有効な節税として知られる退職金は令和3年度改正においてどう変わる?
相談LINE / 2021年4月1日 19時0分
税務上、重要な節税の一つに退職金があります。退職金は、それを支給する法人についても、受給する個人についても税制上優遇されているからです。
支給法人における退職金は、常識的に見て多額でなければ、法人の経費にできるという取扱いになっています。退職金は大きい金額、というイメージが一般的にあると思いますので、退職金はたくさんの金額を経費とすることができます。このため、支給法人の節税に大いに役立ちます。
一方で、受給する個人についても、退職金の税制は非常に優遇されています。退職金の所得税は、勤続年数に応じて計算される多額の退職所得控除が認められるだけでなく、その控除後の金額の2分の1が課税対象になります。加えて、分離課税という有利な制度で課税されますから、所得税を低く抑えることができます。
■役員の退職金の制限
このような優遇措置がありますので、平成24年度改正で、勤続年数が5年以下の役員の退職金については、この2分の1だけ課税対象になる措置(2分の1課税)を適用しないこととされました。勤続年数5年以下の役員、というのは基本的には財務省OBや国税庁OBなどの、キャリア官僚の天下りをイメージしています。こういう特権階級の優遇を許さない、という意味で、法改正がなされた訳です。
■令和3年度改正においては
先日成立した令和3年度改正においては、この2分の1課税について、勤続年数5年以下の「従業員」に対する退職金についても、役員と同様に、制限が加えられることとなりました。この改正は、令和4年分以後の所得税について適用されます。
具体的な改正内容を申し上げますと、従業員についても、退職金から、退職所得控除を控除した金額のうち、300万円を超える部分については、2分の1課税の対象から除くこととされました。このため、上記の役員の退職金と同様に、退職所得控除を控除した満額で課税されることになります。
■対象者はほとんどない?
これだけ聞くと、厳しい改正と思われるかもしれませんが、そもそも5年しか勤めていない従業員に、300万円もの退職金を支給することは多くないと思います。加えて、この300万円も多額の控除が認められる退職所得控除後で判断しますので、基本的にこの改正の対象になる従業員は多くないでしょう。
完全実力主義の外資系企業の従業員などを想定した制度で、その影響はあまり大きくないと考えられます。
■専門家プロフィール
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、著者は賠償責任を負いません。加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。
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