フランスのルノー・グループと中国のジーリーがエンジン生産のための合弁会社を設立することがわかりました。昨今、電気自動車の勢いが強かった欧州・中国ですが、ここにきてなぜエンジン生産を行う合弁会社を設立するのでしょうか。
■フランス・ルノーと中国・ジーリーが新たなエンジン生産の会社を設立
2023年7月11日にフランスのルノー・グループと中国のジーリーがエンジン生産のための合弁会社を設立することがわかりました。
昨今、電気自動車(EV)の勢いが強かった欧州・中国ですが、ここにきてなぜエンジン生産を行う合弁会社を設立するのでしょうか。
ルノー・グループは日産や三菱と「ルノー・日産・三菱アライアンス」を形成し、2022年世界販売台数では世界4位の615万6777台を誇ります。
ルノー・日産・三菱のアライアンスでは、プラットフォーム、生産工場、パワートレイン、車種セグメントなどの共通化を図ることで、グローバルの各市場に沿った商品展開を勧めてきました。
例えば、C/Dセグメントの共通プラットフォームを用いて、ルノー・日産・三菱から5モデル日産「キャシュカイ」「エクストレイル」、三菱「アウトランダー」、ルノー「オーストラル」、今後の「7人乗りSUV」が展開されていきます。
一方、今回発表された提携の相手であるジーリー(吉利自動車)は純中国メーカーとしては中国第2位の販売台数を誇る自動車会社です。
「ジーリー・グループ」としては2010年にボルボ、2017年にはロータスなどの名門ブランドを次々と買収、2022年はグループ全体で年間230万台を生産する規模にまで成長しました。
今回の提携ではルノー・グループとジーリーが50対50の出資をおこない、新たな会社を作るとしています。
新会社はガソリン車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車向けのエンジンやトランスミッションの研究開発が目的で年間500万ユニットの出荷を目指すとのこと。
スペイン・マドリードにあるルノーの施設と、中国・杭州にあるジーリーの施設を基幹とし、本社機能はイギリスに構える形になります。
両グループが保有するエンジン関連の知的財産をそれぞれの施設に移管することで、世界中の市場の要望に応えられる開発環境を整える計画です。
新会社で開発されたエンジンはルノー・グループのルノー、アルピーヌ、日産、三菱。
そしてジーリーグループのジーリー、リンク・アンド・コー、ギャラクシー、ボルボ、プロトンなどへの供給を予定しています。
そして将来的にはルノーとジーリー以外のメーカーへの供給も視野に入れており、また新たな会社との提携も可能とのこと。
エンジン(内燃機関)のイメージが薄い中国メーカーですが、実はエンジン開発における進歩は目まぐるしく、日本勢とも肩を並べつつあります。
中国が国家をあげて推し進める新エネルギー車(中国語:新能源車)政策には純電動の「電気自動車(BEV)」だけでなく、エンジンを必要とする「プラグインハイブリッド車(PHEV)」、そして水素で動く「燃料電池車(FCEV)」が含まれています。
また、それら新エネルギー車だけでなく、従来のハイブリッド車(HEV)の販売促進と燃費のさらなる改善も国家プロジェクトに含まれており、それらに呼応するように中国メーカーは新エンジンの開発を進めています。
■熱効率45%は当たり前の時代に… 日産も注力する新たなエンジン開発
ここ数年で中国メーカーによって開発された新エンジンはどれも熱効率40%超は当たり前の状況となっています。
またいくつかのメーカーではすでに45%超を達成しており、PHEVやレンジエクステンダー付きEV、HEVにこれらのエンジンを搭載することで燃費と航続距離の向上を図る形になります。
ジーリーも積極的に新エンジンを開発している中国メーカーのひとつであり、2023年3月には熱効率44.26%を達成した「BHE15 Plus」を発表。
そして立ち上げたばかりの新ブランド「ギャラクシー(銀河)」の第1弾モデル「L7」に搭載させています。
L7は2023年5月に発売され、発売33日後には累計1万台目のL7が工場からラインオフしました。
また、ジーリーは現在開発中の次世代エンジンで熱効率46%を達成したとも明かしており、近日中の市場への投入が期待されています。
エンジン開発におけるノウハウを蓄積している最中のジーリーがルノー・グループと提携することで、多くのメリットが期待できます。
例えば、日産は自社開発のシリーズ方式ハイブリッドシステム「e-POWER」専用エンジンの改良をおこなっています。
2021年2月26日に日産は次世代の「e-POWER」向け発電専用エンジンで、世界最高レベルの熱効率50%を実現する技術を発表していました。
エンジン開発に関する多くの技術を保有する日産がジーリーと手を組めば、お互いにとっての内燃機関におけるさらなる飛躍が期待できます。
一部では「エンジン開発は不要になる」と言われますが、実は「これからの時代」こそが新たなるエンジン開発時代の幕開けになるとも考えられます。
この新たな提携によって「BEV一辺倒」ではない、内燃機関も選択肢の一つとして残る未来が大きく期待できます。
新会社がエンジン業界の勢力図においてどのようにプレゼンスを発揮するかに注目です。