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“男性と結婚したい息子”に猛反対する「理解がありすぎる」父親。心配の理由に胸が痛む|ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』

女子SPA! 2024年3月16日 8時45分

 3月9日に『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(土曜よる11時40分~、東海テレビ・フジテレビ系)の10話が放送された。練馬ジム作の同名漫画が原作の本作は、昭和気質の中年男性・沖田誠(原田泰造)が、現代の価値観にアップデートしていく様子を描いたヒューマンドラマである。

◆男性同士のカップルが結婚するということ

 9話ラストで砂川円(東啓介)は、恋人の五十嵐大地(中島颯太)にプロポーズ。10話ではゲイであることをカミングアウトするため、また大地との結婚を認めてもらうために、円は実家に帰る。自分達の関係を円の家族に受け入れてもらえるのか、不安に押しつぶされそうになる大地。そんな大地を励まそうと誠は「君たちが望むことを、周りのせいで制限を受ける必要はないと思う」と声をかけ、少し心が軽くなった様子を大地は見せる。

 その後、無事に円から家族を説得することに成功したという連絡が入り、大地だけではなく2人の関係を応援していた沖田家も安堵。しかし2人の関係性が順調に進展していくように思われたタイミングで思わぬ人物が登場。大地の母・美穂子(松下由樹)と離婚し10数年会っていなかった父・堀内真一郎(相島一之)が、大地の前に現れたのだ。

◆父親が目を潤ませて心配する、同性婚の“デメリット”

 息子が男性と付き合っていることに“危機感”を覚えた真一郎は、円との関係を考え直すよう大地に告げた。そして「この国では同性婚は認められていない。だから友人たちに祝福されようが、法的には守られていないんだ」「職場で配偶者のための福利厚生を利用することができない」「パートナーが病気や怪我で手術が必要になった時、本人の意識があれば良い。でも万一誰かが代わりに判断をしなければいけなくなった時、他人であるお前には手術の同意ができない」という。

 大地は「そういうのは知ってる」と真一郎の言葉を遮り、「パートナーシップ制度っていうのを導入する自治体が増えてて、いろんな問題が解消されつつあって」と反論。しかし、真一郎は「じゃあこれは知ってるか?」と間髪を入れずに言い返し、「イギリスでは若い世代でも30%が就職する時に性的志向を隠すそうだ。給与や出世の面で不利になるっていうデータがあるからだよ」「それから世界でも70か国以上、同性愛行為を犯罪だと捉える国がある。子どものころから『世界中回っていろんな動物たちを見てみたい』って言ってたろ? そのパートナーとじゃ行けない国があるんだぞ」と続ける。

 そして、「世の中が間違ってるかどうかは知らん。私が気にしてるのは、自分の、たった1人の息子のことだ」と目を潤ませながら説得した。

◆セクシャルマイノリティの“不利益”にどう向き合う

 セクシャルマイノリティを題材にしてきた作品は、誠のように当初は無理解から気味悪がっていた人が、当事者との交流を通して理解を深めていくパターンが多い。1話で誠は大地がゲイであることに嫌悪感を示していたが、大地と交流するようになってからは嫌悪感はなくなり現在は友情を育むまでになった。とはいえ、嫌悪感ではなく“エビデンス”を用いてセクシャルマイノリティを否定しようとする、今回のようなケースはとても珍しい。

 同性婚のようなリベラル寄りな話題に否定的な意見が寄せられた際、「ヨーロッパでは」「若い世代の間では」という主語を使って反論されるケースは少なくない。しかし、真一郎はイギリスの、しかも若い世代がセクシャルマイノリティを“不利益”と感じている傾向をデータで示している。エビデンスに反論することは容易ではなく、そのうえイギリスの若者を出されてはいよいよ反論は難しい。

 差別的かつ不寛容な社会を見直すための議論は当然必要ではあるが、いま現在セクシャルマイノリティを公表することのデメリットが多いことも事実。そういった厳しい現実に大地たちがどのように向き合うのかは見物である。

◆「俺、この人を苦しめてんのかな」当事者の葛藤を丁寧に描く

 そもそも、真一郎の説得に大地が立ち向かえなかった要因として、真一郎が離婚したとはいえ自分の父親だったことが大きい。実際、後で円に「お父さんから反対されたのか?」と聞かれた時、大地は「ただ反対されたんなら言い返せたと思うんです」と返答。そして「『心配なんだ』って言われて、あんな顔されて、どうして良いかわからなくなった」「『俺、この人を苦しめてんのかな』って」と話す。親が自分たちの関係を受け入れてくれなかったこと、自身のセクシャリティが親を苦しめていることに葛藤が生まれ、何も言い返せなかったという。

 これまで偏見や差別に対して自分なりの考えを示し、その度に誠のアップデートを手助けしてきた大地。恐らく“他人事”であれば大地もいつも通り、気づきを与えるようなアドバイスができていたはずだ。しかし、自身が当事者となり、それでいて親と対峙するとなれば簡単にはいかない。

 ただ単に新しい発見を与えるだけではなく、当事者の苦しさを表現しており、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』がいかにセクシャルマイノリティというテーマを繊細かつ丁寧に扱っているかに驚愕させられる。

 次回が最終回になる本作。エビデンスだけではなく、自身の親とどのように向き合うのかも注目したい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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