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モスル空爆で多数の民間人が殺された責任は誰にある?

ニューズウィーク日本版 2017年4月6日 10時30分

<米軍の攻撃を受けたイラク・モスルで多数の死者が。米軍が唱えるISIS真犯人説はどこまで本当か>

昨年10月以来、テロ組織ISIS(自称イスラム国)のイラク最後の拠点となった北部モスルの奪還作戦を進めている米軍主導の有志連合とイラク軍。

ISISを確実に掃討する一方で、今なおISISの支配下にある同市西部ジャディダ地区で3月半ば、空爆により民間人100人以上が死亡したと伝えられている。

有志連合とイラク軍はモスル東部からISISを掃討し、今はジャディダを含む西部地区での攻勢を強めている。これまでも多くの市民がISISの残虐行為やイラク軍の地上攻撃のあおりで犠牲になってきた。

ただ、今回の空爆による死傷者数は尋常ではなく、モスル奪還作戦は一時中断され、調査が行われる事態に発展している。

有志連合は声明で、空爆の標的はジャディダ地区のISIS「戦闘員とその装備」および彼らの支配する建物だったと発表。一方、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)はこのときの空爆による民間人の死者は少なくとも140人に上ると報告。

イラクでの米軍の攻撃による死者としてはイラク戦争以降で最多となる作戦だった恐れがあると指摘した。OHCHRによれば、モスル西部の民間人の死者はこの空爆以降6日間で307人に達している。

【参考記事】ISISの最大拠点モスル、米軍の空爆で民間人の犠牲増?

重大な国際人道法違反

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも、モスル市内で情報を収集し、報告書を発表した。民間人の死傷者が増加しているのは、有志連合がモスルに残る民間人の生命を守るための適切な予防策を講じていないためだと指摘。「重大な国際人道法違反」が行われてきたと批判している。

有志連合側は調査を始めた翌日に追加の声明を発表し、今回の空爆はイラク治安部隊の要請に基づき、「民間人の死傷者が出たとされる場所」を標的にしたことを認めた。

その一方、「有志連合は空爆に際して常に慎重を期して」おり、「人命を尊重するからこそ、モスルをISISの残虐な支配から解放する作戦に従事するイラク軍を支援している」と主張した。



一方、マーク・ミリー米陸軍参謀総長は3月末に、「こちらの進撃を遅らせるために、ISISが建物を自分たちで爆破し、その責めを有志連合に負わせた可能性が十分にある」との見解を表明している。

イラク軍も、ISISが建物に爆発物を仕掛けたため多くの死傷者が出たという有志連合の説明を支持している。

異なる報告もある。例えばロイター通信は複数の証言を基に、空爆で直撃を受けた建物が倒壊し、数十人の民間人が瓦礫の下敷きになったもようだと報じている。

OHCHRのルパート・コルビル報道官は、ISISが民間人の生命を尊重せず「人間の盾」として利用していると述べ、「そうした罠に引っ掛からないよう」、有志連合に警戒を促した。

【参考記事】対テロ軍事作戦に積極的なトランプが抱える血のリスク

だが実戦経験の豊富な軍隊(パレスチナ急進派の組織ハマスが実効支配するガザ地区を攻撃するイスラエル軍、シリアを空爆するロシア軍など)の例を見ても明らかなように、人口の密集した都市部を狙う軍事作戦を実行する限り、民間人の犠牲を防ぐことはできない。

ISIS「壊滅」を公約に掲げるトランプ米大統領は、戦闘員の家族を攻撃対象にする可能性を示唆したこともあり、空爆対象に関する制限の緩和に向けて動いている。とにかくISISを葬り去りたい一心のトランプが、国連や人権団体からの助言に耳を貸す可能性は低い。

[2017.4.11号掲載]
ジャック・ムーア

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