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G20で孤立したのはトランプだけでなくアメリカ全体 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年7月11日 15時0分

<自由貿易推進や温暖化対策を協議するはずのG20の場で、米大統領がすっかり孤立している異常事態なのに、アメリカはメディアも世論も関心を失っている>

ドイツのハンブルグで今月7~8日に行われたG20サミットでは、主として自由貿易の推進と、地球温暖化対策が話題になる中で、この2つのテーマに関してまったく世界の潮流とは逆の立場で臨んでいたアメリカのトランプ大統領は、会議の中で孤立した形になりました。

基本的に、冷戦以降の世界の外交においては、国連の場だけでなく、特にG7やG20というのは基本的にアメリカの大統領が主導していました。そのアメリカの大統領が孤立し、しかも本会議をしばしば中座して「一対一の隠密外交」ばかりやっていた、その結果として、アメリカだけが世界の潮流の中で「置いてきぼり」を食ったというのは明らかに異常な事態です。

これに対して、アメリカでは「孤立主義を大事にする保守派は喜んだだろう」とか、「国際協調主義のリベラル派はアメリカの凋落だとして怒っただろう」などというリアクションがあったのかというと、もちろん皆無ではありませんでしたが、実はそうでもなかったのです。

9日の日曜日には多少の報道はあったものの、基本的に週明け10日の各TVはほとんどG20への言及はありませんでした。もちろんニューヨーク・タイムズなどは「かつては会議を仕切っていたアメリカが今は孤立している」という皮肉たっぷりの記事を載せていました。

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また例えばトランプの一貫した支持者として活動しているジェフリー・ロイドという政治評論家は、「アメリカ・ファーストで一切妥協しなかったトランプの姿勢はほぼ満点で、テヘランやヤルタでスターリン相手に失点を重ねたルーズベルトと比較しても偉大な大統領だ」などという「歯の浮くような」解説記事をCNN電子版に寄せていました。

ですが、こうしたものは一部であって、週明けにはそんな論調は特に大きく取り上げられることはなかったのです。それにはいくつか理由があります。

まず、トランプ支持派はG20などと言われてもピンと来ないのです。そもそも国際政治などというものには関心もないし、そんな記事を読む習慣も少ないのです。ですから、温暖化対策という世界の圧力に対してトランプが頑張ったとか、自由貿易の声に対してアメリカの立場を守ったなどという解説を喜ぶような動きも少なかったのです。

ロイドの「ヨイショ記事」にしても、「ディールの勝ち負け」において、「一対一で押しまくったので良かった」という話になっていて、政策論ではありませんでした。



一方で、民主党支持者などアンチ・トランプの側は、とにかく一刻も早くトランプを大統領の座から引きずり下ろしたいわけです。リベラルなメディアの方もそうです。ですから、週明けの報道では「温暖化と自由貿易でアメリカが孤立」というニュースではなく、「トランプ長男がロシアの弁護士に接触」というスキャンダルの方をトップ扱いにして、多くの時間をあてていたのです。

このニュースですが、昨年夏にトランプが最終的に共和党の大統領候補への指名を確定させた直後に、長男のドン・ジュニアと娘婿のジャレット・クシュナー、そして後にウクライナの親ロシア派との不適切な関係で解雇される選対本部長のポール・マナフォートの3人が、ロシア人で米民主党にコネのある弁護士に接触して「ヒラリー・クリントンの弱点を教えてくれ」と頼んだというのです。

ドン・ジュニアはこの面会については否定せず、ただし「何も有効なネタはなかった」ので「問題ない」という釈明をしており、なお「大統領は関知していない」という主張をしています。

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大したニュースではないのかもしれませんが、仮にロシアによる「ヒラリー派に対する選挙妨害疑惑」について、トランプ陣営の「関与」が証明されれば大変なことになるわけで、メディアとしてもG20よりはこちらを優先したということなのでしょう。

では、保守派のFOXニュースなどはどうかというと、こちらもG20での「成果」を強調するという話題は少なく、週明けになると「ドン・ジュニアのロシア人弁護士との接触は問題ない」として、政権周辺を擁護する論調が目立ちました。

どうやら、G20における自由貿易や温暖化問題で、孤立しているのはトランプ大統領だけでなく、世論やメディアを含めたアメリカ全体ということなのかもしれません。関心を失っているということは、要するにそういうことです。

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