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【政界】国会で憲法改正論議に進展の機運 岸田首相に立ちはだかる公明党の壁

財界オンライン / 2021年12月10日 11時30分

イラスト・山田紳

※2021年12月8日時点

停滞していた憲法改正論議が再び動き出しそうな気配だ。先の衆院選で議席を大きく伸ばした日本維新の会は、国民民主党と組んで国会の憲法審査会の活性化を唱える。そうなると、これまで議論のテーブルに着こうとしなかった立憲民主党や共産党だけでなく、改憲に慎重な公明党の立場も苦しくなり、自民党と溝が生じかねない。2022年夏の参院選をにらんだ各党の駆け引きはすでに始まっている。

1日で100万円

 議論に火をつけたのは衆院選で初当選した維新の小野泰輔(比例代表東京ブロック、元熊本県副知事)だった。11月12日、「国会の常識、世間の非常識」と題する記事をSNS(ネット交流サービス)で発信。10月31日に当選したのに同月分の文書通信交通滞在費(文通費)100万円が満額支給されるのはおかしいと指摘し、「国民の常識に近い形(日割り支給)にしていきたい」と訴えたのだ。

 維新副代表で大阪府知事の吉村洋文がそれをツイッターで拡散するとすぐに話題になり、マスコミが飛びついた。代表で大阪市長の松井一郎も「仕事してないんだから、もらうのはおかしい」と呼応し、「自民党から共産党まで、おかしいと思わないのがおかしい」と他党を批判した。

 議員の「身を切る改革」を掲げる維新にとっては、まさに面目躍如といったところだ。しかし、実は文通費は決して新しい問題ではない。共産党書記局長の小池晃は記者会見で「国会でも抜本的な見直しを繰り返し主張してきた」と維新に反論。

 党として文通費を共同管理し使途を公開していると説明した。しかも、吉村は2015年10月1日に衆院議員を辞職した際、同月分の文通費を満額受け取っていたことが明らかになり、「ブーメランが刺さったことは反省する」と釈明に追われた。ほめられたものではない。

 とはいえ、文通費がここまで世間の注目を集めたのは、維新の発信力の強さゆえだろう。衆院選で有権者の不満をうまくすくい取ったことが、公示前の11議席から41議席へのほぼ4倍増につながった。当然、国会での存在感は増す。

 いかにもポピュリズム的な維新のやり方を内心苦々しく思いつつ、座視するわけにはいかなくなった自民党など他党は競うように制度改正を主張し始めた。文通費を日割り支給に変更する歳費法改正が12月の臨時国会で実現する見通しで、維新は早くも得点を稼いだ。自民党の幹事長経験者は「維新はやり方がうまい」と舌を巻く。

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もう「ゆ党」ではない

 地域政党「大阪維新の会」を母体に地元大阪で圧倒的な強さを誇る維新は「全国政党化」が長年の懸案だ。今回、小選挙区で得た16議席のうち15議席は大阪府、1議席は兵庫県。兵庫6区は維新が大阪以外で初めて勝った小選挙区だ。首都圏で勝ち抜くにはまだ地力が足りない。

 一方、比例代表では全国で803万票を集め、709万票の公明党をしのいで「第3党」に躍り出た。その結果、北海道を除く10ブロックで議席を獲得。全国展開の足場を築いたと言っていい。

 看板政策の大阪都構想を巡る住民投票で2回つまずきながらも、吉村、松井のツートップで大阪府政と大阪市政を運営してきた維新は政権担当能力を有権者から認知されつつある。そこが立憲民主党との大きな違いだ。衆院選で立憲、共産など野党5党の共闘を是としなかった政権批判票は維新に流れ込んだ。

 維新の台頭は野党の枠組みにも変化をもたらす。共産党との選挙協力でもともと立憲と温度差があった国民民主党は、衆院選後に早速、維新に接近。11月9日に両党の幹事長、国会対策委員長が会談し、国会で連携していくことで合意した。

 両党は衆院で計52議席を占め、予算措置を伴う法案を提出可能になる。共同記者会見で維新幹事長の馬場伸幸は「与野党もたれ合いの国会を大改革していく。両党で合意できる法案を共同提出する」と意欲を示した。

 自民党の安倍晋三、菅義偉両首相経験者との近さから「ゆ党」「与党の補完勢力」と揶揄されることもあった維新だが、勢力拡大に伴い「第三極」路線にかじを切り始めた。それは次の参院選を見据えた戦術にほかならない。

 維新、国民両党は臨時国会でまず、国会議員の歳費を2割削減する法案と、揮発油税などの一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除法案を提出する方針だ。

 トリガー条項とは、ガソリンの全国平均小売価格が3カ月連続で1㍑当たり160円を超えた場合、揮発油税の上乗せ分25・1円の課税を停止し、価格を引き下げる措置だ。旧民主党政権が導入した後、東日本大震災の復興財源を確保するため現在は凍結されている。

 ガソリン価格高騰対策は政府の喫緊の課題だ。しかし、トリガー条項の凍結解除について官房長官の松野博一は「発動された場合、ガソリンの買い控えや、その反動による流通の混乱、国、地方の財政への多大な影響などの問題があり、凍結解除は適当ではない」と一蹴。政府・与党内に解除賛成論は皆無で、維新、国民両党が法案を出しても成立の見込みはない。

 ただ、ガソリン価格は国民生活に直結する。政府が打ち出した石油元売り業者への補助金支出は専門家の評価が分かれているだけに、両党が凍結解除法案をうまくアピールすれば、世論を味方につけることができるかもしれない。

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「推進」から「実現」へ

 もう一つ注目すべきは憲法改正だ。維新、国民両党の幹事長・国対委員長会談では、衆参両院の憲法審査会を毎週開催するよう与党に求めることでも一致した。

 野党は長く「安倍政権下での憲法改正は認めない」と抵抗し、改憲手続きに関する改正国民投票法は今年の通常国会で、9国会目でようやく成立した。しかし、国民民主党が改憲に前向きな姿勢に転じたことで、改憲勢力は衆参両院とも「3分の2」を超え、改憲案を国民投票にかける下地はできた。

 維新代表の松井は衆院選直後の11月2日の記者会見で「来年の参院選までに改正案を固めて、参院選と一緒に(国民投票を)実施すべきだ」と議論の活性化を促した。維新は教育無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置という3項目の改憲を掲げている。

 自民党でも維新に呼応する動きが出てきた。憲法改正推進本部を憲法改正実現本部に改称し、本部長に元国家公安委員長の古屋圭司を起用した。本部は総裁直轄機関であり、首相の岸田文雄がやる気を示したと受け止められている。

 改称には裏の狙いもあった。憲法改正推進本部長だった衛藤征士郎外しだ。当選13回の大ベテランがなぜ? 自民党の閣僚経験者は解説する。「衛藤さんは本部長として言動に独断専行が目立ち、公明党や野党の反発を招いていた。改憲論議を進めるには誰かが鈴を付けなければならなかった」。

 改憲を重視しなかった菅前政権ならともかく、今後は衛藤のままではだめだと見限られたようだ。本部長交代は衛藤にとって寝耳に水だったという。

 自民党は安倍政権時代の18年に①第9条への自衛隊明記②緊急事態対応③参院選の合区解消④教育の充実――に関して改憲の条文イメージをまとめている。岸田は11月19日の報道機関のインタビューに「4項目とも必要な改正で、それぞれしっかりと国会でも議論してもらいたい。ただ、結果としてその中の一部が進むなら、4項目同時にこだわるものではない」と答えた。他党との合意を優先するという意味だ。

 幹事長の茂木敏充は、20年以降の新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて「これまで自然災害を想定していた緊急事態には感染症を含めてさまざまなものが考えられる」と述べ、緊急事態条項の議論を優先すべきだとの認識を示している。

 公明党は難しい立場に追い込まれつつある。参院選前に改憲論議が進むのは避けたいのが本音で、緊急事態条項についても「国民の自由に対する制約は個別法に書くしかない。憲法にそういう規定を設けたらすべて解決するというのは誤解だ」(副代表の北側一雄)と慎重姿勢を崩していない。

 しかし、自民党が維新、国民両党の側に寄ったときに、果たして今の立ち位置を保てるかどうか。自民党幹部は「維新が議論をリードし、うちと、その後に公明党がついていく展開になる」とにらんでいる。

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表紙は変わっても……

 立憲民主党では枝野幸男が衆院選敗北の責任を取って代表を辞任した。「創業者」が執行部から去り、野党第1党は重大な岐路に立っている。

 代表選に立候補した元首相補佐官の逢坂誠二、元総務政務官の小川淳也、政調会長の泉健太、元副厚生労働相の西村智奈美は、いずれも国会での憲法論議には応じる考えを示した。言を左右にして憲法審査会の開催を阻む戦術は限界だと自覚しているのだろう。

 しかし、改憲に批判的な党のスタンスが変わるわけではない。「改憲が自己目的化するのはおかしい。法律でできることを課題にして改憲を訴える必要もない」(泉)と岸田政権の出方を警戒している。国民投票法改正で積み残したCM規制の強化を再提起し、改憲手続きが拙速に進まないようクギを刺すとみられる。

 公職選挙法と国民投票法では運動の自由度が格段に違うため、国政選挙と改憲の国民投票の同時実施は実務面でかなりハードルが高い。それにもかかわらず維新の松井が参院選との「同日」を主張したのは、改憲の機運を高めるためだろう。国民投票には至らなくても、参院選で憲法が主要な争点の一つになる可能性はある。

 それは野党間の選挙協力にも影響する。立憲の代表選中、4候補は参院選での共産党との共闘を否定しなかった。32の「1人区」で与党と互角に戦うには、野党候補をできるだけ一本化する必要があるからだ。

 しかし、改憲反対が共闘の条件になれば国民民主党が離れ、「自民・公明」「立憲・共産」「維新・国民」の三つどもえの構図が鮮明になるだろう。しかも、支持団体の連合は立憲が共産と接近し過ぎたことが衆院選の敗因と分析し、見直しを迫っている。立憲のジレンマは大きい。

 維新幹部は「いずれは維新と自民の二大政党制に」と豪語する。第三極路線はその布石と言える。参院選をにらんで主戦場になる来年の通常国会で、岸田政権は維新との間合いに神経を使うことになりそうだ。(敬称略)

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