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潜水艦のシンボル“長~い潜望鏡”が消滅!? どう索敵するのか 海自の新鋭「たいげい」で世紀の大転換?

乗りものニュース / 2024年4月24日 18時12分

2022年の国際観艦式に参加した海上自衛隊の潜水艦「たいげい」。2024年3月から試験潜水艦に種別変更となった。セイルからは潜望鏡のほか、シュノーケルや通信アンテナ、水上レーダーなどが延びている(月刊PANZER編集部撮影)。

潜水艦の象徴でもある潜望鏡が、その姿を変えています。艦を貫く大きな長い筒が、海上自衛隊の新鋭艦「たいげい」では見られないのです。非貫通式と呼ばれるタイプへアップデートしたためですが、具体的にどういうことでしょうか。

潜望鏡の仕組み

「潜望鏡上げ!」
 
 潜水艦といえば潜望鏡です。潜水艦内の発令所には大きな筒が上下に貫通しており、艦長が取り付いてクルクル回しながら覗いているシーンは映画などでもお馴染みです。しかし海上自衛隊の潜水艦「たいげい」の発令所はちょっと違います。部屋の真ん中にあるはずの大きな筒が無いのです。

 とはいえ潜望鏡が無いわけではありません。「たいげい」は2022年3月に就役し、2024年3月8日に試験潜水艦に種別変更となった最新艦で、非貫通式と呼ばれる潜望鏡だけを装備した最初の潜水艦なのです。

 潜水艦は窓が無く、操縦席からも外が見えない珍しい乗りものです。窓があったとしても海中は真っ暗で何も見えません。潜航中は海図と慣性航法装置で自艦の位置を把握するほか、音波の反射を利用して航行する海底追随航法を用います。

 戦闘ではソナーで目標を発見しても、本当に敵なのかを確認する視覚情報が重要です。その視覚を提供する唯一の手段が潜望鏡なのです。

 振り返ると、潜望鏡は1888年9月に進水したフランスの潜水艦「ジムノート」に初めて装備されました。しかし船郭を貫く潜望鏡は防水が難しく、浸水が多くてほとんど使い物になりませんでした。

 潜望鏡はプリズムとレンズを組み合わせ、対物レンズへの入射光を屈折・反射させて接眼レンズへ届ける光学式が長く使われています。長いほど深い深度で使えますが、構造的に筒状で折り曲げられません。曲げられない長い筒を船体に収納するには縦の嵩が必要になり、設置場所は限定されます。発令所の場所も潜望鏡によって決まることになります。つまり、潜望鏡が潜水艦設計の制約条件のひとつになっていました。

「たいげい」採用の非貫通式とは

 また、外殻からセイル下の内郭にある指令室まで貫通する筒なので、「ジムノート」みたいにならないよう水圧に耐える防水技術が必要です。潜水艦の品質指標のひとつに潜望鏡の筒から漏れ伝ってくる浸水量があり、ある映画では日本海軍の潜水艦に便乗したドイツ海軍将校が潜望鏡の水漏れの多さに愚痴を言うというシーンが描かれています。実際ドイツ潜水艦は日本潜水艦より漏水量は少なかったようです。

 潜望鏡は潜航中の潜水艦が海上の視界を得る手段ですが、逆にいえば海面に突き出た潜望鏡は、潜水艦が見つかる被探知リスクにもなります。潜望鏡を出している時間は短いほど良いのです。そのため上下させる時間を短縮し、肉眼で限られた視野しかない潜望鏡をグルグル回して捜索し、目標を素早く発見、識別してさっと潜望鏡を引っ込められるような練度も必要になります。

 光学式潜望鏡のこうした扱いにくさを解決したのが非貫通式潜望鏡です。デジタルカメラからの映像を電子的に伝送してディスプレイに映し出す仕組みなので、非貫通式という呼称のとおり船郭を貫通する長い筒は必要ありません。配線で自由に接続できるためセイルの縦の嵩も必要なく、発令所の位置も潜望鏡に制約されないので、設計の自由度が増します。

 また被探知のリスクも軽減できます。光学式の大きな筒を何重もの防水パッキンの中で動かすより、小さなカメラ付きの棒を上下させる方が作動時間は短くできます。また覗いている1人だけの目ではなく、各ディスプレイの映像を共有することにより複数の目で同時確認ができ、見落としも防げます。もちろん録画も可能です。

 ほかにも光学式では夜間、目を慣らすため発令所内の照明は減光しなければなりませんでしたが、非貫通式では不要になりました。

海自は時代遅れだったのか?

 このように非貫通式は良いこと尽くめですが、海自の潜水艦のほとんどは光学式潜望鏡を2本装備していました。2005(平成17)年から建造が始まったそうりゅう型になって初めて、うち1本が非貫通式になりました。

 2本とも非貫通式になったのはたいげい型が最初ですが、必ずしも新しい技術を取り入れるのが遅かったわけではありません。潜水艦は信頼性、安全性が最優先で、長い実績があり品質が安定している光学式と、使い勝手は良いものの実績の浅い非貫通式の両者を慎重に比較検証する必要があったのです。

「たいげい」は「デジタル化潜水艦」ともいわれます。様々なタスクはアプリケーションで処理されており、アップデートが容易になっています。また発令所に並んだコントロールパネルは操舵と機関系以外はマルチディスプレイ化(UID)され、どのコントロールパネルでも任意の作業(ソナー、航法、兵装制御など)が行える汎用性があります。従来の潜水艦は外の様子や自艦の状態を把握できるのは発令所のみだったのですが、「たいげい」では艦内各所にディスプレイやプラグイン端末が設置され、乗員間で情報共有がしやすくなっています。

「潜望鏡上げ!」という号令を掛け、潜望鏡を覗いて外の様子を見られるのは、基本的に潜水艦艦内でも艦長以下の一部の幹部だけであり、全ての状況を把握しているという矜持と責任があります。その象徴のひとつが姿を変えたというのは、1世紀以上に渡る潜水艦の歴史でも実は大きなことなのかもしれません。

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