特集2016年12月26日更新

不祥事乗り越え…業績回復したマクドナルド特集

昨年、一昨年と立て続けに不祥事にみまわれ、業績も低迷していた日本マクドナルド。しかし、今年になって急速にその業績を回復しています。一体、マクドナルドに何があったのか?その秘密を探ってみました。

「V字回復」のきざしを見せるマクドナルド

2016年1~9月期は3年ぶり黒字で業績予想を上方修正

最終損益は従来予想から28億円増の38億円の黒字(前期は349億円の赤字)、営業損益は17億円増の50億円の黒字(234億円の赤字)に引き上げた。売上高は、50億円増の2250億円(前期比18.8%増)。

なお、同日発表した2016年1~9月期連結決算は、売上高が前年同期比20.1%増の1652億円、営業損益は38億円の黒字(前年同期は207億円の赤字)。当期純損益は32億円の黒字(同292億円の赤字)で、1~9月期では3年ぶりの黒字となった。

11月も売上高前年比2ケタの伸び

45周年キャンペーンとして「チーズカツバーガー」や「かるびマック」が登場した11月は、既存店の売上高が前年同月比で11.3%増、客数は同8.0%増となり、16年は年初月から既存店売上高が、前年同月比で2ケタの伸びを維持している。

不祥事続きでピンチだった14~15年

2014~2015年、プラスチックなど異物混入あいつぐ

2014年から2015年にかけて、「チキンマックナゲットにビニール片」「サンデーチョコレートにプラスチック片」「マックフライポテトに人間の歯」「パンケーキに金属片」など、次々と異物混入の報告が相次いだ。それを受けて2015年1月には経営陣が謝罪会見を開いている。

日本マクドナルドの人気商品チキンマックナゲットなどに異物が混入していたと相次いで報告されている問題で、日本マクドナルドホールディングスの青木岳彦取締役(上席執行役員)と日本マクドナルドの菱沼秀仁取締役(上席執行役員)が1月7日午後、東京都内のホテルで記者会見を開いた。

2014年、決定的ダメージを受けた期限切れ鶏肉問題

2014年7月、マクドナルドと取引のあった中国の食品加工会社の、消費期限を過ぎた肉を使うなどのずさんな衛生管理の実態が明らかになった。これに前述の異物混入問題、さらにはアメリカの労働紛争によりフライドポテトの販売の制限をするなど問題が相次ぎ、2014年は世界的に売上が落ち込んだ。

今年7月末、上海のテレビ局の潜入取材で、マクドナルドなど外食産業大手と取引のあった上海福喜食品の衛生管理の杜撰さが明らかになった。同社の工場では、従業員が床に落ちた肉を拾って機械に入れる、日付を改竄して消費期限を過ぎた肉を使うなど、当局の検査の目を逃れて、不衛生極まりない慣行がまかり通っていた。マクドナルドは同社からのチキンマックナゲットの調達を中止し、中国のチェーン全店で肉を使った商品を一時期メニューからなくした。この騒ぎの影響でマクドナルドの8月の売上高はここ10年余りの月間売上で最低に落ち込んだ。

日本でも11年ぶりの赤字に

日本マクドナルドホールディングスは、2014年12月期の連結決算で連結純損益が218億円の赤字となっていることを発表した。11年ぶりの赤字で、昨年からの期限切れ鶏肉使用問題や異物混入事件による影響が明らかになった形だ。

今では陰謀論もある食肉工場問題だが、真相は闇の中

東方衛視の映像で話題になった、肉を素手で扱ったり、落ちたものを機械へ入れたりといったの衝撃シーンは何だったか。大方の食品業界人は、あれは別の場所で作られた映像と認識しているようだ。

不祥事よりも「マックに行かないのはもっと根本的な問題が」の声も

鶏肉問題が取り沙汰されていた当時、街の声を聞くと「ポテトの量が減った」「店内が汚れていた」「価格が高い」などの声があがり、そもそものサービスの質の問題を指摘する声も上がっていた。

 そこで都内某所のマクドナルド前、店をチラッと見ながらも通り過ぎた人に「なぜ店に入らなかったんですか」と聞いてみることにした。11月上旬、約50名に質問したところ、前述のサービス変化を上げる人が多く、不祥事に関しては3割程度だった。ほかにも聞かれたのはこんな声だ。

どうやってこの苦境から脱したのか

サラ・カサノバ社長の取り組み

全国の母親と意見交換

その一環として、食品についてシビアな視点を持つ母親ならではの発想を取り込むべく、全国47都道府県の店舗を訪れて352人の母親とミーティングを実施。「タウンミーティングwithママ」と呼ばれた、このカサノバCEOと母親たちの意見交換から、主要原料の原産国・最終加工国の情報をwebサイトに分かりやすく表示を改善したほか、「手軽に野菜を摂りたい」という要望をくみ取り、野菜をたっぷり使ったスープメニューを導入するなど、顧客の声をサービス向上に結び付け、マクドナルド再建の礎とした。

スタッフ・客とも積極的にコミュニケーション

週に1回は必ず店舗に足を運び、アルバイトやスタッフに声をかける。時には、店内の客にも感想やリクエストを聞くこともあった。2015年には47都道府県全てに足を運び、さまざまな声を直接聞いたという。

「社長と直接会ったのは藤田さん以来です。その藤田さんとも会話したことはない。テレビで見るサラさんとは違って本当に明るいかただし、何より私たちを大切に思ってくれているのが伝わってきて感激しました」

「信頼回復」と「採算改善」のために何をしたか

▼ビジネスリカバリープラン
(1)よりお客様にフォーカスしたアクション
  ・メニュー
  ・バリュー
  ・お客様とのつながり
(2)店舗投資の加速
(3)地域に特化したビジネスモデル
(4)コストと資源効率の改善

(1)の「よりお客様にフォーカスしたアクション」は前述のカサノバ社長が行ったような、顧客からの積極的なヒアリング。寄せられた声は、やはり品質管理に関するものが最も多かったという。

 マクドナルドはホームページに商品の主要原材料の原産国や最終加工国の情報を公開している。ハンバーガーなど商品のパッケージについているQRコードにスマートフォンなどをかざしても、そうした情報にすぐにアクセスできるが、カサノバはそうした情報発信が広く知られていないのではないかと感じていた。そこで、サイトをリニューアルし、商品パッケージのQRコードも大きく目立たせることにした。

いつの間にかなくなっていた「スマイル0円」も復活

マクドナルド各店で、“スマイル0円”の店頭表記が5月25日より再開した。

スマイル0円は、レジで注文すると対応する店員が笑いかけてくれるサービス。提供価格は0円。近年、デザインの都合により一部のメニュー表には記載が省略されていた。

2015年に店員のマニュアル改善を行い、サービスの向上に務めるため「挨拶の徹底」とともにスマイル0年も復活させたとのこと。

不採算店の大量閉鎖で採算改善

また、採算改善にも注力している。新規出店数16に対して、15年は不採算店を中心に150以上閉鎖しており、全国の店舗数は年初の3093から年末に2956まで減少した。この中には同社の看板とも言える表参道や赤坂見附の店舗も含まれている。家賃負担が重く採算が低いためだ。今年上半期の営業利益率はほぼゼロとはいえ、これらの採算改善策と増収効果で一年前の▲21%から大きく改善している。

新メニューに隠された戦略は

「マクドナルドならではのハンバーガー」を

――ヒット商品の鍵になっているのはどんなことでしょう。
【下平】美味しさと価格、両方です。「美味しい商品をお得な価格で」が、これまで我々が成功してきた考え方です。これをレベルアップしなければいけません。美味しさとバリュー(=お得感)のバランスをとっていかないと、お客様から支持をいただけないと思っています。

低価格の「おてごろマック」を発売

これらは輸入牛肉の値上がりで昼間限定の割引セット(昼マック)を廃止するため、

「ジュースやポテトとセットにしても昼マックと同じ500円程度になる『中価格帯』のバーガーを開発し、“おトク感”を失わせないようにした」(飲食コンサルタント)。

いわば苦肉の策で投入された新商品ともいえるのだが、意外にも評判は悪くない。

この「おてごろマック」が当たり、合計で1億個以上売れたとのこと。

一方で単価の高い期間限定メニューもヒット

まずは、新商品の導入。「クラブハウスバーガー」や「ロコモコバーガー」といった、これまでの同社の商品よりも、比較的「単価の高い期間限定」メニューが人気だったとのこと。

客数は7.0%増で5カ月連続、客単価は13.3%増で6カ月連続で、それぞれ前年を上回った(Sankei Bizより)。特に「Burger Love」シリーズの第3弾として、昨年人気だった「ロコモコバーガー」を期間限定で販売したのが好調だったようだ。

話題を呼ぶ新メニューを次々と投入

「グランド ビッグマック」「ギガ ビックマック」はSNSなどで話題に。また「1955 ステーキアメリカ」「三角ももクリームパイ」といった限定商品。さらにはトッピングの追加で自分好みのハンバーガーが出来る「裏メニュー」といった新メニューを投入して顧客にニーズに答えていった。「グランド ビッグマック」は販売制限になるほどの人気となった。


マクドナルドの業績回復は「顧客と正面から向き合う」こと、「基本方針の見直し」の2本柱だったようです。