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“NEXT GIGA”のスペック更新で各社が学習用端末をアップデート──「NEW EDUCATION EXPO 2024」レポート

ITmedia PC USER 2024年6月19日 12時25分

 小中学校で1人1台端末を実現したGIGAスクール構想プロジェクトの開始から4年目──そろそろ端末のリプレースが必要な時期だ。文部科学省では、2024年度から2028年度に「NEXT GIGA」または「GIGAスクール構想 2.0」と呼ばれる第2フェーズ(以下、NEXT GIGA)に取り組む。

 NEXT GIGAではこれまでの経験を踏まえ、学習者用端末の最低スペック基準が更新された。それによると、OSはWindows 11 Pro/ChromeOS/iPadOSの中から選べ、ストレージはそれぞれ順に64GB/32GB/64GBもしくはそれ以上、メモリは8GB/4GB(iPadでは指定なし)もしくはそれ以上、タッチパネル、インカメラおよびアウトカメラ、マイク・ヘッドフォン端子の搭載、周辺機器にハードウェアキーボードとタッチペンを用意、重さ1.5kg程度を超えないこと、バッテリー稼働時間8時間以上といった指定がある。

 若干底上げされた仕様に、各社はどのようなNEXT GIGA端末を打ち出すのか。6月6~8日にかけて、TFTビル(東京都江東区)で開催された「NEW EDUCATION EXPO 2024 東京会場」の各ブースで見つけたものを紹介する。

●メーカー初のChromebook搭載GIGAスクール端末──マウスコンピューター

 マウスコンピューターでは、6月3日に発売したメーカー初のChromeOS搭載端末「mouse Chromebook U1-DAU01GY-A」の実機を展示していた。

 ボディーは360度回転するヒンジにより、クラムシェル、テントスタイル、タブレットスタイルでの利用が可能で、教室内だけでなく屋外学習にも対応している。

 ハードウェアキーボードのキーストロークは約1.4mmと浅いものの、キータッチは良好で入力しやすい。標準の日本語キーボードなので、GIGAスクール端末を卒業した後でも、会得したタイピングスキルを生かせるだろう。

 興味深いのは、ヒンジとヒンジの間に設けられた収納式のハンドルだ。GIGAスクール端末では、持ち運べるようハンドルやストラップなどのアクセサリーをメーカー側、あるいはサードパーティーが用意することが多いが、マウスコンピューターのChromebookでは端末のみで完結している。

 大人の手では4本の指を差し込むことは難しいかもしれないが、握力の発達しきっていない小学校、中学年程度の児童の指であれば、しっかり握れるだろう。何よりギミックとして面白い。

 スタイラスペンホルダーはUSB Standard-A端子に差し込むタイプだ。マグネットタイプではない分、脱落しにくいと感じた。ただ、充電にもUSB Standard-A端子を利用するので、その間はホルダーがなくならないように注意が必要である。

 スタイラスを用いて筆記してみたが、反応や追従性は良好だ。低価格タブレットでありがちなイライラを感じることはないだろう。子供たちの手書き学習に十分使えそうだ。

 GIGAスクール端末では頑丈さを条件として挙げていないが、mouse Chromebook U1-DAU01GY-Aには高さ75cmからの落下を想定した耐衝撃性、野外活動での突然の雨降りにも対応したIPX4の防滴機能を搭載している。さらにストレージとメモリには最低スペックの倍となる64GB/8GBを搭載している。

 「最低レベルではない、その上をいく端末で学習してもらいたかった」という担当者の言葉が胸に染みた。

●使い勝手の良いChromebook──日本HP

 日本HPのブースでは、教育向けノートPC、プリンタ、Web会議ソリューション「Poly」を展示していた。

 教育向けノートPCでは、現行の「HP Fortis x360 G5 Chromebook(Wi-Fiモデル)」の他、2024年10月リリース予定の「HP Fortis x360 MK G5 Chromebook」のモックアップを展示していた。新製品ではコストを下げるため、CPUにMediaTek Kompanio 520を搭載している。また、アウトカメラは現行機種の8MPから5MPにスペックダウンし、USB Type-C端子も2基から1基に変更されている。

 その代わりに、現行機種が1.46kgとGIGAスクール端末要件ギリギリの重さだったのに対し、新モデルは1.3kgに軽量化を果たしている。児童や生徒の負担も軽くなるだろう。

 興味深いと思ったのは、付属するスタイラスペンの充電端子の位置だ。ペン自体と充電トレイ内のどちらも中央付近に端子があり、左右どちらにペン尻またはペン先を向けて置いても充電できるようになっている。聞けば、「左利きのお子さんのワンアクションを減らすため」だという。なるほど、左利きであれば、ペン尻が左を向いている方が使い勝手が良い。よく考えられている。

 また、キーボードのパームレストの端にカメラがあるのも気になった。その理由は、タブレットとして使う際、手でふさがないようにするためとのこと。コンバーティブルタイプのPCでは、ディスプレイをぐるりと回転させてキーボードもディスプレイも外側に向くようにして使うが、縦向きで持った場合、長辺の部分をつかむことが多い。タッチパッドの近くにカメラを搭載してしまうと手がじゃまになるというわけだ。徹底的に使い勝手にこだわった端末作りをしているのだなと感じさせられた。

 10月には現行機種で「応用パッケージ」をリリースするとのこと。これはMVNOとなった自社の回線で5年間データ使い放題にするサービスをパッケージ化したもので、物理SIMのコストを削減するためにeSIMを採用している。また、LTE Cat-Mチップを内蔵することで、電源が入っていなくても、またWi-Fiやモバイル通信をオフにしていたとしても、位置情報を追跡できる。

 これにより、紛失時にどこにあるのかを見つけられるようになる。リモートロックや、万が一のときにはリモートでデータ消去することもできる。これは後づけできないため、「メーカーならではの強みだ」と担当者は語っていた。

 その他、プリンタ「HP Smart Tank 7305」も展示していた。同機の強みはプリントアウト時にかかるコストが非常に低いことで、カラープリントでも1枚につき約0.93円という低価格を実現している。

 「ビジネスの世界ではペーパーレスが主流だが、成長中の子どもたちは成果物を目に見える形で得たいと感じている。そのため紙に印刷することが重要だ。とはいえ、学校側も資金が無限にあるわけではないのでコストをかけたくない。両者のニーズを満たすのが、HP Smart Tank 7305だ」(担当者)

 HPが展開するプリンタのドライバーは、ChromeOSに組み込まれている。そのため、わざわざプリンタの機種名を調べてドライバをネットで検索、ダウンロード、インストールするという手間がかからないのも、強みだと語っていた。

●2つのGIGAスクール向け新端末を展示──レノボ・ジャパン

 レノボ・ジャパンのブースでは、GIGAスクール向けの新端末を2機種展示していた。どちらもChromebookで、デタッチャブルタイプの「Lenovo Chromebook Duet EDU G2」とコンバーティブルの「Lenovo 500e Chromebook Gen 4s」だ。

 Lenovo Chromebook Duet EDU G2は、ユーザーが外せないラバー製カバーと一体型のタブレットを本体としており、高い頑丈さを誇る。ディスプレイサイズは10.95型で、インカメラにはプライバシーシャッター付きだ。付属のキーボードはJIS配列で、スタイラスペンはケースの右側にすっぽり収まるようになっている。これなら紛失する心配はなさそうだ。キーボードを取り外せば、約800gの軽量タブレットとして使えるので、校外学習でも使い勝手が良さそうだ。リリースは2024年9月ごろの予定だという。

 コンバーティブルタイプのLenovo 500e Chromebook Gen 4sは、担当者いわく「現行機種と中身はほとんど変わらない」。しかし、バッテリーをユーザーが交換できるように裏ぶたを簡単に開けられること、バッテリーをオプション購入できるようにした点などが新しい。

 Lenovo 500e Chromebook Gen 4sでは、バッテリー駆動時間が約14.8時間とかなり長いが、やはり2年、3年使っているとどうしても使える時間が短くなってしまう。また、子どもの持つものなので落下させてしまいバッテリーの劣化が早まる危険性もある。そんなときにわざわざ修理工場に送っていては使えない時間ができてしまうし、何より修理代がばかにならない。

 そのようなリスクを軽減するために、ユーザーがバッテリーを交換できるようにしたという。こちらは2024年から2025年の冬に発売予定とのこと。

●教員の校務にぴったりなテンキー付き──VAIO

 授業で使う(教務)PCと、教材作成や事務処理で使う(校務)PCは1つの方が望ましいとする声もあるようだが、教室に校務も行うPCを持ち込みたくないというニーズも一定数あるという。そのような教職員にぴったりなのが「VAIO Pro BM」だ。

 ディスプレイサイズは16型ワイドなので、横に長いスプレッドシートでも一度に見渡せる。入力しやすいアイソレーションキーボードにはテンキーもあり、テストの点数などを入力する際、別にテンキーを用意しなくて済む。16型と大きいのに重さ約1.65kgと比較的軽いのもいい。

 VAIOでは、どのノートPCでもディスプレイを立ち上げれば自然とキーボードに傾斜がつくような設計で、これにより入力のしやすさ、押し下げることで開くLANポートの搭載などが可能になっている。また、底面ではなく背面に吸気口を設けているため、膝の上や布団の上などで使ったとしても、熱暴走を起こさず、安定的なパフォーマンスを得られるというメリットもある。

 VAIOといえば、底面の美しさが特徴的だが、よく見るとネジが多い。この理由は「ノートPCを開いたまま移動させる人は、パームレストの角をつかみがちだから」とのこと。つまり、重さでたわむかもしれないような場所を持ってしまう人が多い(筆者も例に漏れずそうである)。

 そうすると、基盤がゆがんでしまう可能性が出てくる。強度を高め、ゆがみを最小限にし、故障率を押さえるためにネジ止めする箇所を増やしているのだ。コストがかかっても、教職員の業務を止めたくないという意気込みを感じさせられた。

●タフなデタッチャブルPCにChromeOS搭載機種が登場! Dynabook

 落としたところで壊れそうにないデタッチャブルWindows PC「dynabook K70」(以下、K70)と同じラインのChromeOS搭載端末「Dynabook Chromebook C70」(以下、C70)のモックアップが、Dynabookブースに展示されていた。

 カラーがベージュからグレーへ変更されたこと以外はほぼ同じボディーで、コンパクトサイズの10.1型ディスプレイ、落としても衝撃を受け止めるTPUのバンパー、外れにくく確実に装着できるキーボードドック、2箇所のアンカーで外れにくいキーキャップなど、やんちゃな扱いを受けても壊れにくく、使いやすいサイズに仕上げてある。

 CPUはMediaTek Kompanio 520、メモリは4GBまたは8GB、ストレージは32GBまたは64GBから選択できる。インタフェースにはUSB 3.2対応USB Standard-A、USB 3.2 映像出力対応USB Type-C×2基、マイク入力/ヘッドフォン出力端子を搭載している。Wi-Fi 6に対応しており、LTEモデルも選べる。C70では、キーボードドックに収納して充電できる充電式アクティブ静電ペンが付属する。

 K70、C70とも落下に強いデザインだが、そもそも落下しづらいよう滑り止め効果のあるTPU素材でボディーをカバーしている。

 例えば、小学生は教室内での移動も多い。必ずしも安定した水平な机の上に置かれるわけではない。そうした場合を想定して、机の上で滑りづらい製品作りをしているという。

●コンバーティブルタイプのWindows PCを投入予定──富士通

 富士通のGIGAスクール端末「Fujitsu Tablet STYLISTIC Q5011/NEG」は、少々ゴツい印象だ。デタッチャブルタイプでクラムシェルとしても10.1型タブレットとしても使え、キーボードとの接続はマグネットではなくラッチを採用している。マグネットを使わないことで、異物の付着を防ぎ、同時に故障率も下げられるというわけだ。

 タブレットになるディスプレイは丸みを帯びた角を持つ。それぞれの角にはラバー製のバンパーを備え、76cmからの落下にも耐える。また、背面から前面まで滑りにくい素材を採用しているので持ちやすく滑りにくい。机からの落下も防止する。

 興味深いと思ったのは、各端子にパッキン付きカバーがあることだ。通常の校外学習だけでなく、水泳も含む体育の授業でも使えるIPX4/IP5Xの防滴・防塵(じん)仕様となっている。物理的なカバーがあると安心度も段違いだ。

 なお、2025年度はコンパーチブルタイプのWindows PCを投入予定とのこと。詳細はまだ詰めているところではあるが、参考出展されていた新機種にはUSB Type-C端子やUSB Standard-A端子の他、HDMI端子も確認できた。GIGAスクール端末としては豪華そうだ。続報を待ちたい。

●キーボードに防滴シートを敷設──ASUS JAPAN

 ASUS JAPANブースでは現行機種ではあるが「ASUS Chromebook CM30 Detachable」(以下、CM30)と「ASUS Chromebook Flip CR1」(以下、CR1)などを展示していた。

 CM30は、10.5型のタブレットに脱着式キーボードを備えたデタッチャブルタイプChromebookで、タブレットには頑丈な耐衝撃カバーが装着されている。カバーを外せるか担当者にたずねたところ、かなりの力を入れて外していたので、小学校低学年の児童が外すのは難しそうだ。わざと外して、あるいは不意に外れてタブレット本体が落下し破損する、といった事故を防げそうだと感じた。

 CR1は頑丈なコンバーティブルタイプのChromebookだ。マイクロティンプル加工と呼ばれる3Dテクスチャ仕上げによりスクラッチに強く、ゴム製バンパーとボディー内部のハニカム構造により落下に強い。頑丈さに関しては米国防総省制定のMIL-STD-810Hに準拠しているという。

 また、突然の雨降りにも安心な防滴仕様となっており、キーボード下には防滴シートが貼られている。水をかぶってしまったら、逆さにしてたたけばほとんどの水は端末外に排出されるという。10年間のOS自動更新も相まって、長く使える端末だといえそうだ。

●サブスクで印刷コストの波を抑える──エプソン販売

 エプソンでは、プリンタのサブスクともいえるスマートチャージ対応のプリンタ「LX100-50MF」などを展示していた。

 教育現場では、新年度スタート時、定期試験時など印刷枚数に波がある。通常のリースであれば印刷用紙やインクなどの消耗品費にも波が出てしまい経費の見極めが難しくなってしまうが、サブスクなら定額制だ。これまでの年間印刷枚数からピッタリのプランを見つけられるので、予算を立てやすくなる。また、サブスクに含む上限はインク代ではなく、印刷枚数だ。モノクロでもカラーでも関係ないので、積極的にカラープリントをしてもらうことができるという。

 また、対応機種を追加すれば、同じサブスクアカウントで印刷枚数がカウントされる。教職員の多い学校や、各教室にプリンタを設置したい学校などでメリットが大きい。台数が増えると、インク切れなどの管理コストがかかりそうだが、「消耗品自動配送サービス」により、無くなりそうな消耗品はわざわざ注文しなくても自動的に届けられる。

 サービスだけでなく、ハードウェア的にもメリットは大きい。毎分100枚印刷できるため、授業前の短い休み時間や試験前の放課後などにプリンタの前に長い行列ができにくくなる。これにより、教師の働き方改善にもつなげられる。教える側も教わる側も笑顔になれるソリューションだ。

●あのキーボードがカバーが一体型に! エレコム

 キーボードを制するには、タッチタイピングの習得が欠かせない。とはいえ、どの指がどのキーをたたくのかは人によって異なることがあり、家と学校で教わることがバラバラになってしまうこともあり得る。

 しかし、エレコム「KEY PALETTO」(キーパレット)シリーズならその心配はないだろう。キートップが、使う指ごとに色分けされているからだ。PC USERでも、対象年齢者によるレビューをお届けした。使い勝手が良く、初めてのキーボードにピッタリとのことだった。

 そのKEY PALETTOシリーズにiPad(第10世代専用)ケース一体型の「KEY PALETTO Folio」が登場するという。8月のリリースに向けて絶賛開発中とのことで、モックアップも“まだ”であったが、概要は告知されていた。

 ケースとキーボード部分は分離可能で、ポゴピンによる接続を行う。iPadの傾斜を自由につけられるキックスタンドを用いた最大150度まで傾けられるフリーアングルモードの他、机の上を広く使うためのスタンドモードも備えている。

 ケースとiPadはUSB Type-Cで接続し、ケースにはUSB Power Delivery(PD)対応のUSBハブ機能をもたせる。Apple Pencilはケース上部のペンホルダーに挿して持ち運べ、紛失を防ぐ。米国防総省制定のMIL-STD-810H相当の頑丈さを備える予定とのこと。

 印字デザインは、かな無し、かな有り、中学生向け(かな無し)の3種類。故障時にはケースまたはキーボード単体で交換することができる。

 ここまで、NEW EDUCATION EXPO 2024で見かけたハードウェアを紹介してきた。後編ではソリューションの数々を見ていきたい。

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