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新生TOEICで試される、英語コミュニケーションの実力

ニューズウィーク日本版 2017年5月15日 15時0分

<昨年5月に出題形式が一部変更されたTOEICテスト。時代の変化に対応して、より実践的なコミュニケーション能力が問われる内容にアップデートされた>

英語のコミュニケーション能力を測るTOEICテストは昨年、TOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)へと名称を変更。出題形式も一部が変更された。日常業務で英語コミュニケーションが求められるビジネスパーソンがますます増えるなか、新しくなったTOEIC L&Rから、日本人の英語力のどんな変化が見えて来たのか――日本でのテストの実施・運営を担当している「一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)」の山下雄士常務理事に話を聞いた。

社会の変化に合わせて実践的な出題形式へ

TOEIC L&Rは、日本では1979年に導入され、30年以上にわたって実施されている。昨年の改訂は2006年以来、実に10年ぶりのことだ。山下氏は、「一般社会やビジネスシーンにおいて、英語の使われ方は少しずつ変化している。できるだけ社会の状況を反映したものを取り入れるのが狙い」と、改訂の目的を語った。

例えば、急激に進むIT化によってツイッターなどのSNSが普及し、多くの人たちの日常生活で使われるようになった。こうしたやりとりもテストに取り込まれているという。「別の言葉でいうとオーセンティック(実際的)」と山下氏が説明するように、実社会で使われているものに近い、実践的な英語力が問われる出題形式が採用されている。また、従来は高得点を取得するための攻略テクニックやコツが出回っていた面があり、本来の試験のあり方を見直す意図も含まれている。

実際の主な変更点を見てみよう。リスニングセクションでは会話問題の場合、以前は2人だけだったが、より実際的な例として3人による会話も出題。加えて、「Yes, in a minute.」や「Could you?」など、リアルな会話で使われる文の一部分や省略形などのくだけた表現も出てくる。また、会話で「I can't believe it.」という表現が、感嘆や憤りなどどのような意図で使われているのかという選択問題では、会話全体を理解していないと解けない工夫が凝らされている。

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同様に直接的な答えは会話の中にはなく、全体の文脈を理解できて初めて答えが分かる問題も出題される。こうした問題では、攻略のためのテックニックは通用せず、すべての会話を正しく理解できる能力が求められる。

リーディングセクションでも、全体の構成を理解しているかどうかや、書き手が暗示している意図が問われる問題が出題。また、3つの関連する文書を読んで答える問題では、違った種類の情報を連結させて全体を把握する能力が求められている。時代の変化に対応した例では、オンラインチャット形式で複数の人がやり取りを行う問題が登場。ここでも省略形や短文が使われ、実社会で使われているような会話が取り入れられている。

会話や文章をしっかり理解しないと解けない問題が増えたことで、本来の英語のコミュニケーション能力を測ることのできるテストへとアップデートされた。



「改訂後も平均スコアはほとんど変わっていない」と話すIIBCの山下常務理事

グローバル化に伴って増加し続ける受験者数

出題形式の変更は全体の25~30%くらい。リスニングとリーディングを合わせて、2時間で200問に答える形式や10~990点というスコアの採点方式も変わらない。また、基本的な難易度は変わっておらず、例えば企業で管理職の昇進に関する基準の点数を設けている場合、その基準を変える必要もないという。

「ただし、昨年5月に行った受験者へのアンケートでは、"難しくなった"または"やや難しくなった"と答えた人が約70%。ところが、スコアは変わったかという問いに対して、"変わっていない"または"ほとんど変わっていない"と答えた人が約70%いた。実際に平均スコアは、改訂前が578点で改定後は572点だった」と、山下氏は説明している。

1979年以来、TOEIC L&Rの受験者数は増加しており、2016年度の受験者数は約250万人。中でも日本企業の英語の社内公用語化が話題になった2010年の翌年には飛躍的に増加した。実際に社会のグローバル化が進展していく中で、2011年から2016年にかけてはより多くの人たちが受験するようになった。

また、2007年からは英語を話したり書いたりすることで、発信する能力を測るTOEIC Speaking & Writing Testsが実施され、こちらの受験者数も毎年増え続けている。英語力を身につけなければいけない環境に置かれている人が、以前よりも増えていることを意味している。

「英語でのしっかりした読み書きや会話ができる人の数は相当増えているはず。ただし、それ以上に新たに英語を学習する人が増えているため、この30年間の平均スコアはあまり変わっていない」と、山下氏は分析する。

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かつての日本企業では、英語力を必要とする人たちは限られていたが、今は経理部門などの英語と関わりのなさそうな部署であっても、海外子会社の経理部門と英語でやり取りをする時代。さまざまな人たちが、英語力の必要性を感じていることが、受験者数の増加に繋がっている。

TOEIC L&Rには個人で受験する公開テストと、企業や学校などの団体で随時実施される団体特別受験制度(以下、IPテスト)がある。昨年改訂されたのは公開テストで、今年4月にはIPテストの出題形式も改訂されたことで足並みがそろった。英語のコミュニケーション能力をより正確に測れるテストになったことで、日本人の本当の意味での英語力向上に繋がることが期待されている。

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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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