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社歴を重ねた実務家社長が戦略で暴走する理由 「既存事業のテコ入れ策」ばかり見えすぎる罠

東洋経済オンライン / 2024年5月2日 10時30分

社歴を重ねた社長が経営戦略をしくじってしまうのはなぜでしょうか(写真:8x10/PIXTA)

社歴を重ね、自社の製品、顧客、組織に詳しい社長は、部下に安心感を与えるかもしれない。しかし、そうした社長の戦略が暴走する事例は後を絶たない。

30年に及ぶ研究を通じて、社業に精通した実務家たちが経営戦略をしくじる様を見続けた神戸大学の三品教授は、「戦略に必要なのは、構図、意図、潮目など、目に見えないものを視る力」だと指摘する。

それが意味するところとは何か。実務家のために書かれた教科書『実戦のための経営戦略論』から紹介しよう。

社歴を重ねるだけではなぜ足りないのか

百戦錬磨の実務家に本当に教科書などいるのかと疑う方もいるかもしれません。

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しかし、私が2000年代に送り出した本を見ていただくとわかるように、社員の働きを稼ぎに換えることに失敗してきたのは、社業に精通した実務家たちです。

彼らは強欲でもなければ、不実でもないのに、経営戦略をしくじりました。

なぜ、社歴を重ねるだけでは足りないのでしょうか。経験を積めば確かに製品、顧客、組織に詳しくなりますが、戦略に必要なのは、構図、意図、潮目など、目に見えないものを視る力です。

数十年の経験を狭い社業で積み上げても、こうした力はなかなか身につきません。

メディアのキャンペーンに対する免疫も同様です。

かつてのFA(ファクトリー・オートメーション)や直近のDX(デジタル・トランスフォーメーション)など、「やったほうがよい」案件に資源を配分する傍らで、「やらなければならない」案件がなおざりになると、戦略は空を切ります。

実際に空を切る戦略が少なくないのは、免疫不全のなせる業にほかなりません。

経営戦略は未来に立ち向かうもの

過去バイアスも気になります。

経営戦略は未来に向かって打つものなのに、社歴の長い経営者は過去に立ち返ってしまうのです。

社業に精通すればするほど、既存事業のテコ入れ策が見えてしまい、前任者たちが犯した間違いを修正するほうが、早く株主に喜んでもらえると考えるのでしょうか。

だとすれば、未来に立ち向かう経営をしていないと指摘されても、反論できません。

分業体制に組み込まれて仕事をする人たちには、経営や戦略の経験学習を積む機会がほとんどないので、座学を積まない限り無免許で経営することになってしまいます。

それではまずいと考え、本書を送り出すこととしました。

水面下の壮絶な駆け引き

このところ将棋観戦が格段に面白くなりました。

セミプロのユーチューバーたちが、棋譜に現れなかったシナリオを終局後に解説してくれるので、水面下の駆け引きが観戦者にもわかるようになったのです。

彼らがあぶり出した光景は、壮絶な格闘技以外の何物でもありません。

経営も同じです。大正製薬の上原正吉は次のように語っています。

商売は戦いである。ただ、この戦いは進行がきわめて緩慢だから、なかなか戦っているという実感を持ちえない人が多い。(中略)じりじりと本人たちの気づかぬままに進行し(中略)きわめて深刻な勝負がつく。

戦略は、競合や顧客に知られると不都合なことが多いため、どうしても水面下に潜りますが、それを推し量って部外者に理解できるようにしないと、戦略論にはなりません。

推量は外れるリスクと背中合わせですが、水面下の戦いから学ぶには、取るに値するリスクでしょう。「実戦」は、こうした水面下の駆け引きを主体とする点で、水面上の「実践」と大きく異なります。

戦略と似て非なる概念に管理があります。

ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチは、戦略は“do the right thing”、管理は“do everything right” を使命とすると、ハーバード大学のMBA在学生に向かって1985年に説きました。

「戦略」と「管理」の違い

戦略は事業のツボを外してはダメ、管理は部下のミスを逃してはダメということです。

それに続くオチは、管理ができる人材は掃いて捨てるほどいる、戦略ができる人材は虫眼鏡で探さないと見つからない、でした。

ウェルチが主張したとおり「戦略」と「管理」は異なるタイプの人を要するとしたら、管理者として才を発揮した人のなかから経営者を選ぶと「経営」は「運営」に化けてしまい、戦略は機能不全に陥ります。

そこで、本書では「経営戦略の実戦」と「運営管理の実践」を厳密に区別します。皆さんには、運営管理の達人になってしまう前に戦略を学びなおしてほしいのです。

戦略と言えば「一呼吸おいて少し頭を働かせた意思決定」程度の軽い用例が目立つなかで、本書では経営戦略を限定的に定義します。

経営戦略の定義

次の定義にそぐわない打ち手は、すべて戦術と見なしてください。

経営戦略=限られた経営資源の非可逆、非可分、非合理な配分

定義中の経営資源とは、ヒトとカネのことです。モノや情報を含める人もいますが、モノはカネで買えます。情報は共用・共有するもので、配分できません。

次に「配分」にかかる修飾句ですが、人員の配置と予算の配分を決めれば何でも戦略になるかと言えば、違います。いつでも元に戻せる可逆な配分や、小出しにできる可分な配分、そして誰から見ても合理的な配分では、同業他社に決定的な差をつけることなどできません。

ちなみに、「非合理」は常人の「理性や知性を越える」という意味で、道理や理屈に従わない「不合理」とは区別します。

さらに、本書では、戦略の「成功」を10年から25年の超長期で捉えます。

超長期で戦略を見極める

短期の成果に引きずられると「これも戦略、あれも戦略」となってしまいますが、超長期で成否を見極めれば、「これが戦略」という決定版が浮かび上がってくるのです。

上記の「経営戦略」の定義は、超長期の視座を前提とすることに注意してください。

最後に、基本フレームワークを掲げておきます。

業績は、ノイズの影響を受け、管理ミスに足を引っ張られますが、基調は需要や供給を左右する外部環境によって決まります。

もちろん、外部環境に翻弄されてばかりでは能がありません。

それゆえ、外部環境と業績数値の間に介在する経営戦略が、脚光を浴びるのです。

その戦略は長いプロセスで、最上流の時機読解を日々の作業とし、論理立てを経て、資源配分に結実します。

三品 和広:神戸大学大学院教授

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