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テイラー・スウィフトが1ドルに込めた思いとは セクハラ裁判で勝訴

ニューズウィーク日本版 2017年8月16日 18時10分

<性的暴行を受けたとラジオ司会者を提訴していたテイラー・スウィフトが14日、勝訴した。賠償金はスウィフトの希望どおり1ドル。その1ドルに込めた思いとは>

発端は写真撮影会での出来事

米歌手のテイラー・スウィフトがラジオ司会者のデイビッド・ミュラーを訴えていた、1週間にわたる民事裁判が14日(米時間)に終わり、スウィフトの勝訴となった。裁判官がミュラーに言い渡した賠償金は1ドル(約110円)。というのも、そもそもスウィフトが求めたのが、1ドルだったからだ。この1ドルには、スウィフトの思いが込められている。

発端は2013年6月にさかのぼる。スウィフトのコンサート前に行われた写真撮影会で、スウィフトはミュラーと同氏の当時の恋人と3人で写真を撮った。しかしこの時、ミュラーがスウィフトのスカートの中に手を入れ、お尻を触ったという(英ザ・サン紙がこの時の写真を掲載している)。

スウィフトはスタッフに報告。スタッフがミュラーに話したが、「警察を呼べばいい。俺は何も悪いことはしていない」と返された。スウィフト側は大ごとにしたくないとの思いから警察には届け出ず、起こったことをラジオ局側に伝えたところ、ミュラーはラジオ局を解雇されたという。

ミュラーは2015年9月、名誉毀損でスウィフトを訴えた。賠償金額300万ドル(約3億3000万円)を求めていたと言われている。これを受けてスウィフトは1カ月後、ミュラーを暴行罪で反訴した。

ワシントン・ポスト紙によると、裁判長はまず今月11日にミュラーの訴えを退け、14日には陪審員によりスウィフトの勝訴が言い渡された。ミュラーには賠償金の支払いが命じられたが、前述の通り、金額は1ドルだ。ガーディアン紙によると、スウィフトの代理人を務めた弁護士のダグラス・ボールドリッジは最終弁論で、この1ドルは象徴的なものであり、同じ状況にいるすべての女性にとって計り知れない価値となるものだと陪審員に訴えていた。

「痴漢」は世界的な問題

痴漢というと「海外にはない」と思われがちだ。しかし今回のスウィフトの裁判は、女性が公共の場で不適切に触れられることが実は米国でも少なからずあることを示した。そうした被害に遭った女性たちがなかなか声を上げないだけなのだ。ビルボード誌は、今回の裁判が、「よくあることでありながら多くは表沙汰にならない不法行為に視線を向けさせた」とし、多くの女性から賞賛の声が集まっていると伝えている。

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「ストップ・ストリート・ハラスメント」(SSH)という団体が2014年に全米で行った調査では、公共の場で見知らぬ人に「性的に触れられた」経験がある女性の割合は23%、「無理やり性的な何かをさせられた」割合は9%に上った。

また、2015年に22カ国で1万6000人の女性を対象に行われた大規模な調査では、回答者の半数以上が、公共の場で見知らぬ人に性的に体を触られたり痴漢行為をされたりした経験があると回答した(ホラバックと米コーネル大学の合同調査)。

性的暴力の被害女性たちのために

上記の調査結果を伝えたビルボード誌はさらに、SSHの創設者ホリー・カールと大学生のペイジ・ブレイジントンの経験を紹介した。

ブレイジントンは、留学先のハンガリーにいた頃、ブダペストの混んだ電車内で痴漢に遭ったことがあった。その後、男友達にそのことを話すと「楽しんだか」と聞かれたという。ブレイジントンは、「(スウィフトの)この裁判で一番大切なのは、みんながこの問題について話すようになること。こんなことは間違いであり、絶対に起こるべきじゃないってことをみんなに突きつけることになる」として、スウィフトを支持した。

SSHのカールは、自分に起こったことを口にして、信じてもらえなかったり、逆に自分が責められたりする女性が多いと指摘する。カール自身も大学生の時、パーティから帰る際に道で立っていたところ、通りすがりの男性グループの1人に股をつかまれた。男性たちは笑いながら走り去ったが、カールは動けなくなってしまった。このことを警察に届け出ることはしなかったという。

インディペンデント紙は、ミュラーが300万ドルを求めていたのとは対象的に、スウィフトが求めていたのは、「象徴としての1ドルと、他の女性たちのために立ち上がる機会だった」と伝えている。

なおスウィフトは判決後に声明を発表し、性的暴力の被害者を支援する複数の団体に寄付をする意向を明らかにしている。

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松丸さとみ

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