他人の私有する林で勝手に木を伐採し持ち去る“盗伐”が横行。被害者は「泣き寝入りするしかない」現実
日刊SPA! / 2024年4月13日 8時52分
海老原さんが山の異変に気付いたのは2016年8月。海老原さんの家族は現在千葉市に住んでいるが、お盆に帰省し、墓参りでたまたま林地を通りかかった際、母親が「私の山がない」と言い出した。記憶のある土地には、木が1本も見えなかったのだ。
海老原さんは最初何かの間違いではないかと思ったが、母親は「間違いない。ここに私たちの山があった」と言うので、翌日法務局にて地籍図を入手し確認した。すると、間違いなくその場所は母親名義の山林だった。
海老原さんは宮崎市役所や宮崎北警察署に被害の相談に行った。だが、まったく取り合ってもらえなかった。
そこで海老原さんは宮崎市に伐採及び伐採後の造林の届出書、いわゆる伐採届に関する情報公開請求をした。するとそこには15年前に亡くなった父親の署名と捺印があったのだ。
死んだ人の署名と捺印。もちろん偽物だ。明らかな有印私文書偽造、同行使が行われたことになる。これは立派な犯罪だ。
◆被害届を受理しない警察側の本音
海老原さんは宮崎市役所と宮崎北警察署に対して、盗伐や有印私文書偽造で「捜査してほしい」と何度も繰り返し要望し続けたが、両者とも動かなかった。
そこで海老原さんは各報道機関に訴え、記者会見をした。その内容は宮崎の地方紙のほか、全国紙の地方版、そしてテレビニュースでも取り上げられた。
こうした情勢にようやく宮崎北署が重い腰を上げた。海老原さんは約200本の立木があったと主張したが、警察の見分結果は39本。「本数は切り株が目視で確認できたものに限られる」という理屈だった。だが、このような盗伐現場の実況見分は、宮崎県では初めてのことだったという。これだけでも快挙なのだ。
この事件は紆余曲折を経て不起訴になったが、同じ犯人たちによる盗伐事件が3件起訴され、宮崎地裁は2018年3月20日、2人の被告人に対し、それぞれ懲役2年6カ月執行猶予5年、懲役2年6カ月執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。
「盗伐被害者は、盗伐という本件以上に相談窓口で傷つくんです。警察署に足を運んだ被害者を追い返す。警察官が金額を示して示談を勧めてくる。盗伐現場の実況見分をしない。被害届を受理しない。供述調書を捏造する。時効まで捜査を引き延ばす。被害者とともに被害者の会のメンバーが行くと、付き添いを認めない。高齢の被害者を1人だけにしようとするんです」(前出・森林ジャーナリストの田中淳夫さん)
ここまで行くと、「できれば、仕事を増やしたくない」という警察側の本音が透けて見えてしまう。まるで最初からなかったことにしたいみたいだ。盗伐事件は、林業界・材木業界の闇であると同時に、警察・検察など司法の問題点をあぶり出す鏡にもなっている。
【諸岡宏樹】
ほとんどの週刊誌で執筆経験があるノンフィクションライター。別名義でマンガ原作多数。1969年生まれ。三重県出身。近著に『実録 女の性犯罪事件簿』
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