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「世間知らず」の日本の教師に進路指導ができるのか

ニューズウィーク日本版 2016年1月19日 16時0分

 教師は「世間知らず」、とよく言われる。大学まで学校で学び、新卒で教員に採用されてからもずっと学校で働くことになれば、確かに学校以外の社会は経験上知らないということになる。教育の使命とは、社会が求める人材を育成すること(社会化)にもあるのだから、それを担う教員が社会を知らないというのは、いささか心もとない。

 そこで最近では、教員採用試験で社会人特別選考枠が設けられたり、教員が対象の社会体験研修が組まれて民間企業などに派遣されたりしている。2014年度の公立学校の教員採用試験では、採用者の5.3%が民間企業などの経験者となっている(文部科学省調べ)。

 いかにも少ない気がするが、諸外国では社会人経験のある教員の割合はどれくらいあるのか。経済協力開発機構(OECD)が2013年に実施した『国際教員指導環境調査(TALIS2013)』では、各国の中学校教員を対象に、教育職(教職、教育委員会勤務など)以外の勤務経験を調査している。<図1>は、主要国の回答分布をグラフにしたものだ(ドイツは調査に回答していない)。このグラフでは、教育職以外の勤務期間を社会人経験とみなしている。



 日本では、教員の8割が社会人経験ゼロだ。韓国もまったく同じような分布になっている。

 しかし欧米諸国の調査結果はかなり違う。社会人経験のある教員が多い。アメリカでは社会人経験ありの教員が8割を占め、3人に1人が10年以上の社会人経験がある。生徒に対する進路指導も、実社会の経験に裏打ちされた、リアリティのあるものが期待できる。

 各国別に教員の社会人経験の平均年数を出すと、日本が0.8年、韓国が0.7年、アメリカが8.0年、イギリスが5.3年、フランスが1.6年、スウェーデンが5.5年となっている。日本と韓国は、欧米諸国にくらべて格段に短い。

 ちなみに、教員よりも社会人の経験年数が長いケースの割合を出すと日本は3.2%しかいないが、アメリカでは32.4%もいる。<図2>は、上記の2つの指標のマトリクス上に、調査対象の32カ国を配置したグラフだ。



 右上には、アメリカとカナダが位置している。北米では,社会人経験のある教員が多い。中南米のメキシコとブラジル、その他オーストラリア、イギリスもこのグループだ。対極の左下には、日本と韓国、マレーシア、それにフランスとポルトガルもこのグループに属している。学校しか知らない教員が多い国、ということになる。

 日本では、学校とそれ以外の社会の間に深い溝ができている。アメリカの哲学者デューイの言葉を借りれば、学校が「陸の孤島」になっている。

 こうした現状は、変えていくべきだろう。最近、生徒の職場体験学習やインターンシップを実施したり、地域住民の意向を学校運営に反映させたり(学校運営協議会制度)する取り組みが進んでいるが、教員採用の門戸を社会人にもっと開放するべきではないだろうか。

 社会人経験のある教員とそうでない教員をくらべると、職業への満足度や、職務上の有能観(授業をうまく進められているかといった自己評価)は前者のほうが高い、という調査結果が出ている。進路指導や職業指導といった分野でのパフォーマンスの差はかなり大きいのではないかと推測される。そういった実務上の比較研究も、今後の重要な課題になるだろう。

<資料:OECD『国際教員指導環境調査(TALIS 2013)』>

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舞田敏彦(武蔵野大学講師)

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