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病を患う光源氏、「再生の旅路」での運命の出会い 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫①

東洋経済オンライン / 2024年4月14日 16時0分

「実際、好き者のあなたのことだ、その入道の遺言を反故(ほご)にしてやろうという魂胆なんだろう」

「それで入道の家のまわりをうろうろしていたのか」と、口々に良清をからかう。

「いや、そうはいっても田舎くさい娘だろうよ。子どもの頃から明石なんて田舎で育って、頭の古い親の言いつけを守っているだけなんてね」

「母親はいい家柄の出らしいよ。きれいな若い女房や、女童たちを、京の身分ある家々からつてを頼ってさがし集めてきて、ぜいたくな育て方をしているそうだ」

「風情のない娘に育ってしまったら、そんなふうに田舎に置いて高望みをしているわけにもいかないからね」

などと口々に話している。

旅寝の経験がない光君は興味を引かれ

「けれどどうして明石の入道は、海の底までなんて深く思い詰めているのだろう。はた目にもうっとうしい話だね」と言う光君は、並々ならぬ関心を抱いたようである。

並外れて風変わりなことにご興味をお持ちになる性分だから、こんな話にも興味を覚えてしまわれるのだろう、とお供の者たちはそれぞれこっそりと思うのだった。

「もう日も暮れてきましたが、ご発作もお起こりにならなくなったようです。さっそくお帰りなさいませ」

とお供の者が言うが、聖が止める。

「物(もの)の怪(け)も憑(つ)いているご様子でございましたから、今晩はやはり静かに加持をなさいまして、明日お帰りになるのがよろしいかと思います」

それももっともなことだと一同は言い、このような旅寝の経験がない光君は興味を引かれ、「それでは明け方に帰るとしよう」と言った。

次の話を読む:4月21日14時配信予定

*小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです

角田 光代:小説家

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