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インフルエンサー採用でSNSの人気者を優先採用?メガネのオンデーズなどが導入、その背景は

JIJICO 2019年11月30日 7時30分

企業が社員を採用する際に、FacebookやInstagram、TwitterといったSNSのフォロワー数が多い影響力を持つ人、いわゆる「インフルエンサー」を優先的に採用する動きが注目されています。

メガネチェーンの「オンデーズ」では、SNSのフォロワー数が1万人以上の人は、応募後、企業側の審査を通過すると、書類審査や一次面接、筆記試験などを免除され、即最終面接へと進み、加点評価の対象とする優遇措置を実施。 口コミ関連事業とインターネット広告代理店事業を主とする「サイバー・バズ」は、SNSへの投稿に「いいね!」が300以上、同社指定の#が付いたものでの「いいね!」が500以上で、選考の優遇措置をとっています。 ほかにも、企業側が指定するSNSやアプリなどで具体的な評価の数字を上げて、自社の採用選考を優先的に進める方針を打ち出す企業が現れ始めています。

求職者にとっては、自分の得意とする分野の発信力が、採用時の選考の短縮化や早期内定を得る、新たな戦力ともなりそうです。Webマーケティングや人材採用の専門家、髙平聡さんに話を聞きました。

市場拡大の即戦力となるインフルエンサー。一時的ではなく、本当の意味でのコミュニケーション能力が求められる

Q:インフルエンサー採用とはどんなものですか?実際の募集内容は? -------- インフルエンサー採用とは、InstagramやTwitterなどSNSでの発信力や影響力を持つインフルエンサーを優遇的に採用する方法のことです。フォロワー数が多い、投稿に対する「いいね!」が一定数を超えているなど、企業が設けた条件をクリアすれば、選考が免除されて一気に最終面接へ進めるなどの優遇措置を受けることができます。

具体的な例として、「オンデーズ」では、SNSのフォロワー数が1万人以上の人は、応募後、企業側の審査を通過すると、書類審査や一次面接、筆記試験などは免除され、最終面接へ進むことができます。

また、「サイバー・バズ」では、SNSへの投稿で「①直近の1カ月以内に『いいね!』が300以上付いたものがあること」「②同社指定の#が付いたもので『いいね!』が500以上あること」などが加点の対象になり、①300以上で書類選考免除、②500以上ですぐに最終面接へ進むことができます。

アパレルの「TOKYO BASE」では、Instagramフォロワー2,000人以上、またはWEARフォロワー1,000人以上で選考の短縮と早期の内定を行っています。

求職者にとっては、職務経歴書やポートフォリオ(クリエイティブ系就職者が面接時に持参する作品集)のように、自分の能力をアピールできる要素のひとつとも言えるのではないでしょうか。

Q:こうした採用枠を設けるには、どのような背景がありますか? -------- スマートフォンやSNSの普及で、情報の入手、商品の購入などにこれらを使用することが日常的になり、そのスピードもますます速くなっています。

個人の発信力もアップしていることから、インフルエンサーマーケティング(インフルエンサーを起用することで、企業のPR戦力として活用するマーケティング手法)が広がりを見せています。

企業が消費者に直接訴求するのではなく、インフルエンサーという第三者を介して商品やサービスのPRをすることで、情報が好意的に受け入れられやすく、市場規模拡大が見込まれるという効果があり、企業の広告戦略で見逃せないツールのひとつとなってきているのです。

さらには、求職・採用活動もIT化が進んでいることに加え、新卒者の一括採用から、通年の採用へと変わりつつあることも大きな要因のひとつと言えるでしょう。

企業側は、1年を通じて求職者に情報発信をする必要に迫られています。 企業の採用担当部署も、今まで以上に「情報発信スキルの向上が急務である」という危機感が持たれていることが、こうした採用枠を設ける背景にあると考えられます。

Q:企業としては、実績を上げているインフルエンサーの情報発信力を利用することで、容易に広告効果を上げられるように見えますが、ほかにどんなメリットがありますか? -------- 前述のように、もともと多くの人の注目を集めていたインフルエンサーが、商品やサービスの広告塔となり、企業広告を敬遠する消費者に対しても、消費者の視点で商品の良さを伝えることができ、その効果を上げることができます。

企業としても、新たなフィールドで新しい顧客を開拓することができ、市場拡大の即戦力となることが見込まれます。 さらには、その優れた情報収集力により、消費者側からの商品の評価をダイレクトにキャッチしやすく、新しい商品やサービスの開発につながりやすいこともメリットとしてあげられます。

また、直接的な業務だけでなく、企業が優秀な人材採用に費やす時間やエネルギーの削減という面でも効果が大きいと言えます。 面接などの短い時間だけでは見極めが難しいコミュニケーション能力を、フォロワー数など数値化されたものを見ることで、ある程度客観的な判断材料の一つとすることができます。

今ならインフルエンサー採用そのものにニュース性があるので、取り入れる企業の革新的なイメージアップにつながるという点も大きいかもしれません。

Q:企業側からも求職者側からも、おおむね好ましいものとして捉えられているようですが、デメリットがあるとしたらどんなことでしょうか? -------- どの企業でも、この方法を取り入れてうまくいくというものではありません。そもそも、企業として「新しいものを受け入れやすい体質か」「新しい情報発信能力を必要としているのか」「どの方向を目指しているのか」で、取り入れるべき企業は限られるでしょう。

もともとインフルエンサーやユーチューバーは、得意分野が限られていて、そこを深堀していくことで、多くのフォロワーを獲得しています。企業側はそれを理解したうえで、可能な限り自由に発信させる柔軟な土壌がなければ、せっかくの能力を生かすことができません。

インフルエンサーは、自由度が少ないと機能しない場合があるばかりでなく、運用方法を誤ると、一気にフォロワーの関心を失い、企業の信用までも失う危険があるのです。

Q:最近話題になったステマ(ステルスマーケティング )とどう違うのですか? ------- ステマとは、ステルスマーケティングの略で、いわゆる「ヤラセ行為」のこと。つまり、消費者にマーケティングや宣伝とわからないように、あたかも第三者を装って宣伝行為をすることです。

以前、複数の芸能人が報酬を受け取っていたことを明示せず、オークションサイトの宣伝を行った詐欺事件がありました。お笑い芸人の書き込みが、特定の自治体の宣伝ではないかと話題にもなったことも記憶に新しいかと思います。

また、飲食店の口コミサイト内の自社に関するページで、故意にマイナスな意見を削除して好意的な意見だけを残すこともステマにあたります。

顔の見えない不特定の人を動かして情報を誘導するステマと、企業内に設けたタレント的な存在を通して情報を発信するインフルエンサーマーケティングは、異なります。

クチコミを装った宣伝行為により消費者がだまされることを避けるため、金銭を支払った広告投稿については、#提供や#協賛、#PRなどの広告行為とわかるような表記を行うように、「JIAA」というインターネット広告の業界団体や「WOMJ」というクチコミマーケティングの業界団体によるガイドラインが定められています。

Q:求職者がインフルエンサー枠を利用するときに理解しておくべきことはどのようなことでしょう -------- 多くの企業がコミュニケーション能力を、採用の大きなポイントと見ています。

とはいえ、インフルエンサー採用は、適性試験だけではわかりづらい個人の能力を数値で可視化し、採用精度を上げることだけを目的にしているのではありません。実際、入社後のさまざまなシーンで自己アピールをする機会があるので、「その事前練習、適性診断という側面もある」と考えている企業もあります。

求職者は入社してからも、そこで自分の発信能力が本当に生かせるのかを見極める必要があります。個人で自由に発信すればよかったSNSなどと違って、企業が発信してほしい情報がその時々で変わってくることも考えられます。社内においても、その高いコミュニケーション能力が発揮されるかどうかで、柔軟な対応ができる人とそうでない人が出てくるのではないでしょうか。

企業は一時的な人気者ではなく、本当の意味でのコミュニケーション能力を持った人を求めています。企業は、フォロワー数の数値を上げるなど、戦術的に優先採用を狙うインスタグラマーではなく、継続的な活動の記録として、その内容やプロセス、フォロワーの構成などを見ているのです。そのため求職者は、本当の意味で、多くのフォロワーに受け入れられているのかどうかを重要視されている、ということを自覚する必要があります。

Q:今後もこうした採用枠を設ける企業が増えると予想されますか -------- 人材不足のいま、多くの企業では、優秀な求職者に選ばれるためにも、企業の魅力を発信し続ける努力が必要となっています。 これまでのように、求人情報を提供して、一括採用で求職者を募るという採用方法が終わりつつあるということかもしれません。インフルエンサー採用だけにとどまらず、新しい採用形態を取り入れるべき時代が来たとも言えるでしょう。常に新しい流れをくみ取り、柔軟に動き続けていることを求職者に伝えられるように、あらゆる方法を探ろうとする企業が今後も増えてくるでしょう。

(髙平 聡/マーケティングコンサルタント)

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