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70冊以上の「トランプ本」から選んだ読むべき3冊

ニューズウィーク日本版 2017年4月13日 15時18分

<この約半年間に日本で出版された「トランプ本」は70冊以上。売れ筋の中から選んだ注目の3冊――『「トランプ時代」の新世界秩序』『ルポ トランプ王国』『トランプ』の内容・魅力とは?>

「トランプ本」の売れ筋ランキング

ビジネスパーソンや各界の専門家を主な利用者とする大手書店グループ、丸善とジュンク堂によると、昨年9月から今年3月までの約半年間に日本で出版された「トランプ本」は70タイトル以上にも及ぶ。

ここで対象となっているのは、タイトルに「トランプ」という言葉が入っている書籍のみ。「トランプ本」の実態としてはおそらく100タイトル以上だ。そんなにも多くの本が、この約半年間に出版されているのだ。

こんなに多くの本があると、結局何を読めばよいのか分からないのでは? どの本が読むに値する本で、どの本がそうではないのか? 少しでも参考になるよう、同グループの購買データを集計し、販売冊数の「トランプ本」ランキングを独自に作成した。

※2016.08.26~2017.03.25の丸善・ジュンク堂全店舗における販売冊数を集計、一部ジャンル(文芸書、マンガ、写真集など)は除く

なかでも注目の「トランプ本」 3冊

ランキングトップに並ぶ多くの書籍は、大統領選挙の結果を受けた11月~12月に発売された本である。人々の関心も、世間に流れるニュースも、この時期に急激に高まっていたので「さもありなん」と頷ける結果だ。

しかし、そのような中で、1位の『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮出版社)、3位の『ルポ トランプ王国』(岩波書店)はそれぞれ1月20日発売、2月4日発売と、今年になってからの発売である。いずれの本もそれぞれのベクトルでの論考が深められており、目を引いた。

瞬間・瞬間の話題はニュースで知っているけれど、トランプ大統領の誕生とは、要するに何なのか。トランプが大統領になりえた論理や、今後の米国および日本の動向への見立てを、いったいどう考えればよいのか。

ある程度のボリュームの文章を一度にまとめて提示できる「本」という媒体に求められた役割は、その「分析、洞察」なのだろう。こうした疑問を読者(の多く)が抱いた時期が年始以降であり、その疑問に答える本がやっと出始めたということなのだと、推察する。

また一方で、4位の『トランプ』(文藝春秋)にも注目した。大統領選挙の結果の前、8月に発売された本だが、ワシントン・ポスト紙が「非常に中立的な立場で」書いたトランプの伝記だからだ(日本語の翻訳書は10月に発売) 。

トランプ勝利をまったく予想できなかった都市部のメディアが、いったいどのような取材に基づき、どのようにトランプの実像をとらえていたのか。敢えて「今」読むこと、また上記の2冊と比較して読むことで、異なる角度からトランプという人物を捉えることができる。ひいてはアメリカの実態も透けて見えることだろう。

ここからは、これら注目の3冊について、それぞれもう少し内容や魅力を掘り下げて取り上げる。



気鋭の国際政治学者が分析する「分断されるアメリカ」



1位 『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮出版社)

本書は2017年1月19日の発売だ。トランプ大統領の正式就任が1月20日なので、わざわざ就任日に合わせて発売したと考えられる。しかし言い換えれば、就任演説を待たずに発売したということは、本書で伝えるメッセージは就任演説の前後で変わらない、ということなのだろう。

それはすなわち、本書が、演説など瞬間・瞬間の出来事をとらえて浅い分析や私見を述べる本ではなく、トランプに限らないアメリカの過去の趨勢の分析から「この時代にこのような(トランプ)旋風が生じた歴史的意味とは何か」を導き出そうとしている本だということだ。(本書から引用、括弧内は筆者補足)

つまり本書の魅力は、「トランプ現象の本質を探り、分断されるアメリカの実像を分析」することによる歴史の流れの把握と、「変わりゆく世界において、アメリカがいかなる自己イメージをもち、新大統領の外交は何を目指すのか」という将来予測である。出来事をただ知るのではなく、分析された「意味合い」を知りたい方々には、適した書籍だろう。

なお、著者の三浦瑠麗氏は、近年、討論番組などメディアでしばしば見かけるようになった気鋭の国際政治学者。東京大学政策ビジョン研究センター講師であり、著書には『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)がある。その著作からも分かるように、民主主義国における戦争・平和の問題に詳しく、トランプ現象の分析についても外交安全保障を中心に論じているのが特徴的だ。

トランプを支持するに至ったアメリカの「本当の」姿



3位  『ルポ トランプ王国』(岩波書店)

前に紹介した『「トランプ時代」の新世界秩序』が、主に膨大な文献の分析から「歴史的意味」を抽出した書だとするならば、この本は、丹念なフィールドワークからアメリカの「本当の姿」を導き出した書である。

著者は朝日新聞社のニューヨーク特派員。その取材力はさすがのものであり、「なぜトランプがこんなに強いのか?」という疑問に対してニューヨークなど都会の人々の取材で答えがみつからないとあれば、アメリカの田舎に向かう。「山あいのバー、ダイナー、床屋、時には自宅に上がり込んで」、丁寧にそして深く話を聞き出す手腕はすごい。その数、なんと14州150人。

特に、民主党の基盤でありながら、今回トランプ支持にまわる人が多く出た地域、通称「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれるエリアに含まれる5州の取材は、興味深いものだ。

「彼ら(ラストベルトの労働者たち)に「そもそもなぜ民主党支持だったのか?」と質問しても、「そんなこと考えたこともない」、「この街で生まれ育てば、みんな民主党支持だった」などと答える。」(本書から引用、括弧内は筆者補足)

「トランプは、専門家の予想を覆し、ラストベルト諸州で連勝したことで第45代大統領の座をつかんだ」のだ。(同上)



普段目にするメディアから得られる言説は、主に都市部の視点であることが今回の大統領選挙で明らかになった。だが、だからといって私たちには、アメリカの中西部の田舎に住み、その州からほとんど外に出たこともない「普通の」アメリカ人の声は、なかなか知りようもない。その意味で、150人もの「普通の」アメリカ人の声を、私たちの代わりに聞き取ってくれている本書は、その実態をつかめるものとしてだけでも、大いに意味のあるものだろう。

他の人の言説から分かったつもりになるのではなく、なるべく一次情報に近い情報から、自ら思考してみるためにも。他の本と合わせて、読んでおきたい一冊だ。

エスタブリッシュ層の捉えた、トランプの実像



4位 『トランプ』(文藝春秋)

冒頭にも述べたとおり、ワシントン・ポスト紙が3か月にわたって20人以上の記者を投入して記した、トランプの人物像に迫る本である。トランプの全人生をさまざまな資料や証言から読み解き、伝記の体裁で書き上げた書。原書は8月に発売されている(日本語の翻訳書は10月に発売) 。

前にあげた2冊は、トランプ自身というよりも、なぜトランプが注目されているのか、トランプが大統領となった後に世界はどうなるのか、そのようなマクロな視点から(情報源はミクロでありながら)記した本だった。一方この本は、トランプという「人物」の実像に迫るもの。両方合わせて読んでみると、違う解釈が見えてくるはずだ。

また、違う見方として、「トランプ勝利をまったく予想できなかった都市部のメディアが記した本」として読むおもしろさもある。

本書は、全体的には批判的でありながら、「非常に中立的な立場で」書いたという言葉のとおり、丁寧にトランプの実像を描いている。しかし、そうした実像をメディアに載せても、トランプ支持層にはほとんど届かなかった、あるいは響かなかったのだ。その事実について本書から考察するのも、おもしろいだろう。

原書の出版から半年がたち、新刊としての話題性がなくなってはいるものの、選挙戦の結果も分かった今だからこそ、他の本と併せて読み返してみるべき本である。

【参考記事】トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実
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hontoビジネス書分析チーム
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