2021年2月、プジョーは新しいブランドロゴを発表した。従来の立体的なライオンロゴから、フラットな盾型ロゴに大きく変更されたのが特徴だ。じつは2020年から2021年にかけて、多くの自動車ブランドが新しいロゴに変更している。こうした流行はどこから来るのか。ロゴを変更するメリットとはなんだろうか。
■電動化への舵切りと無関係ではない
自動車ブランドの顔ともいえるのが「ロゴ」だ。
メルセデス・ベンツといえば「スリーポインテッドスター」、フォルクスワーゲンなら「VとW」の組み合わせのように、そのブランドの印象とロゴの関係は深く、切っても切り離せないものだ。
しかし、2020年から2021年にかけて、そのブランドのロゴを変更する自動車メーカーが相次いだ。
日本でいえば、2020年6月の新型EV「アリア」の発表にあわせて、日産が新しいブランドのロゴが発表されている。
欧州ブランドでは、BMWが2020年3月にWEBコミュニケーション限定とはいえ、青と白のプロペラをイメージさせるブランドのロゴを変更。同年6月からは、フォルクスワーゲンも新しいロゴの使用をスタートさせている。
また、2021年1月にはゼネラル・モータース(GM)もロゴを変更。これはなんと約60年ぶりとなるから驚くばかりだ。さらに2月にはプジョーもライオンのロゴを新しいものとしている。また3月にルノーもロゴを変更した。
振り返れば、わずか1年ほどの間に、BMWや日産、フォルクスワーゲン、GM、プジョーが揃ってブランドのロゴを変更しているのだ。
このロゴ変更のタイミングは、各社それぞれの理由が挙げられる。
フォルクスワーゲンは、2019年のフランクフルトモーターショーで、すでにロゴの変更を予告していた。日産は、ゴーン氏逮捕などという経営陣のゴタゴタの負のイメージを一新させる狙いがあったのだろう。
また、プジョーのPSAグループは、2021年にFCAと合弁し、「ステランティス」になったばかり。ブランドのイメージを新しくするのに、ちょうどよいタイミングだといえる。
また、このところ世界の自動車メーカーが一気に電動化に舵を切っている。GMの新しいロゴは、Mの部分が電気のプラグをイメージさせるというように、今回、ロゴの変更をおこなったブランドは、どれも電動化に熱心なところばかり。
そうした電動化への方向転換も、ロゴ変更を促した理由のひとつだろう。
■重要なのは根底にあるスピリットを継承すること
しかし、そうした各社の都合とはまた別の大きな特徴がある。それがデザインだ。
今回の変更されたロゴは、すべて「フラットデザイン」と呼ばれるものであったのだ。
フラットデザインとは何かといえば、文字どおりに平坦な2次元のデザインを指す。もともとは2012年ごろからIT系で流行り出している。具体的にいえば、「Windows8」や「iOS7」がフラットデザインを採用したことで、一気に広がり出した。
平坦でシンプルなフラットデザインは、それだけを見ると、微妙にもの足りない気分もしてくる。しかし、このデザインはIT的に大きなメリットを有していた。それが小さく表示されても、認識しやすい点だ。
これが、パソコンからスマートフォンなど、さまざまなデバイスに表示されるWEBデザインには、まさにうってつけであったのだ。
立体感があり、細かなディティールや陰影を持つロゴは、小さく表示されたり、横長や縦長など、さまざまな表示方法のなかできれいに見せることが難しい。一方、フラットデザインのロゴであれば、小さな表示でもきれいに見えて認識されやすい。
つまり、今回の各社のロゴ変更は、パソコンからスマートフォンなど、さまざまなデバイスで視聴されるWEB媒体で認識されやすくするためというのが狙いであったのだ。実際にBMWは、新しいロゴは「WEBサイトでのコミュニケーションに限定する。実車のロゴは従来のまま」としている。
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振り返ってみれば、自動車メーカーのロゴは、時代時代にあわせて変化してきている。
不変のように感じるメルセデス・ベンツでさえ、時代によってスリーポインテッドスターの表示は微妙に変化しているのだ。
約60年ぶりの変更となるGMも、それ以前には何度もロゴを変更している。ただし、重要なのは、その根底にあるスピリットをしっかりと継承していることだ。
日産の場合は、創業者の鮎川義介氏の「至誠天日を貫く(強い信念があれば太陽も貫く)」という言葉がある。丸い太陽に横に貫く日産の文字は誠実さを表しているという。そうした基本は、日産の新しいロゴにも継承されている。だからこそ、新たなロゴを見ても、誰もがすぐに日産だと認識できるのだ。
今回のブランドロゴの変更は、それぞれのブランドロゴにどんな意味が込められているのかを再認識する機会にもなる。ぜひともチェックするとよいだろう。