崖っぷち「イカ王子」民事再生後も目指す再起 窮地が続く東北被災地の水産業を伝え続ける
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 11時0分
東日本大震災から13年たった東北の被災地は深刻な不況に陥っている。その大きな原因は、長らく地域の主要産業だった漁業や水産加工業の経営不振だ。
秋サケやサンマ、スルメイカといった主要魚種は軒並み不漁。岩手県宮古市の水産加工会社「共和水産」もその影響を受け、負債総額約9億1800万円を抱えて2023年10月、民事再生法の適用を申請した。
同社の代表取締役専務・鈴木良太さんは「イカ王子」を名乗り、三陸の水産業復興の旗振り役として知られていた。
だが、スルメイカの記録的な不漁により主力商品であるイカそうめんの原材料費が高騰、資金繰りが急速に悪化した。
「共和水産が民事再生」というニュースは地元岩手の人たちや、東北の水産関係者に衝撃を与えたのみならず、「イカ王子」としての知名度ゆえ全国的にも大きな話題となった。
都会に憧れた若いころ
かつて「世界三大漁場」の一つとも言われた三陸漁場は、冷たい親潮と暖かい親潮がぶつかり、北方と南方の両方の魚種が豊富に水揚げされる漁場として知られ、宮古港は江戸時代から栄えた歴史を持つ。
そんな港町・宮古で鈴木さんの父親とその兄が共和水産を創業したのは1985年。大量に水揚げされるイカやサケを魚市場で買い付けて下処理をし、消費者がすぐに食べられる加工品を製造してきた。
後に主力商品となるイカそうめんを筆頭に、多いときにはイカの加工品を40種類近く手がけ、イカを使った商品が売り上げの9割ほどを占めていた。
男ばかり4人兄弟の三男である鈴木さん。子どものころは「キラキラした都会」に憧れ、ファストフードも全国チェーンのコンビニもない地元を卑下する典型的な地方出身の若者だった。
「イカなんてキラキラしてないし、ダサい。地元で働くことも会社を継ぐことも考えていませんでした」
仙台の大学に進学したものの、都会の遊びを満喫し過ぎて2年で中退。
東北最大の歓楽街・国分町のダイニングバーでアルバイトを始めると、客引きや接客で営業センスが開花し、社員に昇格。元来、食や料理が好きだったこともあって飲食の仕事は天職と感じた。
耳や鼻のピアスに金髪、という鈴木さんのいでたちに、親戚や宮古の人たちは「仙台でホストになったらしい」と噂した。
Uターン、そして東日本大震災
一生、都会の夜の街で働くつもりだったという鈴木さんの転機は23歳のとき。両親が仙台まで来て「会社を継いでほしい」と頭を下げた。大学を中退した申し訳なさもあり、しぶしぶUターンを決めた。
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