日産が2021年秋に発売する予定の新型「ノートオーラ」は、ベース車の「ノート」とどのような違いがあるのでしょうか。パワートレインにまで手が加えられた、さまざまな改良ポイントを見ていきます。
■質感の高さに磨きがかけられた日産新型「ノートオーラ」
事業構造計画発表「NISSAN NEXT」を発表してから1年、決算の数字は決して良好とはいえませんが、「キックス」を皮切りにニューモデルを次々と発表・発売。新型コロナ禍ながらも販売実績も伸びはじめており、ブランド回復への歯車が回り始めています。
そんな日産のビジネスを支える重要な一台といえばBセグメントのコンパクトハッチバック「ノート」です。
すべてを刷新し、現代のクルマに求められる性能を高度にバランスしたモデルになったことで、筆者は「コンパクトカーの新たなスタンダード」だと感じました。
セールスも好調で、日本自動車販売協会連合会が発表する乗用車車名別販売台数を見るとトップ10の常連です。ただ、上には上がいるのも事実ですが……。多くのユーザーに支持してもらうにはニーズを逃さない幅広いバリエーションが必要となります。
恐らく、先代にも設定されていた「NISMO」や昨今人気の「クロスオーバー仕様」などが待ち望まれていますが、そのひとつの答えがノートの兄貴分となる上級仕様「ノートオーラ」です。
ノートとノートオーラ、まずターゲットユーザーが違います。
ノートはコンパクトカーからの乗り換え/軽自動車からのアップサイザー層ですが、ノートオーラはセダンからのダウンサイザー/輸入車からの乗り換え層で、ズバリ「小さな高級車」と称されるプレミアムコンパクトのキャラクターが与えられています。
この辺りは、日産にはノートの上に位置するCセグメント・ハッチバックが国内向けには未設定(海外向けはパルサーが存在)のため、「広い範囲をノートでカバーする必要がある」という、日産のお家事情もあったと思っています。
では、ノートと何が違うのでしょうか。
エクステリアは基本的なフォルムはノートと共通ですが、アリアとの共通イメージをより高めた前後の専用デザインとワイドボディ化(1695mmから1730mmへ全幅拡大)、そして17インチの樹脂加飾付アルミホイールなどの採用で、先進感とプレステージ性がプラスされています。
個人的にはノートで気になっていた部分のひとつだった、5ナンバーサイズにこだわるが故に軽自動車のように平面的に感じていたボディサイドの造形が、ノートオーラでは少しだけ寸法をプラスしただけですが抑揚のあるフォルムに。
僅かな違いかもしれませんが、その効果は大きく、個人的には「こちらがオリジナルデザインなのでは!?」と思ってしまうくらい自然な仕上がりです。
インテリアはノートもクラスレスな質の高さがウリでしたが、ノートオーラはそれに磨きが掛けられています。最大のポイントは12.3インチのフル液晶メーターの採用でしょう。
2種類の表示モード(エンハンス表示がお勧め)やセンターにさまざまな情報が表示可能になったことにより、先進性だけでなくインテリアとの調和も増しています。
また、ツイード表皮/木目調パネルなどの加飾やシフト周りのイルミネーション、専用シート(標準:ツイード、OP:本革)などが採用されていますが、いわゆる華美な豪華さではなくモダンリビングのような仕立ての良さがポイントです。
ただ、コーディネートは違うとはいえ、考え方がノートのスペシャル仕様「AUTECH」と被るのが少々気になる所でもあります。
惜しいのは、各部の質感が高まったことで、前時代的なデザインの空調コントロールとインパネ下側のハードプラスチック部の質感の低さがノートよりも目立ってしまったことです。この辺りは今後のカイゼンに期待です。
目に見えない部分に関しても抜かりなしで、ひとつ目が「静粛性の更なる向上」です。
個人的にはノートでも十分以上のレベルだと思っていましたが、ノートオーラではドアラミネートガラスや高級車の遮音技術の導入や吸音・遮音材の最適配置などがおこなわれ、乗り比べると「やはり上には上がある」と。
具体的にいうと、ノートは“高速域”でEV→エンジン始動がわからないレベルでしたが、ノートオーラは“常用域”でもわからないレベルの静かさなのです。
ちなみにノートオーラには国産コンパクトモデル初採用となるBOSEパーソナルプラスサウンドシステム(8スピーカー)が装備されていますが、走行中もボリュームを上げることなく広がりのあるクリアなサウンドを楽しめました。
■加速にも余裕! 日産新型「ノートオーラ」の実力は
ふたつ目が「パワートレインのゆとり」です。
システムはノートと同じ(1.2リッター直列3気筒エンジンで発電した電力でモーターを駆動させるe-POWER)ですが、最大出力(85kWから100kWへ)や最大トルク(280Nmから300Nmへ)がそれぞれ引き上げられています。
こちらもノートで十分だと思っていましたが、「やはり上には上がある(2回目)」と。乗り比べると「凄くパワフルになった」というよりも、発進時や追い越し加速時に「余裕ある力強さ」を実感しました。昔風にいえば「+●●●ccの余裕」といったイメージが近いのかもしれません。
それがもっともわかるのはドライブモードのなかでも一番穏やかな「ECO」での走行時です。十分以上のパフォーマンスから、「NORMALが必要ないのでは!?」と思ってしまったくらいです。
そして「SPORT」は俊敏なレスポンスと伸びの良い加速感から、プレミアム“スポーティ”コンパクトと呼びたくなる爽快さです。
三つ目は「コンパクトを忘れるフットワーク」です。パワートレインの出力アップに合わせてサスペンションを最適化し、ノートに対して1インチ大径化されたタイヤ(205/50R17:ブリヂストン・トランザT005A)が採用されています。
常用域は偏平タイヤの影響もありノートよりもわずかにコツコツ感はありますが、ノートよりもシットリした足の動きと吸収性の高さからくるザラザラ/ビリビリの少なさ、そして本来スカイラインクラスでないと採用されない3層構造シート(本革)の座り心地の高さも相まって、動的質感に関しては上級のシルフィ/ティアナを軽く超えるレベルです。
ハンドリングに関しても明確な差を感じました。ノートは床下にバッテリーを搭載していることを忘れるくらい軽快なフットワークが特長ですが、ノートオーラは逆にいい意味で重さを活かしたドッシリしたフットワークでコンパクトハッチらしからぬ落ちつきの良さが印象的です。
ただ、追い込んだ走りを試してみると、ノートよりも高い接地性や直結感の増したステアフィール、サスペンションセットとグリップの増したタイヤのバランスの良さから、「おまえはNISMOか?」と思ってしまうくらいの質の高いスポーティさが顔を出します。
個人的にはシャシとタイヤのマッチングという意味では、ノートよりもバランスが取れているような!?
ちなみにノートではFF/4WDで乗り味に明確な差がありましたが、ノートオーラは上記の乗り味からその差は少なめです。
個人的にFFのほうが、ノートオーラの「小さな高級車」というコンセプト、コンパクトらしい部分とコンパクトらしからぬ部分のバランスがいいと感じました。
そろそろ結論にいきましょう。ノートオーラは、「サニー」をベースに高級車仕立てされたかつての「ローレルスピリット」のような存在といえますが、それと根本的に違うのは「見せかけ」だけでなく「本質的」な部分まで上級化されているという所でしょう。
そういう意味では、日本初となる“真”の和製プレミアムコンパクトなのかもしれません。