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米大統領選に翻弄される日鉄のUSスチール買収 株主総会で賛成を得たが買収は無事成立するか

東洋経済オンライン / 2024年4月19日 7時30分

買収成立には、反トラスト法(独占禁止法)や、アメリカの安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の認可が必要になる。ただ、日鉄のアメリカでの商売はわずかで、同盟国・日本の企業でもある。本来なら独禁法もCFIUSも障害にはなりにくい。

だが、ともに政府の組織が判断する以上、政治の影響は避けられない。アメリカの一部政治家が日鉄の中国事業を問題視し、日鉄の中国拠点が新疆ウイグル自治区に存在するといった報道も出た。日鉄は即座に「そのような事実はいっさいない」と声明を出す羽目になった。

「冷静に考えるとアメリカに損はない。USSと(USWが)結んでいる労働協約を100%守る。丁寧に説明していけば必ず合意できる」(日鉄の橋本英二会長)

日鉄はロビイストを雇って政治家に働きかけるとともに、USWに対しては現行の労働協約を140%上回る14億ドルの追加投資や、同協約期間内にレイオフや工場閉鎖を行わないといった約束を示すなど、理解を得ようと力を尽くしている。

日鉄とUSSは今年9月末までの買収完了を目指しているが、少なくとも11月の大統領選挙の前に認可が下りる可能性は低いとの見方が大勢だ。

トランプ大統領なら困難に

今後のシナリオはいくつか考えられるが、前提となるのはUSWが矛を収めること。実は、USWの賛同は買収に必須ではない。とはいえ、買収後の経営安定や独禁法・CFIUSの審査への影響を勘案すると強行突破は現実的ではない。

USWの賛同をいかに引き出すか。2026年9月末までの現行労働協約の、その先についても労組への譲歩を示せば可能性はある。USWが支持に回ると、バイデン政権ならば買収への道が開ける。

その場合も「大統領選挙前に当局の認可が下りることは難しい」とアメリカ政治が専門の前嶋和弘・上智大学教授は解説する。トランプ氏に「USWはだまされた」「バイデンがアメリカを売った」と攻撃されかねない。

「アメリカファーストを掲げるトランプ氏が大統領となれば、買収成立は厳しくなる」(前嶋教授)。つまり買収が完了するとしても、バイデン大統領が再選され、落ち着いた頃となる。

買収契約では、2025年6月18日までに規制当局からの許認可を取得できず、USSから契約を解除された場合、日鉄は5億6500万ドルの違約金を支払わなければならない。この時期を過ぎても両社が交渉を継続することはできるので、USSの関心をつなぎ留められるかがカギを握る。

乾坤一擲(けんこんいってき)、海外での巨額買収に乗り出した日鉄。理不尽な政治に屈せず、初志貫徹できるか。

山田 雄大:東洋経済 コラムニスト

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