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ミスター慶応出身&フェンシング元日本代表の25歳俳優が強烈。“モラハラ暴力夫”に恐怖

女子SPA! 2024年8月24日 15時46分

 毎週土曜日よる11時30分から放送されている『顔に泥を塗る』(テレビ朝日)で、モラハラ彼氏を演じる西垣匠が恐ろしい。

 草川拓弥との共演BLドラマ『みなと商事コインランドリー』(テレビ東京、2023年)ではあんなにピュアな役を演じていたのに。どこからか恐怖要素を採取してきてモラハラ彼氏役に注入したのだろう?

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、西垣匠の経歴を確認しながら、強靭な若手俳優の全体像を解説する。

◆『みなと商事コインランドリー』の必然的な強烈さ

 西垣匠が広く認知された出演作品は、絶対的に『みなと商事コインランドリー』である。「超特急」の草川拓弥にとって初主演作となった同作は、BLドラマ史上もっとも愛され、熱狂的なファンを得たひとつだが、その最大要因は西垣のほうにあったと思う。

 祖父から引き継いだコインランドリーを舞台に店主と客の高校生が空前のピュアラブを固く結ぶこの作品。相手役の高校生・香月慎太郎として西垣が配役される必然みたいなものがあった。

『みなと商事コインランドリー2』(2023年)の放送が終了しても慎太郎はきっと今日もあのコインランドリーで湊晃(草川拓弥)とわちゃわちゃしてるはず。

 視聴者にとっての最終話あとのロスとか単純なことではない。作品外で香月慎太郎というキャラクターを生身の存在として立ち上がらせてしまった。それが西垣匠という俳優の強烈さなのだ。

◆ビジョンとキャリア形成に自覚的

 そこまで強烈なイメージをひとつの作品に植え付けてしてしまうことは、次から次へ出演作を重ねる俳優にとってはマイナスに作用するかもしれない。その俳優について語るとき、あの人といえばあの作品だろうという具合に、キャリアがその時点に固定されてしまうからだ。

 ところが、西垣はなぜかそうはならない。『みなと商事コインランドリー』香月慎太郎役を永久的に代表作としながら、彼はうまく次回作に軸足を移す才覚が鋭い人でもある。それをしっかり自分の名刺がわりの作品に仕上げてしまう。

 一度高校生役のイメージがつくとなかなか学生役以外の配役は回ってこない。なら潔く翻り、大成功した高校生役には全然未練もないといった感じで、率先して成人男性役に挑戦する。俳優としてのビジョンとキャリア形成がここまで自覚的で、なおかつ成功する若手はちょっと他にいないんじゃないか。

◆役柄という上着を重ね着していく

 実際、BLドラマウォッチャーである筆者からしても『みなと商事コインランドリー』は相当印象に残っているが、『春になったら』(関西テレビ・フジテレビ、2024年)で結婚式場のプランナー役でしっかりスーツを着るスタイルを見ると、一瞬でイメージが更新されてしまう。

 スラックスをすらりとはいて半袖から長い腕を伸ばしていた甘酸っぱい高校生役はもう完全に過去の美しい記憶。西垣匠は以前からずっと学生服ではなく、大人の着こなしのスーツが似合う人に違いなかったと錯覚さえ。

 単純なビジュアル変遷から考えると、半袖の学生服からのぞく素肌をすっぽり包み隠したスーツスタイルへの衣替えだ。この衣替えによって彼は新たな役柄という上着を重ね着していく。

◆恐怖のモラハラ彼氏

 重ね着するごとに役柄の厚みがうまれる。高橋ひかる主演の不倫(的自我の目覚め)ドラマ『顔に泥を塗る』では、高橋扮する主人公・柚原美紅に対して倒錯した愛情で支配しようとする恐怖のモラハラ彼氏・結城悠久を演じている。

 悠久役は弁護士という固い仕事を職業としている。これは言わば、スーツスタイルで武装する西垣が得たさらなる鎧だ。最初は彼女思いの愛情深い彼氏に見えるのだが、第1話でジェンダーフリーな高倉イヴ(木村慧人)に真っ赤なリップ塗ってもらって帰ってきた美紅に悠久が大きな牙をむく。

 そのメイクがいかに合っていないかとねちねち執拗に指摘したあげく、クレンジングオイルを美紅の頭上からどばどばかける。しかも無表情。でも日が変わると今度は酷いことをしてしまったと優しげに振る舞うのが、暴力夫の典型的なタイプで恐ろしい。

 その日の気分でガーリーになったりメンズになったりスタイルを変えるイヴとの服装のコントラストも絶妙だ。第2話ではフリーマーケットの場面で悠久とイヴが直接対峙する。相手を静かに威嚇し心の内に恐怖の渦をチャージする表情の西垣と『みなと商事コインランドリー』でピュアラブ高校生を演じた彼とは、ほんとうに同一人物なのか?

◆すべての役柄が地続き

 武装が極まる西垣匠という完全なる鎧の俳優について、ここで一度キャリアの最初期への解体が必要かもしれない。西垣はいわゆる慶應ボーイ。2019年のミスター慶應でグランプリを獲っている。

 ミスター慶応といえば数あるミスターコンテストの中でも花形中の花形。過去のファイナリストには岩田剛典(高校時代はラクロス部に所属し、U19日本代表候補に選ばれている)や古川雄輝など輝かしい俳優たちが記憶されている。自らも名を連ねた西垣はコンテストあとに芸能界を本格的に志す。

 意外にもデビュー作『夢中さ、きみに』(MBS、2021年)では高校生のいじめっ子役を演じた。こういう役柄は新人にひとまず割り当てられたものに過ぎないが、西垣はこの小さなチャンスを大きな成果に結ぶ。

『ドラゴン桜 第2シリーズ』(TBS、2021年)では1000人のオーディションを勝ち抜き、初のレギュラー出演。眉毛全剃りの坊主高校生を演じた。こうして最初期の経歴を確認していくと、『みなと商事コインランドリー』に出演するまでに学生役で爪痕を残すことをちゃんとやってきた努力の人なのだとわかる。

 俳優以外の道もあった。小学3年生から始めたフェンシングでは日本代表選手にも選ばれた経歴を持つ。趣味や特技の域をはるかに超えた特性を活かした『土曜はナニする!?』(フジテレビ)のミニドラマ「イケドラ」(2024年3月放送)では普段はひ弱なのに剣を持つと豹変するフェンシング部代表選手を演じた。

 二面的な役柄は初挑戦だったが、そうか『顔に泥を塗る』まですべての役柄が地続きなんだなと。この強靭な若手俳優の全体像が少しは見えてきただろうか。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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