ネガティブな「後悔」の感情が人間に必要な理由 私たちの成長を促す"生産的な後悔"とは
東洋経済オンライン / 2023年12月22日 18時0分
なるべくなら後悔のない人生を送りたいと思っている人は多いかもしれません。ですが、アメリカのベストセラー作家、ダニエル・ピンク氏は、「後悔の感情は人間を人間たらしめるものであり、より良い人間に成長するために活かせるものだ」と言います。後悔とどう向き合えばいいのか、ダニエル・ピンク氏の著作『THE POWER OF REGRET 振り返るからこそ、前に進める』から一部抜粋・再構成のうえ、お届けします。
人間は行動するために思考する
人間の行動をテーマにした一般向けの書籍ではほぼことごとく、ウィリアム・ジェームズという人物に言及しているように思える。ジェームズは、19世紀アメリカの博学者。ハーバード大学で教鞭を執り、史上初の心理学の教科書を執筆し、史上初の心理学の講座を担当した。心理学の開祖と位置づけられることも多い。
ジェームズが1890年に著した名著『心理学原理』の第22章では、人間に思考の能力が備わっている理由を論じている。ジェームズいわく、人がどのようにものを考えるか、さらには何を考えるかは、環境に大きく左右されるという。
ジェームズは破壊力満点の言葉を記している。その破壊力は、今日も失われていない。「私の思考は、すべての面において私の行動のためにある」
現代の心理学者たちもこの主張を支持してきた。ただし、ある研究者は、より簡潔にこう述べている。「思考は行動のためにある」。私たちは、生き延びるために行動する。そして、行動するために思考するのである。
一方、感情はもっと複雑だ。感情には、どのような役割があるのか。とりわけ、後悔のように不快な感情は、どんな役割を担っているのか。思考が行動のためにあるとすれば、感情はなんのためにあるのか。
感情は無視すべきもの?
ひとつの考え方は、「感情は無視すべきものである」というものだ。感情はさほど重要ではなく、単に邪魔なだけで、本当に大切なことに神経を集中させる妨げにしかならない、というのである。感情を払いのけ、あるいは忘れてしまうのがいちばんだと、こうした考え方を信奉する人たちは主張する。理性に意識を集中させ、感情を無視すれば、万事うまくいくというわけだ。
しかし、残念ながら、ネガティブな感情をいわば地下室に押し込んだとしても、いずれは地下室の扉を開けて、そこに隠したものと向き合わなくてはならない日が来る。
ある心理セラピストいわく、感情にふたをすると、「心臓病や消化器系の不調、頭痛、不眠、自己免疫不全などの肉体的問題が生じかねない」という。ネガティブな感情を地中に埋めたところで、それが消えてなくなるわけではない。むしろ、その感情が増幅して染み出し、人生という土壌を汚染する。
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