲ 銀河周辺物質および流れを示す模式図(Credit:Thomas Cecil, et al. )】関連記事
・ダークマターのない銀河を発見? 銀河形成モデルは新たな展開へと向かうのか(2021年12月17日)
LEMはガスや金属(※天文学ではヘリウムよりも重い元素の総称)から放射されるX線のスペクトルをもとに物質の化学組成などの情報を得ることが可能であり、その観測データは銀河や銀河団などの進化の理解、ひいては宇宙の形成史を「編さん」する上で助けになるのだそうです。
【▲ LEMの模式図(Credit: Ralph Kraft, et al. )】X線の正確な測定に利用されるのは超伝導転移端センサー(Transition Edge Sensor: TES、以下TES)です。超伝導とは臨界温度近くでの少しの温度変化で電気抵抗値が急激に変化する性質のことで、超伝導体の薄膜を温度センサー(マイクロカロリーメーター)として活用することが可能です。
CGMやIGMから放射されるX線は、宇宙線からのエネルギーによる「雑音」を受けるため、約15〜20%のデータが無駄になってしまうのだといいます。TESマイクロカロリーメーターは、こうした雑音とみなされるエネルギーを検出するために使用されます。LEMに搭載されるTESマイクロカロリーメーターはSLACのNoah Kurinsky氏が設計したもので、雑音によるデータの損失を受けることなくX線のスペクトルを計測できるのだといいます。
■ダークマター検出用に開発された装置LEMに搭載予定のTESはもともと、SLACがダークマターの検出用に開発した装置でした。可視光で確認できないダークマターの正体は現在もなお不明で、(冷たい)ダークマター粒子の候補となるWIMPやアクシオンなど未発見の粒子を検出する試みが今も続けられています。こうしたダークマター粒子の候補を検出するために、わずかなエネルギーの変化を検知できるTESが必要だったといいます。
Kurinsky氏によると、宇宙線からのエネルギーを計測する上でTESが満たすべき要件のリストをLEMの研究グループから提供されたものの、自身が設計したセンサーはすでに要件以上の能力を発揮していたのだといいます。同氏は、開発したTESおよびLEMミッションの成功によって、別のミッションと将来連携する道が開かれる可能性について楽観視しており、TESを次世代のガンマ線実験で活用する方法を探っている最中だとしています。
Source
SLAC – SLAC technology designed to detect dark matter could lead to a better understanding of galaxy evolution Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics – Line Emission Mapper X-ray Probe (LEM) National Academies – Pathways to Discovery in Astronomy and Astrophysics for the 2020s S. J. Smith, et al. – Development of the microcalorimeter and anticoincidence detector for the Line Emission Mapper x-ray probe Ralph Kraft, et al. – Line Emission Mapper (LEM): Probing the physics of cosmic ecosystems Thomas Cecil, et al. – Snowmass 2021: Superconducting Sensor Fabrication Capabilities for HEP Science Jason Tumlinson, et al. – The Circumgalactic Medium Line Emission Mapper – LEM — THE FUTURE OF ASTRONOMY Line Emission Mapper – Line Emission Mapper (LEM) – Probing the Physics of Cosmic Ecosystems文/Misato Kadono 編集/sorae編集部
この記事に関連するニュース
-
研究史上最古、37億年前の地磁気の証拠を発見 強度は現在並
sorae.jp / 2024年5月11日 21時16分
-
火星での「サバイバル」は可能? 仏研究グループが「宇宙農業」の可能性を探る火星ローバーを提案
sorae.jp / 2024年5月2日 20時45分
-
ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ
sorae.jp / 2024年5月1日 20時42分
-
ほのかに渦巻く“おとめ座”の矮小銀河「IC 776」 ハッブル宇宙望遠鏡が撮影
sorae.jp / 2024年4月30日 21時33分
-
史上最も明るいガンマ線バーストの正体が「普通の超新星爆発」と判明
sorae.jp / 2024年4月28日 21時3分
ランキング
-
1「5年間の"ポイ活"で645万獲得」主婦の驚く稼ぎ方 稼いだポイントで家族旅行して家もゲット!
東洋経済オンライン / 2024年5月12日 12時0分
-
2「料理に水道水をそのまま使う人」が多い都道府県は? 全国的には約6割が「そのまま使用」
オールアバウト / 2024年5月12日 11時50分
-
3月収50万円のサラリーマンが“月2000万円稼ぐ”までにやった「たった2つのこと」
日刊SPA! / 2024年5月12日 8時53分
-
4“激安焼肉食べ放題店”の元店員が暴露。「客に“得させないようにする”3つのワナ」
日刊SPA! / 2024年5月8日 15時54分
-
5ダイドー「樽缶コーヒー」終売の噂が拡散 担当者「終売の予定はございません」
ねとらぼ / 2024年5月12日 16時47分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください