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アメリカでサッカー人気が盛り上がらない理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年6月10日 11時59分

 今週いよいよブラジルでワールドカップが開会します。ですが、ここアメリカでは全く盛り上がっていません。このブログでは過去のW杯や女子のW杯などの際にもお話したのですが、とにかくアメリカ人のサッカーへの無理解というのには愕然とさせられます。「子供のスポーツ」とか「女の子のスポーツ(実際女子の代表は強いですが)」というイメージで見ている人がほとんどなのです。

 どうしてなのでしょう? よく言われるのは、「四大スポーツ(野球、フットボール、バスケ、アイスホッケー)」に圧倒的な人気があり、そこに個人技のゴルフとテニスが入るともう「いっぱいいっぱい」だという解説です。確かにそうかもしれませんが、それ以前にサッカーの魅力を全く理解していないということが大きいと思います。

 アメリカ人に言わせると、「フットボールと違って一人でボールを持って駆け込めないのはつまらない」とか「アイスホッケーみたいに前へ前へ投げ込んで、取られても当たって奪い取るのが好きなのに」あるいは「MFもDFも局面によってはシュートを打っていいなんていういい加減な役割分担は嫌い」とか、とにかくトンチンカンな誤解が多いのです。

 オフサイドにいたっては取られると「理不尽だ」と審判を「敵呼ばわり」ですし、多少「当たった」だけでイエローやレッドが出ると「興ざめだ」とか「やっぱり子供のスポーツだ」となるのです。

 呆れてモノが言えないのが「45分間ダラダラ走っている割に点がほとんど入らないので退屈」という意見です。例えばアメリカン・フットボールにしても、バスケやホッケーにしても「時計の動く、動かない」という「計時の妙味」というのがあるわけで、サッカーはその点ではせっかちなアメリカ人の時間感覚には合わないようです。

 またサッカーのことをよく知らないので、個人個人が高度な反射神経と柔軟な頭脳を持って、それこそ「指揮者のいないオーケストラ」のように、スペースを使い、ボールをコントロールしていく面白さを全く理解できていないということもあります。

 そんな中で、アメリカがW杯で勝ってしまえば、それで一気にサッカー人気が浮上するだろうということも言われていました。ですが組み合わせを見ると、今回も絶望的なようです。G組は「死の組」という人もありますが、誰が見ても有利なのはドイツとポルトガルで、ガーナには多少の下克上の可能性はあっても、アメリカ代表に関しては「果たして勝ち点が取れるのか?」というのが世界中のサッカーファンの理解でしょう。

 アメリカでは、ベテランのランドン・ドノバンが代表から外れたというのは大きなニュースになりましたが、では選出された選手のことはというと、一般のアメリカ人の間では全く知られていないというのが、正直なところです。



 アメリカ代表の戦いに関する予想といえば、実際にアメリカのメジャーなスポーツ雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』のシミュレーション記事が実に正直でした。かなり大きな特集を組んでいるにも関わらず、アメリカに関しては「初戦のガーナ戦を落としたら即死」だという何とも情けない「分析」が乗っています。

 この記事ですが、アメリカが決勝トーナメントに行くシナリオは「ガーナ戦で勝ち点3、ポルトガル戦はゼロゼロでドロー狙い、ドイツ戦はその時点でドイツが消化試合になって二線級で戦ってくれる可能性にすがる」といういい加減なものでした。仮にドイツが主戦級を外しても勝ち点3はムリ、ということは要するにダメということです。残念ですが、勝ち点はゼロか1というところではないでしょうか?

 ちなみに、日本ですが、C組は本当の意味で「死の組」だと思います。厳しいですが非常に面白そうな組です。予想という意味では、まずは一つ一つ勝っていくしかないのでしょう。ですが、漠然と期待しているのが例えば最終のコロンビア戦に決勝トーナメント進出がかかる中で、プレッシャーを跳ね返して拾っていくというような展開です。その勢いを駆って、ベスト8まで行くためには、そのぐらいのドラマが必要だと思います。

 とにかくベスト16で「見ている方も、やっている方も」何となく満足してしまい、決勝リーグ初戦で敗退しても「まあ良かったね」という光景は、2回で十分だということです。

 準々決勝という「全く経験したことのない5試合目の風景」に立つことで、A代表の一人一人がどう輝けるか。どう成熟して、またどう成熟を拒否して、どう躍動するのか、何としても見てみたいと思います。

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