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「カリスマ社長は不要」キーエンス元社長が語る訳 「驚異の高収益・高収入」誇る企業のナゾ初公開

東洋経済オンライン / 2023年12月28日 7時30分

キーエンスで「仕組み化」を徹底し、誰が社長になっても自走する組織を作り上げた佐々木道夫さん(写真:筆者提供)

一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。

その岡本氏が、全メソッドを公開し、累計20万部のベストセラーとなっている『世界最高の話し方』『世界最高の雑談力』に続き、待望の新刊『世界最高の伝え方── 人間関係のモヤモヤ、ストレスがいっきに消える!「伝説の家庭教師」が教える「7つの言い換え」の魔法』がついに発売され、発売たちまち大増刷するなど話題を呼んでいる。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が、謎のベールに包まれてきた高収益企業「キーエンス」について解説する。

謎のベールに包まれてきた高収益企業「キーエンス」

驚異的な年収や業績などから、注目を集める日本屈指の高収益企業「キーエンス」。

【写真でわかる】キーエンスの裏も表も知り尽くす「生き字引」的存在の元社長・佐々木道夫さん

その経営陣がメディアなど表舞台に登場する機会はあまりなく、実態は謎のベールに包まれてきました。

今回、筆者が主宰する「世界最高の話し方の学校」の特別講義にお招きしたのが、10年にわたり、その伝説的企業で社長を務めた佐々木道夫さんです。

目を見張る爆速成長のカギ。

それは「圧倒的な質と量とスピードのコミュニケーション」にありました。

1時間半にわたり、初めて語った「日本最強企業の作り方」。

その濃密な「門外不出」の内容を本邦初!

みなさんにも紹介しましょう。

「父が倒れ、田舎に帰っていたら、就職活動に乗り遅れた」という佐々木さんが、たまたま求人広告を見つけて、キーエンスの前身、リード電機に入社したのは、1982年のことでした。当時は社員80人弱、売り上げは9億円。

そこから、右肩上がりの倍速的な成長を遂げ、今や連結の従業員数は1万580人(2023年3月現在)、売り上げは9224億円(2023年3月期)、そして、社員平均年収は約2300万円と、驚異的な高収益と高収入を実現する超優良企業として、その名をとどろかせています。

その収益性、成長カーブは日本企業の中では図抜けており、たとえば、

・時価総額は約15兆円で、日本企業第4位

・過去25年間の平均成長率は10%超

・営業利益率は54.1%(日本の製造業企業の平均は3.4%)


停滞する日本企業の中にあっては、まさに「奇跡の企業」と言えるでしょう。

裏も表も知り尽くす「生き字引」的存在

佐々木さんは創業者の滝崎武光氏の後を継ぎ、2000年に2代目社長に就任し、2010年までの10年間で、その成長の礎を築きました。

30年にわたりキーエンスに在籍し、まさにその裏も表も知り尽くす「生き字引」と言える存在ですが、これまでメディアへの登場や、セミナーへの登壇など表に出ることは、ほぼありませんでした。

「会社として取材はほとんど受けなかったし、業界団体にも属さなかった」という孤高で、秘密めいた「キーエンス」とはいったい、どんな企業なのでしょうか。

キーエンスはファクトリー・オートメーション(FA)の総合メーカーで、工場内で使われるセンサーやモニターなど、さまざまな機器を企画販売する会社です。

最大の特徴は自社で生産工場を持たず、製造は協力業者などに依頼し、自らはその製品の企画や設計、販売に特化する、いわゆる「ファブレス企業」であること。そして、すべての製品を卸業者を通さず、直販している点です。

「ほかのどの社も作らない付加価値の高い商品を企画開発し、直接販売することで圧倒的な差別化を図る戦略」を進めてきました。

では、何がその強みの源泉なのか。

佐々木さんは「圧倒的な質と量とスピードのコミュニケーション」と言い切ります。そこには5つの「コミュニケーションの仕組み化」がありました。

5つの「コミュニケーションの仕組み化」とは?

① 主客一体の、激密なコミュニケーション

1つ目は「主客一体の、激密なコミュニケーション」です。

主客一体とは主と客人が対等の立場で、お互いに啓発しながらその場や価値を創造することを指しますが、「主=顧客」「客=キーエンス」のセールスパーソンが一体となり、その境目が見えないぐらい濃密にコミュニケーションを重ねる関係性を作り上げるのです。

そのために、圧倒的な密度のコミュニケーションが「仕組み化」されました。

まずは毎日の電話、そして訪問。「営業マンの一日の電話時間件数など、すべて記録に残し、そのコンタクト量を『見える化』しました」。

「営業はやっぱり圧倒的なボリュームです。練習が大好きな人はいないでしょう。でもやっぱり練習しないと、打てないですし、守備もうまくならない。数を重ねることで、できるようになるんです」

その密なコミュニケーションの中で、「お客さんの、何でそれが欲しいかをどんどん掘り下げていく。そこで、表に見える顕在ニーズだけではなくて、お客さんも気づいていない潜在ニーズを発掘できる。思っていたよりはるかにいろんな省力化ができるよね、工程もいらなくなりますよね……となるんです」。

キーエンスといえば、新たに生み出す商品の約7割が「世界初」「業界初」という高付加価値商品が売り物ですが、これこそが、顧客も気づかない潜在需要を掘り起こす「質問力」「顧客取材力」「提案力」をベースにした「激密なコミュニケーションの賜物」というわけです。

「現場でのコミュニケーションに全集中するので、酒席での接待など一切必要ありません」

② 社内コミュニケーションの徹底した仕組み化

こうした最前線での営業を下支えするのが、2つ目の「社内コミュニケーションの徹底した仕組み化」です。

社外のコミュニケーションも濃ければ、社内はそれ以上に濃密。

「営業マンの知識レベルを均一に上げていくための情報共有の仕組みを作りました。まずは顧客の生産ラインの様子を緻密に図式化した『工程ハンドブック』を会社として作成、それを営業の人たちに配布して、事前に、セールス先の現場の状況を学んでもらいます」

さらに、「相手先に出向く前に、セールスパーソンは先輩社員と徹底的に『ロールプレイ』をし、セールストークの練習を重ねる」。

そして、「営業が終われば、その日のうちに、客から吸い上げた情報を『ありのまま報告』して、すべて社内で共有する」という徹底ぶりです。

まさに、抜け漏れの一切ない「過剰なまでの量と質とスピードのコミュニケーション」が日々繰り返されるのです。

強みの「即納」を実現する仕組みは?

キーエンスのもうひとつの強みが「即納」。

「今は多くの企業が在庫を持たない経営を目指していますが、キーエンスは、3~5カ月分は在庫を持って、どんな商品でも、すぐに即納できるようにしておきます。お客さんにとっては在庫を持つデメリットがなくなるので、非常に喜ばれるのです」

「誰よりも顧客のニーズを知り尽くしたセールスパーソンが、痒いところに手が届くきめ細かさで寄り添い、欲しかった商品をすぐに届けてくれる」

まるで「アラジンの魔法のランプ」のような存在が重宝されないわけがありません。それだけの付加価値があるからこそ、「値引きなしでも売れる」のです。

③ 見せて、五感を揺さぶるコミュニケーション

顧客の満足度を高めるためにあらゆる工夫を惜しまない、キーエンスの3つ目の工夫が「見せて、五感を揺さぶるコミュニケーション」です。

口頭で伝えるだけでは、魅力がわかってもらえない

口頭で伝えるだけでは、なかなかその魅力がわかってもらえない。

だから、「できるだけ、カタログではなく、現物のサンプルを持参して、デモを見せ、触って、使ってもらう」。

時には何十キロもあるものを運ぶこともあるそうですが、「カタログでいくら数値を言われてもインパクトは少ない。デモンストレーションで、その便利さ、良さを直感的にわかってもらう」ために、「見せる仕組み」にこだわっているのです。

④ セールスポイントではなく、徹底的なパーチェスポイント(購買側)起点

そして、4つ目の仕組み化が、「セールスポイントではなく、徹底的なパーチェスポイント(購買側)起点」です。

日本の製造業では、「高性能なものを作れば売れる」とばかり、「商品視点のモノづくり」を推し進めてきました。

佐々木さんは、「日本の製造業によくある商品起点の『こんないいもの作りました』アピールは意味がない」と一刀両断。

大事なのは、客にとってのメリットであって、自画自賛のセールストークではないわけです。

だから、「徹底的に購買側(パーチェスポイント)起点に立つ。たとえば、『この商品こんなにいいんです』ではなく、『お宅にこのシステムがあれば、最終段階で目視でやっているところが全部いらなくなりますから、イニシャルコストが2カ月で、回収できますよ』となる。セールスポイントばっかり機関銃のように発射しても当たりません」。

⑤ フラットなコミュニケーション

5つ目は「フラットなコミュニケーション」の仕組み化です。

日本の製造業はいまだトップダウンの風潮が根強いわけですが、「上司と部下も対等に、ついでに客とも対等の立場でコミュニケーションを進めるべきだ」と佐々木さんは熱弁をふるいます。

そのために、古くから、「肩書では呼ばない」「全員さん付け」「敬語ではなく丁寧語」などを奨励してきました。

結果的に、後輩からも積極的に改善提案がされるなど、活発にコミュニケーションが行われるようになったと言います。

自らを「みっちゃんと呼んで」という気さくさ

こうした「仕組み化」を徹底したことで、「誰が社長になっても、自走する組織」を作り上げました。

佐々木さんは「仕組みを作れば、カリスマリーダーなどいらないのです。たった一人の強いリーダーの力に依存するような経営はすぐに行きづまる。経営を脱属人化し、一人一人がリーダーとして自主性を発揮できる企業を作るべき」と説きます。

佐々木さん自身、自らを「みっちゃんと呼んで」というほど、気さくで、親しみやすく、謙虚で決して偉ぶらない。まさに令和のリーダーのあるべき姿を体現しているかのよう。

謎多き日本最強企業の強みの秘訣は、技術でも、DXでもない、「Human to human のコミュニケーション」にあったのです。

岡本 純子:コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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