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米ロの軍事「スター・ウォーズ」第2章

ニューズウィーク日本版 2014年12月15日 12時19分

 外交はSFより、ずっとずっと奇なり──とはまさにこのことだろう。

 11月初旬、来年公開されるスター・ウォーズ最新作の題名が『スター・ウォーズ ザ・フォース・アウェイクンズ』と発表された。同じ頃、ニューヨークの国連総会第1委員会では、宇宙における武器使用を禁じるべきかどうかの議論がなされていた。

 この委員会で行われた軍縮をめぐる投票は、映画の題名ほど話題にならなかった。しかし、宇宙兵器を禁じようとする外交団の努力は間違いなく、ある事実を示している──SF映画に登場するような驚異的な殺傷武器が現実になりつつある、ということだ。

 近年、宇宙空間における軍拡競争はますます激しくなっている。アメリカの軍事産業では、磁気流体力学爆弾(MAHEM)や戦術高エネルギーレーザー、そのほか未来的な武器の開発が進んでいる。ロシアも「衛星砲」のような試みをし、その計画は実現しなかったものの宇宙空間での兵器実験を続けている。

 しかしロシアは中国と共に先月初め、宇宙で何が許され、許されないかを決める国際条約につながりそうな国連決議案を提案した。「(宇宙開発が)より高度になるにつれ、最終的な利用法をコントロールするのはますます難しくなる」と、ジュネーブ軍縮会議のロシア代表であるウラジーミル・エルマコフ外務省軍事戦略部長は語った。

レイキャビク会談の傷痕

 宇宙での武器使用を制限しようとする本当の理由は、冷戦時代にさかのぼる。ロシアは長い間、宇宙兵器の開発で宿敵アメリカに後れを取ることを心配してきたのだ。

 86年10月、アイスランドの首都レイキャビクでソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長と、アメリカのロナルド・レーガン大統領が軍縮をめぐる首脳会談を行った。だが合意は土壇場で決裂。ゴルバチョフがすべての大陸間弾道ミサイル(ICBM)の解体を主張したのに対して、レーガンは自らが打ち出した米戦略防衛構想(SDI)を諦めようとしなかったからだ。



 米本土へのミサイル攻撃を宇宙兵器で撃ち落とすSDIは「スターウォーズ計画」とも呼ばれたが、これがソ連崩壊を早めたと専門家は考えている。その説によればゴルバチョフは、宇宙防衛兵器の開発でアメリカに対抗すれば、急速に悪化しつつあるソ連財政が破綻すると判断。国力復活のために改革を進め、結果的にソ連は解体した。

 最近、ICBM防御を含む宇宙防衛兵器への関心を呼び戻したのが、イスラエルとアメリカが共同開発したミサイル防衛システム「アイアンドーム」だ。今夏の紛争で、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスからイスラエルに撃ち込まれたロケット弾に対し、アイアンドームは驚くほど高い迎撃率を見せた。

 ICBMはほとんどが地上に配備されているが、支援・誘導システムは宇宙にある。その宇宙で、ある国が別の国にミサイルを誤射したら、初期対応防衛システムが作動し、意図せぬ全面核戦争が勃発するかもしれないと、軍縮問題の専門家は考えている。

 こうした不安からか、またはアメリカに後れを取ることを恐れてか、ロシアは宇宙の軍縮条約につながる国際的合意に向けて努力を倍加させている。

選挙で躍進した米共和党が新たな壁に

 しかし国際社会では、さまざまな国の思惑が影響し合う。国連総会第1委員会での軍縮をめぐる投票結果は地政学の現実と、ロシアとアメリカの相互不信を浮き彫りにした。

 ロシアと中国が提案した国連決議案は賛成126カ国で可決されたが、ほとんどの欧州諸国とアジア・オセアニア地域のアメリカの同盟国など46カ国が棄権した。重要なのは、アメリカとその同盟国イスラエル、ロシアの拡張主義を恐れるグルジアとウクライナの4カ国が反対票を投じたことだろう。

 アメリカは「公正かつ効果的に検証でき、すべての国の安全保障を強化するような宇宙軍縮の提案や構想なら喜んで検討する」と、米代表のクリストファー・バックは述べた。だが今回の中国とロシアの提案は「そうした基準を満たしていない」。



 一方、11月の米中間選挙では共和党が上院の過半数を確保。国際条約を批准するのは上院と憲法で決まっているため、たとえバラク・オバマ大統領が望んでも、アメリカが宇宙軍縮問題について拘束力のある条約を締結するのは難しいだろう。防衛に関しては多くの共和党議員が、世界におけるアメリカの軍事的リーダーシップを抑え込むような国際条約を警戒する。

 となると、現実はSF映画のようになっていくのか? 皮肉なことに、武器条約が軍拡競争を止めることはめったにない。

『スター・ウォーズ』最新作では、これまで以上に非現実的な兵器で武装した豪華宇宙船が登場するだろう。そして現実の世界では、そうした特殊効果を本物に変える破滅的な作業がひそかに進んでいる。

[2014.12. 9号掲載]
ベニー・アブニ

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