自動車教習所などでは「スピードを出しても到着時間は変わらない」という「格言」をしばしば耳にします。それは事実なのでしょうか。
■急ぐことで到着時間はどのくらい変わる?
スピードを出しても到着時間は変わらないーー。
あるユーザーがSNSに投稿したそんな「格言」をめぐって、インターネット上ではちょっとした議論が巻き起こっています。
もちろん、これは必ずしも正確ではありません。
たとえば、100kmの道のりを60km/hで走り続けると所要時間は100分となりますが、80km/hで走れば所要時間は75分となります。
つまり、25分早く目的地に到着することができるわけで、スピードを出した分だけ到着時間も早まっている計算となります。
一方、これはあくまで理論上の話であり、この計算が成り立つのは深夜の高速道路などの極めて限られたシチュエーションのみです。ほとんどの場合、ほかのクルマの流れや信号などを含めた交通状況を考慮する必要があります。
より具体的な例として、10kmの道のりを一般道で30分かけて走行するケースを見てみましょう。
このケースの平均走行速度は20km/hですが、もしこれが40km/hになると計算上は15分で到着することができます。
しかし、この区間中に10個の信号があり、それぞれ1分ずつ停止していたと仮定すると、所要時間のうちの10分間は走行速度が0km/hということになります。
これを含めて15分で到着しようとすると、信号で停止している以外は120km/hもの平均走行速度を維持しなければならず、明らかに現実的ではありません。
実際には、急いだ場合に向上する平均走行速度はせいぜい5%程度であると考えられます。そして、それによる到着時間の短縮はわずか1分程度にすぎません。
このことから、急ぐことによって得られるメリットはほとんどないということがうかがえます。
■事故や違反のリスクを考えると急ぐメリットは皆無
もちろん、1分1秒でも早く到着したいというケースを考えると、急ぐことにもメリットがまったくないわけではありません。
ただ、事故や違反のリスクを考慮すると、やはりそのメリットは限りなく小さいと言わざるを得ません。
もし仮に、通常時の運転では0.01%、急いでいる場合の運転では0.1%の確率で事故や違反を引き起こしてしまうとしましょう。
ある1日だけを見ると、どちらも事故や違反のリスクはほとんどないように思われます。
しかし、通勤などで日常的にクルマを使用するユーザーを想定し年間で200日運転する場合で計算してみると、1年間に事故や違反を引き起こす確率は、通常時の運転が2%、急いでいる場合の運転が20%となり、急ぐことのリスクが浮き彫りとなってきます。
言うまでもなく、これも簡単な計算に基づく机上の空論でしかありません。
ただ、急いで運転をするユーザーのほとんどは、こうした簡単な計算すらおこなうことはないのではないでしょうか。
ケース・バイ・ケースであることはもちろんですが、信号無視やスピード違反といった重大な違反でもしない限り、急ぐことによって大幅な時間短縮が図れる可能性は往々にして皆無です。
その一方で、衝突時の衝撃はスピードに応じて加速度的に増していくなど、急ぐことのリスクは決して小さくはありません。
結局のところ、急ぐことによるリターンの小ささとリスクの大きさを考えると、余裕をもって出発するなどの対策をとることが最適解と言えそうです。
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たしかに、ほかのクルマの影響をほとんど受けず、信号や制限速度などの規制も受けないのであれば、到着時間は大幅に短縮することが可能であるのも事実です。
しかし、それが法律で認められているのは、救急車や消防車、パトカーなど、人命救助などに関わる一部の車両のみにすぎません。
急がなければならない事情は人それぞれですが、それがどのような事情であっても、一般のユーザーが道路交通法を無視する理由にはならないことは言うまでもありません。