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なぜ「女性ありき」の新型車減った? 昔はアルトに「麻美スペシャル」存在も! 時代の変化で何が変わったのか

くるまのニュース 2022年9月1日 9時10分

1980年代と2010年以降では同じ「女性」をターゲットにした新型車でもその手法に変化があるようです。実際にスズキやダイハツなど昔から今に至るまで女性をターゲットにしたクルマ作りにはどのような変化が見られているのでしょうか。

■かつてはピンクな内装の「女性向け」モデルがあった?

 1980年代には、ピンク色の内装やバニティミラーなどを備えた「女性向け」のモデルが存在していました。
 
 一方、最近ではそうしたモデルをあまり見ることはありません。そこにはどんな事情があるのでしょうか。

 女性の社会進出が進んだ昨今では、政府や国の主要なポストに女性が選ばれることも多くなりました。

一部では、まだまだ不平等が残っているという指摘はありますが、かつてに比べれば状況はかなり改善しているといえます。

 一方、現在販売されているクルマを見ると、かつてほど「女性向け」であることを積極的にアピールしたモデルやグレードは少なくなったように思われます。

 もちろん、マーケティング上のターゲットが女性であったり、結果的に女性に支持されるようなモデルやグレードはありますが、男性が購入したり運転したりすることをためらうようなものはほとんどありません。

 しかし、1980年代には三菱「ミニカ」の「エコノ マリエ」やスズキ「アルト」の「麻美スペシャル」のような、いかにも女性をターゲットとしたようなモデルも存在。

 これらのモデルには、往々にしてピンク系の内装色が用いられていたり、バニティミラーが標準装備となっていたりするなど、女性が快適に利用できるような装備が搭載されていました。

 とくに「麻美スペシャル」では、スカートを履いた女性がスマートに乗り降りできるように、回転式の運転席が搭載されているほどでした。

 当時はクルマを運転する人の多くが女性だったというわけではありません。また、自動車メーカーの開発担当や商品企画担当に女性が多かったというわけでもありません。むしろ、どちらも現在のほうが女性比率は高まっています。

 女性向けのモデルやグレードが少なくなった背景には、女性が社会進出を果たすようになったことで、社会的な性差、つまりジェンダーギャップが以前に比べて小さくなったという世の中のトレンドの変化があります。

 例えば、「女性はピンクを好む」というイメージは、現代ではあまりにステレオタイプなものといえます。

 もちろん、ピンクを好む女性も少なくありませんが、すべての女性がピンクを好んでいるわけではありません。

 クルマに関しても同様です。「女性は小さいクルマを好む」や「女性やスポーツカーやクロカンは好まない」、さらには「女性は運転があまり得意ではない」というイメージが根強いのも事実ですが、実際には「女性」でカテゴライズすること自体がナンセンスです。

 そもそもほとんどすべてのクルマは、男女問わず安全かつ確実に運転できるように設計されています。

 身長や体型によっては、運転のしやすさに多少の違いがあるかもしれませんが、それは性別による差というよりは個人差といったほうが適切です。

 一方で、これまで女性向けとされてきた装備や仕様の多くは、現代では男性にもマッチするものとなっています。

 例えば、「麻美スペシャル」に用意されていたツートーンの内装は、現代では男女問わず受け入れられるものといえます。

 このように考えると、「女性向け」のモデルやグレードを企画・開発すること自体が、男性中心の考えだったのかもしれません。

■ムーヴキャンバスが女性に支持されるのは、ジェンダーレスだから?

 現代では、自動車メーカーの開発担当や商品企画担当にも女性が多く見られるようになった結果、「女性視点で考えた、女性がほしいクルマ」が登場するようになりました。

 スズキでは、2013年に若年女性の好みを意識した専用デザインを採用した軽乗用車の2代目「アルト」に「アルトラパン ショコラ」を設定しています。

 2015年に登場した3代目「アルトラパン」では、女性がクルマに求めるものの調査・分析をおこなうほか、女性社員も企画から開発、デザイン、機能・装備、アクセサリーの設定にいたるまで携わってました。

 またダイハツでも2018年に登場した「ミラ トコット」では、企画・開発に際しては、近年の若年女性の感性の変化に着目。ターゲットに近い女性社員で構
成されたプロジェクトチームが企画に参画しています。

 最近でも2022年7月にフルモデルチェンジを果たしたダイハツ「ムーヴキャンバス」はそんなモデルのひとつです。

 愛らしいルックスと使い勝手の良さを武器に、先代から女性人気の高かったムーヴキャンバスですが、新型では個性的な2トーンカラーの「ストライプス」と、上質で落ち着いた印象の「セオリー」というふたつの仕様が用意されています。

ダイハツ新型「ムーヴキャンバス」(ストライプス)

 ムーヴキャンバスは若い女性をメインターゲットに企画開発されており、実際に先代では女性のユーザーが大部分を占めていたといいます。

 しかし、先代も新型もかつての「女性向け」のモデルのようなステレオタイプな女性のイメージを強調しているわけではありません。

 たしかに、ピンク系のボディカラーを選ぶことはできますが、あくまで選択肢のひとつでありメインカラーではありません。

 それどころか、「セオリー」に関しては、彩度を落とした「くすみ系」のボディカラーが中心となっており、「女性=ピンク」のような世界観とは掛け離れています。

 ダイハツによれば、実際のクルマの使用状況を見ると、当初のターゲットであった若い女性に加え、父や兄弟などともクルマを共有するケースが少なくなかったことから、男女問わず使用できるようなモデルとしての性格を強める必要があったと説明。

 その結果、新型ムーヴキャンバスは性別の違いを感じさせない、ジェンダーレスな印象の強いモデルとなりました。

 それは単に男女のどちらもが使用しやすい最大公約数的なモデルとなったことを意味しているわけではありません。

 現代では、好みの違いは性別の違いから生じるものではなく、あくまで個々人の価値観の違いによって生じるものであるという考え方が主流となりつつあります。

 つまり、クルマのような多くの人を対象とした製品については「女性向け」や「男性向け」という考え方自体が過去のものとなっています。

※ ※ ※

 そんな新型ムーヴキャンバスは、発売から1か月で月販目標台数の4倍となる約2万6000台の受注を得るなど、上々の滑り出しを見せています。

 クルマ自体の出来がすばらしいことはもちろんですが、男女の違いにとらわれないクルマづくりの姿勢が、結果的として現代の女性の感覚にマッチしたといえるでしょう。

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