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新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

ニューズウィーク日本版 2016年11月30日 17時0分

<将来に「希望がある」と感じる日本の20代の割合は、他国と比べると格段に低い。なかでも男性の正規・非正規の間の「希望格差」が突出している>

 人は将来を展望して生きる存在だ。今の状況が思わしくなくても、将来に展望が開けていると信じられるならば、それほど苦痛には感じない。前途ある若者の場合は、特にそうだ。

 世論調査のデータによると、日本の若者の生活満足度が高まってきている。昨今の若者の厳しい状況を思うと違和感があるが、それは将来に展望が開けていないことの裏返しでもある。「今日よりも明日がよくならない」と思う時、人は「今は幸せ」と答えるのだという(古市憲寿『絶望な国の幸福な若者たち』講談社、2011年)。

 逆に言うと、「今日よりも明日がよくなる」という展望が開けているなら、「今は不幸」と感じるとも言える。これからの見通しが開けているのに「今が幸福」と言いきってしまえば、将来の明るい展望に蓋をしてしまうことになるのだから。

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 未来を担う若者の意識を読み解くには、「希望」に着眼することが重要だ。しかし日本の若者は、他国にくらべて希望を持っていない。20代のうち、「希望がある」または「どちらかといえば希望がある」と答えた人の割合は、日本が54.6%、韓国が87.4%、アメリカが88.9%、イギリスが88.1%、ドイツが80.5%、フランスが80.7%、スウェーデンが89.2%となっている(内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』2013年)。日本の比率は格段に低い。

 では、希望を持っていないのはどの層か。20代のサンプルを、性別と「従業上の地位(正社員か否か)」で分けて、グループごとの希望率を計算してみると<表1>のようになる。ここでの分析対象には、在学中の学生は含んでいない。



 日本の数値は際立って低く、女性よりも男性、正社員よりも非正社員が希望を持っていない。男性では正社員と非正社員の差が大きく、後者の希望率は3割しかない。性別の役割観が強い日本では、低収入の非正規雇用男性は、結婚などの展望が持ちにくいためだと思われる。まさに「希望格差」だ。



 正社員より非正社員の希望率が低いのは他国も同様だが、日本ほどの落差はない。ヨーロッパ諸国では、キャリアが非正規雇用から始まり、徐々に正規雇用に移行していくパターンが主流というが、こうしたキャリアパスの違いにもよるだろう。新卒時に正社員になれるかどうかが重要な日本とは異なる。



「希望が持てない」日本の若者は、自殺率も高い<図1>。1990年では主要国で最も低かったが、この四半世紀の間にトップになっている。「失われた20年」は、若者の人生に大きな影を落としている。

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 この要因はいろいろあるだろう。その中でも若者の閉塞感が高まっていることは大きいと考えられる。筆者が過去30年の時系列データを検討したところ、中高年層の自殺率は失業率と強く相関しているが、若者はそうではない。若者の自殺率は、「これから先、生活が悪くなっていく」という意識と明らかな相関関係がある(拙稿「性別・年齢層別にみた自殺率と生活不安指標の時系列的関連」『武蔵野大学政治経済学部紀要』1号、2009年)。

 将来を展望して生きる若者にとって、「希望」がいかに重要であるかわかる。若者が希望を持てる社会を構築することは日本の最重要課題だ。まずは、<表1>に見られるような「希望格差」の是正が必要ではないか。22歳の就活でその後の人生が決定付けられる「新卒至上主義」のような慣行は、まずもって撤廃されるべきだ。

<資料:内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』2013年、
   WHO「Mortality Database」>

舞田敏彦(教育社会学者)

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