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24時間豊胸にブームの予感と不安

ニューズウィーク日本版 2015年6月23日 11時44分

 ニューヨークの高級住宅街アッパー・イーストサイド。その一角にあるノーマン・ロウ医師のクリニックには、金曜日の午後になると女性が1人、また1人とやって来る。彼女たちは1時間もしないうちに帰っていく。数カップ大きくなった胸に、満足そうな笑みをたたえながら。

 ただし、その効果がフルに持続するのはせいぜい真夜中まで。土曜日の昼近く、のんびりブランチを取る頃には、すっかり元の胸のサイズに戻っている。

 ロウはこの24時間だけのプチ豊胸を、本格的な豊胸手術の「お試しプラン」として提供している。利用者の評判は上々だ。「一番よく聞く苦情は、『もっと大きくすればよかった』だね。『やめればよかった』と後悔する声は聞かない」

 プチ豊胸は、生理食塩水をバストに注射するだけの簡単なもの。気持ちがいいものではないが、身をよじるような激痛はない。「『痛いからもうやめて』とストップをかけられたことは一度もない」と、ロウは胸を張る(あと少しだけ大きくしたい、と痛みをこらえている患者もいるに違いないが)。

 これまで豊胸手術後のイメージをつかむ方法は主に2つあった。1つは、スポーツブラとぴったりしたTシャツを着てもらい、そこにパッドを入れてみる方法。もう1つは、コンピューターで手術後の胸のシミュレーション写真を作成する方法だ。

 どちらも把握できるのは視覚的な効果だけで、大きな胸を体感することはできない。「豊胸の相談に来る女性の3分の1は、気持ちに迷いがある」と、ニューヨークで美容整形外科を開業するジェニファー・キャプラ医師は語る。そんな人にプチ豊胸はぴったりだ。

 キャプラのクリニックでは、生理食塩水注入を受けた患者の約8割が、最終的に豊胸手術を受けるという。もう一度プチ豊胸をしたいとやって来る女性もいるが、3度目は断ることにしている。クリニックにとってプチ豊胸は、あくまで本格的な豊胸手術の「お試し」サービスにすぎないからだ。

原価はたった20ドルだが

 患者が何度もプチ豊胸を受けたがらないように、料金は高く設定されている。キャプラのクリニックの場合1回2500ドルだ(ただし実際に豊胸手術を受けた場合、手術費からその金額が差し引かれる)。「200ドルとか300ドルだと、1晩だけ胸を大きいしたい人ばかり集まってくる」とロウも言う。

 だが、ロウのところで2500ドル払ってプチ豊胸をしてもらったクリスティン(仮名)は、プチ豊胸を繰り返す人の気持ちが分かるという。「女優やモデルには都合がいいと思う。もちろん1日だけぴったりした服を着たい人にも。しばらくすると元に戻るから安心だ」

 手頃な料金でプチ豊胸をしてくれる美容整形外科医もいる。例えば、リアリティー番組『ボッチト』で、美容整形に失敗した人の「再お直し」を請け負うテリー・ダブロー医師。「原価は20ドル程度だ。それを患者のバストに注射するだけで2000ドルになるなんておかしい」

 どうしてもと頼まれればやるが、ダブローは基本的にプチ豊胸を勧めていない。「80%は、無意味だと思うから。20%は、わざわざリスクを犯す理由が分からないからだ」

 生理食塩水の注入にもリスクはある。全米美容整形学会のマイケル・エドワーズ会長は、「あまりパンパンに注射すると、皮膚組織が伸び切ってしまう恐れがある」と警告する。また手軽さと人気の高さから、ホテルの一室で施術する無免許業者が出てくる恐れもある。

「残念ながらアメリカでは無免許業者による美容整形手術がまかり通っている。痛い目を見るのは患者だ。美容整形手術を受けたいなら、十分な下調べをして、きちんと免許を持つ医者を見つけないと」と、オハイオ州コロンバスの美容整形外科医アン・テイラーは語る。

 下手に生理食塩水を注入すると、感染症を起こしたり、乳房組織がダメージを受けたり、最悪の場合、注射針が肺に貫通する恐れもある。

 金儲けのためだけにプチ豊胸を勧める医者もいるかもしれない。「効果が24時間しか続かないからといって間違っていると言うつもりはない。ただ、プチ豊胸は患者のメリットが非常に小さい」と、テイラーは語る。

 エドワーズはもっと辛辣だ。「パーティーに行くから胸を大きく見せたいだけなら、ブラにパッドを詰めれば十分だ」

[2015.6.23号掲載]
ポリー・モセンズ

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