創部124年の北大野球部から初のプロ…西武・宮澤太成が夢を叶えた進化論「人間は適応していく」
THE ANSWER / 2024年5月10日 7時44分
■北大から独立リーグへ…結果を残せず研究した球界の“トレンド”
西武の宮澤太成投手は、昨秋のドラフトで5位指名を受けプロ野球の世界に飛び込んだ。出身は北海道大学。1901年に創部され、124年の歴史を誇る野球部が輩出した初のプロ選手だ。4年生の時に最速151キロまで球速を伸ばしプロ入りの夢を抱いたものの“一浪一留”という経歴に阻まれた。そこで選んだのが独立リーグ。ただそこでも挫折を味わい、シーズン終盤の2カ月で大変身。夢を叶えたのだという。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)
「人間は適応していく生き物だと思います。環境が大事でした」
宮澤にプロ入りまでの歩みを振り返ってもらうと、こんな言葉が口をつく。北大3年の冬に、札幌から東京のトレーニング施設に通うという自己投資で大変身。最速151キロを叩き出すまでに成長した。ただ一浪一留という経歴が災いしてプロ志望届を出すことは叶わず、最短でのプロ入りを目指して独立の四国アイランドリーグ・徳島の門を叩いた。NPBへの選手輩出で見れば、実績は随一。2013年からドラフト指名選手を生み続けている。
ただ新天地で初めて登板した4月1日の香川戦、1回を4安打2四球、3失点と大炎上。上には上がいると思い知らされた。「最初はとにかく球速を上げて、一つだけでも武器があればプロの目につくのかなと思っていました」という考えは、登板のたびに打ち砕かれていった。周りには、150キロを投げる投手もゴロゴロいる。登板機会は減り、夏まで何の実績も残せなかった。
プロへの行き方をもっと突き詰めなければと思ったのはこの頃だ。球界の「トレンド」に乗ろうと思ったのだ。
「150キロ中盤を投げる中継ぎとして見てもらおう、というところまで具体的にイメージしました。プロで活躍している中継ぎに近いものを見せられたら、取りたがってくれるかなと。春にはWBCもあったので、いろんな投手を見ました。ストレートとフォークで目立っている投手が多くて……。それに近いタイプになればいいんだと思ったんです」。頭にあったのは、オリックスの宇田川優希、ソフトバンクの藤井皓哉といった投手の姿。「この2、3年で来ている投手ですよね。その人たちのようになればいいんだと」
■独立リーグで実績残せず夏に…わずか2か月のアピールでプロへ
目指す姿が決まれば、方法を考えるだけだ。「フィジカルの強化が主でした。徳島で自分の周りにいた投手は、阪神に行った椎葉(=剛、ドラフト2位)とか、身体能力が突出していた。キャッチボールをしていても違うんです」。チームメートの強みを研究し、自分のものにしていった。力をボールに伝え切るため、テークバックを小さくするフォーム改造にも取り組んだ。
「このままじゃプロに行けないと思ってからは、本当に全部変えました。カットボールやスライダーの投手だったのを捨てて、スプリットとストレートばかり投げるようになりましたし、文字通り背水の陣でした」。読み通り、8月になって周囲の目が変わってきた。そしてスカウトの高評価を勝ち取るきっかけとなったのが9月11日のソフトバンク3軍戦だ。1回を3人でピシャリ。アウトは全て三振で奪った。直球の最速は155キロに達していた。
たった2カ月のアピールが、プロへの道を開いたことになる。「他人と同じことをしていてもスカウトは見に来てくれない。なんか違うことしていれば『おっ』となるじゃないですか。まずわかりやすい特徴ですよね。時間がなかったので特に」。選手が活動内容を決めていく北大野球部で、うまくなろうともがいたのも生きた。「自由の中でうまくなるのって本当に難しい。サボろうと思えばいくらでもサボれます。でもその中で、自分は仮説を立てて検証する能力を高められました」。自分が動かないと始まらない独立リーグ。必要な能力は共通していた。
夢見たNPBの世界にたどり着いても、驚きばかりだという。「みんな野球がうまいなと思います。本当に技術が高い。ただボールにキレがあるとかの先を行っているんです」。オープン戦では1軍登板も果たした。その先に行く方法もまた、きっちり言葉にして説明してくれた。
「何を評価されて、ライオンズが獲ってくれたのかというところですね。何かが通用すると見てくれたから指名された。僕の場合はそれがストレートであり、スプリット。まずそこをレベルアップさせることが一つ頭にあります。あとは、プロの中継ぎに求められるものを考えることですかね。ワインドアップで投げる場面は中継ぎには少ない。常にクイックで投げられるようにするとか、技術を高めないといけないと思います」
宮澤が身をもって示してきた進化論が正しければ、西武の強力投手陣の中でさらに能力が磨かれるはず。戦力として1軍にやってくる日を、楽しみに待ちたい。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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