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もはや常識? 日本の就活に「インターン」がもたらす功罪とは

ニューズウィーク日本版 2017年8月15日 17時5分

<大卒の就職活動に浸透する「インターン」に込められた、企業の狙いを知ることで、学生たちは大切な時間を有効に使えるかもしれない。企業側の目的を考えるうえで重要なポイントは、「誰が何の利益を得るために」お金を払うのか、だ。>

「海外へ出かけたり、趣味に時間を使ったり、ずっと読みたかった本やゲームに没頭する。大学生の夏休み最高!」 

30代以上の方々はそうお思いだろう。

しかし、今時の大学生はそうではない。彼らにとっての夏休みのメインイベントはずばり「インターン」だ。

就職活動解禁日はここ数年、毎年のように変化しているが、経団連の方針によると2018年卒の解禁は大学4年生の6月。経団連の方針を汲む企業は、その時期からしか選考活動を実施できない。また大学3年生の2月末までは採用目的で学生に接触することもできない。2016年卒業生は3年生の3月が採用広報解禁、4年生の8月が選考スタートというスケジュールだったが、今年は若干前倒しとなった。

氷河期終わっても安定志向

2010年以降の新就職氷河期と呼ばれた時期は終わったように思えるが、経済や社会情勢の先行きは不安定だ。一方で「安定志向化している」ともいわれる学生たちは、できるだけ早く内定を獲得したい、あるいはそれに近い権利やそのための能力を獲得したいと考えている。

優秀な人材をできるだけ早く確保したい企業と、この世代の「安定」志向がマッチした結果、大きく成長したのがインターンという領域である。就職サイトはこれまでと様相を変え、その対象を、就職活動を行う4年生(それを控える3年生)から、いまでは大学1年生にまでその利用ターゲットを拡げている。

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就職みらい研究所が今年の2月に出した就職白書2017では、新卒採用を実施している企業のうち、2016年度にインターンシップを実施した(調査時点で予定含む)企業は 64.9%(2015年度より9.4ポイント増加)。実施対象に大学1年生、2年生を含む企業もそれぞれ3割ずつ。そして2017年卒の内定者の中にインターンシップ参加者がいた企業は72.5%。インターンシップに参加することが内定獲得に有利という風にも読み取れる。学生の立場なら、焦って、参加することに躍起にもなるだろう。

学生がインターンで得られる価値とは

もちろん、内定を獲得したい企業のインターンに参加できても、希望通りの結果になるとは限らない(稀にお祈りメールを受け取ったことがない人もいると思う)。

では、希望の企業から内定が出なかったとき、インターンに明け暮れた時間に意味があったと思えるだろうか。

企業の実態はこうだ。就職みらい研究所の調査では、インターンの実施目的を問う項目(複数回答可)において、「学生に就業体験の機会を提供することで、社会貢献する」と答えた企業が2014年は74.9%もあったのに対し、2017年には51.1%まで落ち込んだ。つまり、大学生自身の成長といったメリットを目的として掲げている企業は明らかに減っている。

内定欲しさに焦る学生が、青田刈りしたい企業からの選別にかけられ、ただただ彼らの貴重な日々が過ぎ去っていっては参加した学生の時間はあまりにも報われない。

学生が認識すべきこともある

大学生時代の過ごし方や成長は、就職先の決定や就職後の活躍に当然大きな影響を持つ。

大学歴に対する育った家庭の経済状況の影響の大きさは、前回の記事で、すでに明らかになっているが、企業が学生の能力を判断するタイミングが早いほど、家庭の経済状況による内定獲得や内定先企業への影響は大きくなるだろう。大学4年間を成長の機会として、様々な挑戦や取り組みのなかでスキルをアップさせることができれば、こうした構造を抜け出す一つのきっかけとなるかもしれない。

内定以外のもの、つまり成長の機会が得られるとしたらインターンの意味も変わってくるだろう。

そんな内定以外の、学生の成長を目的に謳ったサービスを展開しようとする「企業側」の新しい動きもある。

株式会社リクルートキャリアは今年の5月、大学1年生~2年生向けの長期インターンシップサイトを9月に開設することを発表した。目的としては 自分の持ち味や将来やりたいことを学生に明確にしてもらい、就職活動時のミスマッチを減らすことしている。

株式会社ベネッセホールディングスとパーソルキャリア株式会社(旧株式会社インテリジェンス)、が合弁会社として立ち上げた株式会社ベネッセi-キャリアは、「働くを知る」、「経験を積む」、「オファーを受ける」という3つのステップから構成される新サービスDODAキャンパスを先月スタートさせた(本格稼働は9月)。自己分析や長期有給インターンシップ、オンライン講座、そして採用時のオファーといった機能が含まれている。こちらの目的としても、大学低学年期に対するキャリア支援といったことが掲げられている。

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目的は「選抜」か「育成」か

重要なのはこうしたサービスが、学生の「選抜のため」に機能していくのか、「育成のため」に機能していくのかということである。

例えば大学生に対して何か課題を課したとき、その課題に取り組むなかで学生が悩み葛藤し成長するとしたら、その課題は「育成のため」に機能したといえるだろう。一方その課題をクリアできる学生とできない学生に選別できたとき、「選抜のため」に機能したといえる。

汚い表現かも知れないが、「できる人」を選抜し、集めることができる場はお金になる。その場から人を採用したり、そういった場に企業の課題を持ち込んで画期的なアイディアを考えてもらうことでビジネスが生まれたりする。そういう場に、企業は喜んで投資するだろう。

では、育成機能を果たそうとする場はどうだろうか。10人の学生が集まったとして、10人全員が期待通りの成長を遂げる確証はない。半分か、もしくは2人や1人しか、期待に沿うような成長は見込めないかもしれない。もしかしたら0かもしれない。つまり育成は、投資によって得られる価値を、投資する前から精緻に予測することが難しい。そんな場に企業はお金を払うだろうか。

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ビジネスとしては未知数

上に挙げた2つのサービスをビジネスモデルの観点から見ると、このサービスが育成機能を果たすのか、選抜機能を果たすのか、まだわからない。重要なポイントは「誰が何の利益を得るために」お金を払うのかということだ。

この2つのサービスにおいて、主に対価を支払うのは、学生の採用を狙う企業だ。料金を抑えたり、低学年と接点を持つための対価は無料としていたりもするが、学生と出会うために企業がお金を払うという構造は、就活サイトと基本的に変わらない。では、優秀な学生との出会いを企業に届けるためにこのサービスが運営されるとしたら、今掲げている学生の支援という目的は果たされていくのだろうか。

対価を支払う企業が満足できる人材の採用につながらなかった場合、育成機能ではなく効率的な選抜機能へと期待が高まることは容易に想像できる。

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企業は慈善事業を行っているわけではない。そんな企業は、大学生と接点を持とうとする場合にも目に見えた利益が得られることを望むだろう。その多くは優秀な人材の採用である。それはインターンも同様だ。貴重な資金や社員の時間を使って大学生のインターンに時間をさくとき、それは企業にとっては採用への投資の意味合いを持つ。

しかし人材は勝手には育たない。企業が新卒の学生に対し「即戦力」を求め始めてから久しいが、学生が「即戦力の新人」になるためには、どこかで彼らに成長の機会が与えられる必要がある。そうした認識を持たず、「経済合理性」や「企業の成長」ばかりに流れて、「選抜のため」だけに企業が若者の時間を奪うとしたら、成長するチャンスや時間はどんどん失われていくだろう。

その先にどういった社会が待っているだろうか。サステナブルな社会を実現することができるだろうか。しっかりと長期的な視点で考える必要があるだろう。


[執筆者]
福島創太(教育社会学者)
1988年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」 の商品開発等に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学。現在は、同大学院博士課程に在学しながら、中高生向けのキャリア教育プログラムの開発に従事している。著書に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?――キャリア思考と自己責任の罠』(ちくま新書)。


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福島創太(教育社会学者)

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