ホテルメッツ「駅近」以外のこんなにもある"魅力" ビジホ高騰のなか、快適性を追求して高評価
東洋経済オンライン / 2024年5月16日 12時30分
男性はもちろん、昨今は女性や外国人観光客など、多くの人が利用しているビジネスホテル。各ホテルはそれぞれに、代名詞とも言えるサービスや設備を持っている。けれど昨今のホテル選びでは価格ばかりが注目され、提供側がこだわっているポイントにはスポットライトが当たっていないこともしばしばだ。
この連載、「ビジネスホテル、言われてみればよく知らない話」では、各ビジネスホテルの代名詞的なサービス・設備を紹介。さらにその奥にある、経営哲学や歴史、ホスピタリティまでを紐解いていく。第10回は、JR東日本ホテルメッツ(以下、ホテルメッツ)の「駅近」以外の魅力や地道な改善をフックに、ブランド理念や経営姿勢を深掘りする。
1泊1万5000円~、価格は平均的でも好調
ホテルメッツが好調だ。全国の客室平均稼働率76.6%(※月刊ホテレス『全国ホテル客室稼働率』2024年3月速報より)に対して、同グループは9割をキープ。うち4割を女性、3割を会員が占める。選ばれる一番のポイントは、親会社であるJR東日本が持つ土地を活かした「駅から徒歩3分以内」の立地にある。
【画像】とにかく綺麗で快適!「ホテルメッツ」の外観や客室の様子を見る(12枚)
だが、駅近だけならホテルはほかにもある。宿泊価格の差だと思われるかもしれないが、1泊1万5000円~3万円程度と、現在の潮流からいうと平均的だ。高稼働の裏には、ほかにもなにかあるはず。そう思って宿泊者のクチコミを見ると、2つのキーワードが頻出していることに気づいた。「綺麗」と「清潔感があった」だ。清掃が行き届いていることが、リピートにつながっているのだろうか。
ホテルメッツ全30ホテルのうち、25ホテルを運営する日本ホテル(株)の企画・開発グループ リーダーの堀田幸助氏と、マーケティング・営業戦略グループ統括支配人 斎藤陽介氏に話を聞いた。
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「清掃を100%子会社が担っており、ホテルスタッフと清掃チーフの連携が密だからではないでしょうか」。客室へのクチコミの要因を聞くと、開口一番、斎藤氏はこう述べた。衛生面に関するゲストの声をフィードバックするミーティングを毎朝行い、情報共有をして適宜改善を図っているという。
客室を「掃除しやすくする」改善
さらにもう1点、と斎藤氏が心当たりとして挙げたのが、ゆとりを持って清掃できる環境作りだ。廊下の清掃はロボット掃除機に任せるなど、DXで手間を減らすと同時に、「掃除しやすい客室への工夫」もなされている。
たとえば、ホテル客室によく飾られているアートは、埃が溜まりやすいため排除。ベッド下は30センチの空洞があるため掃除機がかけやすく、忘れ物のチェックがしやすい。重ねて、空洞の分一般的なものより軽く、位置がずれていた際に戻しやすい利点もある。
また、客室内に設置義務のある定款や備品は極力減らし、置いたとしても表には出さない。引き出しなどに収納することで埃を防ぎ、卓上の掃除もしやすくしているのだ。カーテンはグレーほか、万一汚れても目立たない色味をセレクトしている。
一つひとつは小さなことかもしれないが、その積み重ねが、すみずみまで丁寧な清掃をする時間を生み出しているのだ。
加えて、客室タイプごとに、備品の設置場所や清掃手順を記したマニュアルもある。その内容は、「シャンプーとリンス容器は洗った後、この順番に並べる」「ハンガーは拭いてから、右の壁側に寄せる」など具体的だ。そのため、清掃スタッフが誰であっても、地域によっては多い外国人スタッフであっても、同クオリティの清潔を担保しやすい。
さらにマニュアルには、清掃漏れを防ぐインスペクション(視認)について、「どこをどう見るべきか」の記載も詳しくなされている。斎藤氏は、「冷蔵庫の裏など目立たないところまで確認し、汚れていてがっかりされない仕上がりを目指しています」と語る。
清掃はサービスの一丁目一番地
一方で清潔の維持には、1ホテルに13~14人、スタッフの約8割に及ぶ社員比率と、教育体制も大きく関係している。社員向けの清掃研修が定期的に行われ、新入社員にも、「サービスの一丁目一番地」と定めて最初に清掃教育を実施しているという。そのひとつで象徴的なのが、客室清掃の検収と、宿泊をしてみる研修だ。
【2024年5月16日13時35分追記】初出時、研修の内容などに誤りがあり、一部文言を修正しました。
研修の狙いについて斎藤氏は、「汚れたリネンを剥がしたり、水を含んで重くなったタオルを運ぶことで、清掃の大変さを実感してもらえます。現場に出たとき、その経験を持って清掃スタッフと話すことで理解しあえ、具体的な改善策も生み出せるのです」と説明する。
つまり、社員が清掃を「自分ごと化」して考えられるようにしているのだ。
加えて、2024年からは社員に等級を設け、ステージごとの育成プログラムをスタートしている。
プログラムには、経営理念のトップに掲げる「お客さま満足の向上」と、「7essence」と呼ばれる行動指針を落とし込み、「誰が何をやるのか」「どうステップアップしていけば昇進できるのか」など、業務に取り組む姿勢と考え方をより具体的に教えている。そしてその中でも、清掃への比重は重いそうだ。
と、ここまで清掃への取り組みについて聞いてきたのだが、実はホテルメッツがサービスにおいて第一義としているのは、清潔ではない。同ホテルのブランドコンセプトは、「上質が息づく」。いささか抽象的だがその意味するところを堀田氏は、「飾らず上質で、どうしたら我が家のようにくつろげるかを追求すること。快適性を最優先するということです。清掃はあくまでそこに付随するものなんです」と強調する。いったいどういうことなのか。
たとえば、掃除機がかけやすく、軽量化にもなっているベッド下の空洞は、「スーツケースを収納して客室を広く使ってもらいたい」という狙いがまず先にあって作られたものだそうだ。同様に、客室内に設置義務のある定款や備品を極力減らしているのも、そもそもは、ゲストの居心地を考えた結果。それらの改善の際に、「清掃しやすさへの工夫」が後付けで考えられているのだ。
快適性を追求する姿勢は、客室設計にも表れている。ホテルメッツの客室の標準サイズはシングル約15㎡~と、旅館業法基準である9㎡よりも広めだ。余計な物がなくすっきりとしたレイアウトのため、実際以上にゆったりと感じられる相乗効果もある。しかも、「改装のたびに快適性に基づいて見直すため、新しいホテルは、どんどんシンプルになっています」と堀田氏。「ブランドとしての統一感はないかもしれませんが、『上質が息づく』というコンセプトをぶれずに追求しています」と微笑む。
そんな客室に設置するのは、独立型のコイルが体荷重にフィットしてしなり、自然で快適な寝姿勢を保てるシモンズベッド。ゆとりのある140cm幅は、他社ではシングルではなくセミダブルに位置付けられることもあるサイズだ。
「上質が息づく、のひとつ上の上質」
ホテルメッツには2024年3月、「プレミア」という新ブランドのホテルが誕生している。『JR東日本ホテルメッツ プレミア 幕張豊砂』だ。そのコンセプトは、「上質が息づく、のひとつ上の上質」。上質の上の上質、とはどんな内容なのか。
たとえば客室は、全室洗い場付きのバスルームを備えており、マッサージクッション、肌に負担が少なく、汚れをしっかりと洗い流せる「リファ」のシャワー、髪を傷めずにツヤを与える「ダイソン」のヘアドライヤーなど高機能アイテムを設置する。GABA、L-テアニン、ヘンプシードエキスなどのリラックスサポート成分を配合したドリンクや、睡眠の質とすっきりとした目覚めをサポートするチョコレートなども無料設置している。
朝食は、千葉県の郷土料理「さんが焼き」、自家製クラムチャウダーなど、地元食材や旬素材を使用した料理を含め、約70種類の和洋食が並ぶモーニングビュッフェ。アメニティには、通常のホテルメッツのラインナップに加えて、女性にうれしいシートマスクも……。
つまり、より一層の快適性が約束された空間なのだ。プレミアブランドは今後増やしていく予定で、7月には5ホテルのリブランドが決まっている。
「自分ごと化」でクオリティを守る
このプレミアブランド、そしてホテルメッツ、両方に通底するのは、ゲストの快適性の追求と、そこに付随する掃除しやすさへの工夫だろう。そしてどちらも、清掃を「自分ごと化」する社員の目で日々インスペクションが行われ、清潔のクオリティが守られている。
90%という高稼働の理由と、ホテルメッツのコンセプトである「上質が息づく」の真価が見えてきた。後編では、宿泊者も気づかぬ「地道すぎる改善」から、ホテルメッツの経営姿勢に迫る。
笹間 聖子:フリーライター・編集者
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