新型やくも、JR西が仕掛けたもう1つのサプライズ 沿線の駅に新たなラウンジ、デザインの秘密
東洋経済オンライン / 2024年4月8日 6時30分
ベンチやモニュメントの制作を担当した多林製作所代表の多林一心氏は「木製の家具を公共の場所で使用する際は、どうやって維持するかが重要」と話す。確かに自由通路のベンチは多くの人が利用しているせいか、すでに汚れや傷が目立つ。磨いても汚れや傷が取れない場合は表面を薄く削るしかないという。
多林氏が手がけた家具はやくもラウンジでも使われている。そのデザインは、新型やくもを連想させる。これらのデザインも川西氏によるものだ。座っているだけで楽しくなるようなデザインで、机にはコンセントが設置されているのもうれしい。出発までのひとときを快適に過ごせそうだ。
当初は通常の待合室となる予定だった。川西氏によれば、新型やくもの乗車体験は点と点を結ぶ線にすぎず、「点や線から面に広げよう」という発想から生まれたものだという。
新型やくもの沿線は日本でもトップクラスに少子高齢化と人口減少が進む地域である。川西氏が新型やくものデザインに着手したとき、JR西日本の社員らと地域共生について対話を重ねた。
社員らから「地域自治体や住民らとどうやって付き合っていいかわからない」という声が多く出たことが川西氏の心に残った。「ローカル線存続の話もそうですが、自治体の想いと鉄道会社の振る舞い方にはいろいろと距離があるように感じます」(川西氏)。
やくも停車駅の多くの駅前は、シャッター商店街であり、コンビニまで2km以上ある駅前もある。「これではやくもがいくら新車になっても快適とはいえない」と川西氏は考えた。「やくもの停車駅では出雲縁結び空港や米子鬼太郎空港に負けない快適性と信頼性を創出したい」。
米子駅では駅舎のリニューアル工事がすでに始まっていたが、川西氏が建設中の図面に赤ペンを入れて、待合室をリデザインした。「かなり無理な工程と予算で、やくもラウンジを追加していただきました」。
鉄道と地域の関係「再構築」の場に
時間的な制約があった米子駅に対し、出雲市駅のやくもラウンジは本格的に取り組むことができた。入室した瞬間に飛び込んでくるのは木製の巨大なベンチ。川西氏の代表作の1つであり、国内外で評価が高い土佐くろしお鉄道中村駅の待合室を想起させる。「やくも号の待ち時間をデザインしなければならないという点では中村駅と共通です」。
出雲市駅のやくもラウンジの開業直前、JR西日本は駅近くにある高校の生徒らを招待し、川西氏がデザインの意図を説明した。電車の待ち時間にはこの場所を自習室として活用してほしい。学生たちが公共空間を行儀よく使っていれば、大人たちもラウンジにふさわしい立ち振る舞いをするようになる。誰もが行儀よく使うことで、公共空間は心地よいものになる。
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