アドラー『嫌われる勇気』で生じた2つの「誤解」 「トラウマは存在しない」説と「課題の分離」
東洋経済オンライン / 2024年3月26日 19時0分
フロイト・ユングと並ぶ「心理学三大巨頭」の一人で、「自己啓発の父」と呼ばれることもあるオーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー。彼が提唱した「アドラーの心理学」は日本でも人気が高く、たくさんの関連本が出版されています。一方で、よく知られていない部分や、異なる解釈が見られることもあります。
そこでアドラー心理学に関する書籍を多数出版している岩井俊憲さんの解説で、2つの代表的な考え方について検証します(本稿は、岩井さんの編訳『超訳 アドラーの言葉』の一部を抜粋したものです)。
よく聞く2つの考え方の誤解
欧米では、生存中から長く人気のあったアドラーでしたが、日本での人気や知名度は高くありませんでした。それが変わるきっかけとなったのは、前記事でもふれたように『嫌われる勇気』という本でしょう。
【画像で見る】「人間のものの見方・とらえ方は十人十色」であることについて、アドラーは何と教えたでしょうか?
「アドラー心理学」を哲学者と若者の対話形式で解説し、ベストセラーとなります。のちに発刊された『幸せになる勇気』と合わせて、日本国内だけで370万部、全世界で1200万部を超えています。
ただ、「嫌われる勇気」というタイトルにもあるように、人間関係に悩む人、「嫌われる勇気」をもてない人などに、人気を博したような面があります。
これは、日本人の2つの性質が関係しているように思うのです。「同調圧力」と「承認欲求」の2つです。
日本には、「みんなと同じでなければならない」という足並みをそろえることを求められがちな同調圧力が強く、また、「みんなに好かれたい」「嫌われたくない」という承認欲求が強い傾向もあります。
そこに、「嫌われる自由がある」という言葉が刺さったところがあるのではないでしょうか。
ただ、困ったこともあります。
アドラーの名を聞くと、とたんに「トラウマは、存在しない」説と「課題の分離」が初学者から出てくることです。
結論からすれば、この2つは、アドラー心理学のとらえ方として不十分なのです。
トラウマは「ある」
たしかに、アドラーの本には、このように書かれています。
「いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。われわれは自分の経験によるショック―いわゆるトラウマ―に苦しむのではなく、経験の中から目的にかなうものを見つけ出す。自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである」
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