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アメリカやヨーロッパから「ISIS」への志願者、その背景は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年9月9日 12時49分

 シリアから始まってイラク北部に「点と線」の支配地域を広げている「イスラム国」ことISISですが、ここへ来てアメリカやヨーロッパからの参加志願者が増えていると言われています。

 その背景ですが、現時点では3つの要因を挙げることができます。

 まず、第一の要因はイスラム系の移民として生まれた、あるいは育った人々が、欧米の社会の中で有形無形の差別を受けて、反欧米のカルチャーに吸い寄せられてしまうという例です。

 例えば、ISISはアメリカ人のジャーナリストを殺害するにあたって、英国のロンドンのアクセントで喋る男を「処刑人」としています。この殺害犯に関しては、声紋などからイギリス出身のパキスタン系の男と特定されているようです。

 また、先週末にはスコットランドのエジンバラ出身の19歳の女性が、自分はISISの闘士と結婚すると宣言して、親の止めるのも聞かずにシリアに走ったというエピソードがCNN経由で流れました。このケースも、その嘆いている親御さんはパキスタン出身だそうです。

 こうしたケースはここ数十年、イスラム系の移民が増加しているヨーロッパにおいて顕著ですが、アメリカでも例があります。例えば、2009年の11月に、テキサス州のフォートフッド陸軍基地内で乱射事件を起こして死刑判決を受けている、ニダル・マリク・ハサン死刑囚は、最近になってISISの指導者であるアル・バグダディに書簡を送って、自分をISISの「イスラム国の国民」にして欲しいと頼んでいたそうです。

 ハサン死刑囚の場合は、イスラム系の陸軍軍医であり、イラク戦争の影響を受ける中で事件を起こし、更に死刑判決を受ける中でISISに引き寄せられていったと見ることができます。

 第二の要因は、特にアメリカの場合ですが、軍人やその周囲の人物で、イラク戦争やアフガン戦争に関与する中で、心の傷を受けると同時に反米思想に接近していったというケースがあるようです。このハサン死刑囚の場合は、こちらのカテゴリにも該当するかもしれません。

 帰還兵としてPTSDに苦しんだとか、そうしたケースが戦友や家族にいるとか、あるいは戦争で一旗上げたかったが戦争が終わってしまったとか、とにかく個々のケースに関しては具体的にはバラバラですが、アメリカの軍に関係する中で「戦争の闇」を実感して反米に傾き、そしてISISに引き寄せられていったというケースです。



 第三の要素としては、これは要因と言うよりはテロリスト募兵の手段ですが、とにかくSNSなどインターネットの使い方が上手いわけです。インターネットを通じて、敵国の世論を沸騰させたり、反対に恐れさせたりといった世論操作もさることながら、個々の「不満分子」を自分の陣営に引っ張り込むためのコミュニケーション術は洗練されています。

 特にプロパガンダ目的での動画の使い方が上手く、アルカイダの場合は、わざわざ解像度の低い動画で「おどろおどろしさ」を出していた気配がありますが、このISISの場合は凄惨なシーンを高精細で撮影・配信することで効果を出しています。

 そうした現代ならではの方法で、潜在的な支持者を増やし、そうして狙いを定めたターゲットは、自分たちの仲間に引っ張り込む、そうしたテクニックは相当に巧妙であるようです。そうしたIT利用が「クール」だということから、アメリカの若者の中では、特にイスラム教徒でもないのに「サブカルチャー的な興味」でISISに接近する層もあります。

 では、オバマ政権としてはどのようにして、このISISに対抗していこうとしているのでしょうか? この件に関しては、大統領として、当初「まだ戦略が確立していない」という発言を流してしまったことが、今になって大きく叩かれています。とにかく、オバマとしては積極的に行動して、特にクルドの人々などへの人道上の問題を食い止めなくてはならない、政治的にはそうした状況です。

 だからと言って、オバマとしては地上軍の派遣というのは、過去の政治的な方針を捨てることになりますし、世論の支持も望めないでしょう。ということは、現状のようなイラク中央政府やクルド勢力への軍事顧問団派遣に空爆を加えるというスキームから外れるのは難しいということになります。

 一つの考え方としては、イラク政府、イラン政府、NATOがしっかりと連携をして、その枠組の中でクルドの自治を認めるということ、つまりISISの周囲を外交によって固めることが必要と思います。その次の問題としては、シリアが鍵になりますが、ISISのエネルギーを止めるには、シリアの内戦を終わらせなくてはならないわけで、非常に難題であると同時に注目点です。シリア問題にはロシアも絡んでくるだけにいっそう複雑です。

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