不登校「数を減らす意味ない」慶大教授が語る根拠 ほろ苦い記憶「不登校だった私を救ったもの」
東洋経済オンライン / 2024年4月7日 13時30分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけはありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」(毎週日曜日配信)。第1回のテーマは不登校です。
中学時代の写真が一枚もない
2022年度、全国の小中学校で年間30日以上欠席する「不登校児」の数がおよそ29万9000人と過去最多になった――そんな記事を見つけて、なんとも切なく、ほろ苦い気持ちにかられた。
こんな話をするのもなんだが、わが家には、私の中学時代の写真が一枚もない。いや、記録だけでなく、記憶もかなりあいまいだ。
どうしてかって? 答えは簡単。私が不登校児だったから。
私は母と叔母の2人に育てられた。母はスナックのママ、叔母は小さな会社に勤めていて、帰りがとても遅かった。
小4のころだった。母が働くようになり、夜1人で過ごすこととなった。寂しさと不安がつのったのか、突然、顔や肩にひどいチック症状が出るようになった。母は、落ち着きをなくしたわが子を見て心配になったのだろう。私を店に連れて行くようになった。
夜ふかしをした次の朝は辛い。起きると、学校に行きたくない、とぐずったが、母はあっさりしたもので、「よかよ、休まんね」と言って休ませてくれた。家に1人で子どもを置いていくか。夜ふかしさせても店に連れていくか。究極の2択だったが、母は子どもとの時間を選んだ。
だが、母の優しさは、完全に裏目に出てしまう。学年を追うごとに欠席日数は増え、卒業時には年に40日くらい欠席するようになったのだ。こうして私は、不登校児の仲間入りを果たすことになった。
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