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「人生は唯一無二のストーリー」 W杯で吉田麻也と国歌斉唱、車いすの大学生・持田温紀が描く夢

THE ANSWER / 2024年4月15日 16時34分

パラダンスで日本代表になった持田温紀さん。吉田麻也の言葉を胸にイタリアで開催された世界選手権にも出場した【写真提供:日本パラダンススポーツ協会/吉村もと】

■「中央大サッカー部×パラダンススポーツ選手」持田温紀さんインタビュー後編

 一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)が3月に都内で開催した「UNIVAS AWARDS 2023-24」では、全13部門で学生アスリートや指導者、団体が表彰された。会場には著しい成果をあげた選手や大学スポーツの発展に貢献した受賞者が多く集まったが、この華やかな舞台に2年連続で、しかも異なる部門でノミネートされたのが中央大学4年の持田温紀さんだ。

 高校1年生の時、自転車事故により脊髄を損傷し車いす生活に。4歳の頃から熱中していた大好きなサッカーができなくなり落ち込む時期もあったが、大学進学後、様々な縁もあって中大サッカー部に入部。チームを支える営業担当として創部以来初のユニフォームスポンサー獲得などの活動が評価され、昨年度のUNIVAS AWARDSで「サポーティングスタッフ・オブ・ザ・イヤー」最優秀賞に輝いた。

 全力で大学生活を走り続けてきた持田さんは、昨年3月から今度は“選手”としての挑戦を開始。「パラダンススポーツ」男子フリースタイルの競技を始めると、昨年8月に東京・代々木で行われた国際大会で見事8位入賞を果たし、同11月にイタリア・ジェノバで開催された世界選手権への出場を決めた。後編では日本代表として世界最高峰の大会に初めて臨んで見えたもの、そして様々な奇跡のような体験を通じて「人生は唯一無二のストーリー」であることを実感するなか、今、思い描く自身の将来像を明かした。(取材・文=THE ANSWER編集部・谷沢 直也)

 ◇ ◇ ◇

 2023年11月21日、UAEのドバイ国際空港に降り立った持田さんは運命めいたものを感じていた。1年前の同じ日、この空港で飛行機を乗り継いで向かった先はカタールの首都ドーハ。サッカーのワールドカップ(W杯)現地観戦を前に、胸が高鳴っていた1年前の記憶が鮮明に蘇ってくる。

 そして今回はパラダンススポーツの日本代表選手として、ドバイ国際空港を経由して世界選手権の開催地であるイタリア・ジェノバへ向かう。

 大会に向けて、持田さんは1人の恩人からメッセージをもらっていた。送り主は、サッカー日本代表の吉田麻也(現・LAギャラクシー)だ。

 2022年カタールW杯は、持田さんにとってまさに奇跡の連続だった。グループリーグ第2戦コスタリカ戦の試合前にスタンドでFIFAのスタッフから声をかけられると、選手入場と国歌斉唱セレモニーをピッチ上のタッチライン脇から見ることができた。さらに第3戦のスペイン戦では、日本代表の選手と一緒に入場してピッチ内で整列。君が代が流れる直前、吉田から「一緒に歌おう」と耳元で声をかけられ、肩を組んで国歌斉唱をした姿は、当時大きな話題となった。

 人生で最高の瞬間を与えてくれた日本代表キャプテンに、直接感謝の言葉を伝えたい――。W杯後、そう語っていた持田さんだったが、対面ではないものの、その願いはすでに叶えていた。

「Jリーグの方がワールドカップの出来事を綴った僕のnoteを読んでくださって、昨年のJ30ベストアウォーズにご招待いただいたのをきっかけに、村井さんにもお繋ぎいただき、村井さんがいろいろな記事を読んでくださって、昨年6月に食事に誘っていただいたんです。そうしたら、その席上で村井さんが『せっかくだから麻也と繋ごう』と、その場でLINEのビデオ通話をしてくれて……。でも僕はすごく興奮してしまい、緊張しすぎて『ありがとうございます』くらいしか言えなかったんですけどね(笑)」

 そして昨年11月、持田さんが出場権を獲得したパラダンススポーツ世界選手権の開催地は、奇しくも吉田が2020年から2年半在籍したサンプドリアの本拠地ジェノバ。大会前、村井さんがそうした近況を吉田に伝えると、「どんな競技であっても、日本代表として戦えるのは何よりも素晴らしい仕事。楽しんでください」というメッセージが届いた。


パラアスリート・オブ・ザ・イヤー最優秀賞に輝いた藤原芽花さん(前列中央)。意気投合する持田さん(前列右端)も自分のことのように喜んだ【写真提供:大学スポーツ協会】

■車いす生活になっても「僕は人生のフィールドでサッカーを続けている」

 競技は違えど、日本代表の選手として立った世界選手権の舞台。15人が出場した男子フリースタイルのクラス2で、持田さんは11位という結果を残した。パラダンススポーツを本格的に始めて約9か月。「僕自身、まだまだダンスが下手くそなところはありますが、いろいろな出会いを通して培ってきたものを表現することはできたと感じています」と振り返ると、1年前の時点では予想できない日々を過ごしたことに感謝の言葉を続けた。

「人生って本当に唯一無二のストーリーだなと実感しています。僕自身、これまで1人でできたことは全然なく、いろいろな方との出会いが自分の進むべき道を示してくれました。確かに今の僕は、大好きな緑のフィールドに立ちサッカーをプレーすることができなくなりました。ただ車いすの生活になっても、いろいろな人とのかけがえのない出会いがあり、そうした方々が自分を支えてくれて、パスを出してくれる。そのチャンスを生かせるように、僕自身もドリブルを練習するようにたくさんの努力をします。もちろん、もっとゴールを決めなくてはいけないのですが……(笑)、結局僕って、人生というフィールドの中で多くの方の力を借りながら、今もサッカーを続けているんだろうなと最近感じています」

 そんな持田さんは4月から、中央大学の“5年生”になった。

「単位は取り終えているのですが、この1年ですごくいろいろな可能性が広がって……。ダンスも続けたいし、やっぱりサッカーなどスポーツに関わることで挑戦をしていきたい、夢を描いていきたいという思いが強くなり、もう1年、大学生を続けることにしたんです」

 やるべきことは、たくさんある。持田さんは中大サッカー部の事業本部スタッフ、パラダンススポーツ選手の肩書き以外に「パラ大学祭」運営代表を務めており、この活動にもさらに力を入れていくつもりだ。

「パラ大学祭に僕が初めて参加したのは大学2年生の時でした。いろいろな学生がイベントに関わり青春をしている空間の中に、なんとなく車いすがある感じが見ていてすごく新鮮で、『自分が探していた景色はここに広がっていた』と感じたんです。それがすごく嬉しくて、この景色を作る側になりたい、もっと多くの大学生に届けていきたいと思い、運営に携わるようになりました。

 スポーツは『楽しさを共有できるもの』だと思うんです。僕自身、車いすバスケはできますが、両足で立ってバスケをすることはできません。でも多くの障がいのない方は立ってバスケもできるし、車いすに座ってバスケもできる。じつはパラスポーツのほうが、どのスポーツよりも裾野が広いのではないか。障がいのある、なしを超えて楽しめるスポーツなのではないかという発想から、今は障がいのない多くの大学生に向けてパラスポーツを届けてみたいと思っています。『大学生の運動会イベントがあるよ』くらいの感じで多くの人がパラスポーツに触れて、車いすについて知ってもらいたいんです」

 その言葉どおり、3月には京都でパラ大学祭を開催。今後は全国各地を回って実施していきたいと意欲を見せる。


パラ大学祭の活動にも尽力する持田さん。運営代表としてイベントのさらなる発展を目指している【写真提供:持田温紀】

■W杯出場48か国を巡り「予想を超える景色を掴みにいきたい」

 常に前向きに、新たな挑戦を続ける持田さんだが、今後について問うと「僕はこれまで『夢』は決めてから追いかけていくものだと思っていたのですが……」と切り出し、続ける。

「ワールドカップでの出来事や、イタリアで開催されたパラダンススポーツのワールドチャンピオンシップス(世界選手権)に出場するまでの流れを振り返ると、すべてが予想外の方向へ広がっていったなと感じています。そうした経験を通じて、最近は夢を追いかけているというより、気がついたら夢を描いていたなと感じる部分があって。もちろん、目の前には常に実現したいいくつもの目標はありますが、この先も自分の予想を超えるような様々なことが起こるのではないかと思っています」

 最近、1つの具体的な目標が生まれた。それはサッカーW杯誕生100周年となる2030年大会を前に、出場48か国を巡る世界一周の旅に出ること。

「自分はサッカーを通じて、いろいろな大切なものを得ることができたので、やっぱり大好きなサッカーで新たな挑戦をしていきたい。世界各国での出会いを大切にして、予想を遥かに超える景色を掴みにいきたい、最高に楽しい唯一無二のストーリーを描いていきたいですね」

 笑顔を見せながら、サッカーへの愛情を熱く語った持田さん。48か国を巡る世界一周の旅を実現した先に、誰も予想できない「夢」が広がっている。(THE ANSWER編集部・谷沢 直也 / Naoya Tanizawa)

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