ベテルギウスの大減光、表面で起きた大規模な質量放出が原因だった可能性
sorae.jp / 2022年8月14日 21時41分
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのAndrea Dupreeさんを筆頭とする研究チームは、2019年から2020年にかけて大幅な減光が観測されたオリオン座の1等星・赤色超巨星「ベテルギウス」に関する新たな研究成果を発表しました。研究チームによると、2年半前に観測された「大減光」は、ベテルギウスの表面から観測史上例のない規模で物質が放出されたために引き起こされた可能性があるようです。
■ベテルギウスの光球から地球の月数個分の質量が放出された可能性ベテルギウスは、もともと約400日周期で明るさが変わる脈動変光星(膨張と収縮を繰り返すことで明るさが変化する変光星の一種)として知られています。ところが、2019年の終わり頃から2020年の初め頃にかけて、明るさが1.65等(Dupreeさんらの論文より)まで暗くなる大減光が観測されました。赤色超巨星はいずれ超新星爆発を起こすと考えられていることから、この大減光はベテルギウスの超新星爆発が差し迫っていることを示す兆候ではないかとして注目を集めました。
今回、「ハッブル」宇宙望遠鏡などの観測データを分析した研究チームは、ベテルギウスの光球(目に見える恒星の表面)で起きた大規模な質量放出によって大減光が引き起こされたと結論付けました。研究チームはこの現象を「表面質量放出(SME:Surface Mass Ejection)」と呼んでいます。研究チームによると、大減光の約1年前にベテルギウスでSMEが発生。地球の月数個分の質量が光球から失われ、表面温度が低下したとみられています。
このSMEは、ベテルギウス内部の対流によって生じた、差し渡し160万km以上のプルーム(上昇流)が原因となった可能性が考えられるようです。SMEで放出されたプラズマは膨張したベテルギウスの大気中を1年近くかけて移動しつつ、温度が下がるにつれて塵の雲を形成。その結果、地球からはベテルギウスの一部が塵に隠されて見えなくなり、大減光が観測されることになったというのです。
恒星は、その質量の一部を星風などの形で日常的に放出しています。太陽も太陽風として少しずつ質量を放出していますし、太陽コロナからプラズマが放出される「コロナ質量放出(CME:Coronal Mass Ejection)」も時折起きています。
いっぽう、質量は太陽の16.5~19倍、直径は太陽の約750倍と推定されている巨大なベテルギウスで起きたSMEでは、太陽の典型的なCMEと比べて4000億倍もの質量が放出されたとみられています。恒星の目に見える表面からこれほど大量の物質が宇宙空間に向けて吹き飛ばされる様子はこれまで観測されたことがないといい、SMEはCMEとは異なる現象の可能性があるといいます。Dupreeさんは「恒星表面からの大規模な質量放出はこれまで見たことがありません」とコメントしています。
SMEの影響は大減光の後も続いているようです。研究チームによれば、大減光後のベテルギウスでは約400日という変光周期が(おそらく一時的に)失われたといいます。Dupreeさんは、周期的な脈動をもたらすベテルギウスの対流セルが、洗濯物のバランスが崩れた洗濯機のようにアンバランスな状態になっているかもしれないと指摘しています。また、ハッブル宇宙望遠鏡などの観測で得られたスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)は、ベテルギウスの外層が元に戻っている可能性を示しているものの、その表面は振動している可能性があるようです(発表では「ゼリーのように」と表現)。
ただし、SMEは必ずしも超新星爆発が差し迫っていることを示す兆候とは限らないといい、ベテルギウスの不安定な振る舞いもまた爆発が近いことの証拠ではないと考えられています。今後も太陽系に近いベテルギウスなどの赤色超巨星の研究を通して、生涯を終えつつある恒星の理解がより深まることが期待されます。
「私たちは星の進化をリアルタイムで目撃しているのです」(Dupreeさん)
Source
Image Credit: NASA, ESA, Elizabeth Wheatley (STScI) NASA - Hubble Sees Red Supergiant Star Betelgeuse Slowly Recovering After Blowing Its Top STScI - Hubble Sees Red Supergiant Star Betelgeuse Slowly Recovering After Blowing Its Top Center for Astrophysics - Hubble Sees Red Supergiant Star Betelgeuse Slowly Recovering after Blowing its Top文/松村武宏
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