<24日の総選挙でトルコの露骨な介入で票が動けば、メルケルの移民政策に批判が集中する恐れも>
9月24日に行われるドイツの総選挙に露骨な介入を試みたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領。その強引さにはドイツ人もあきれるのみだ。
エルドアンは8月、アンゲラ・メルケル首相率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)と連立相手の社会民主党(SPD)、そして野党の緑の党を「トルコの敵」と決め付け、トルコ系ドイツ人にこの3党に投票するなと呼び掛けた。
ドイツにいるトルコ系有権者は約100万人。このグループに的を絞った世論調査は最近行われていないため、エルドアンの呼び掛けがどの程度選挙結果に影響を及ぼすかは未知数だ。
結果次第ではドイツ社会に「統合」されたはずの移民が祖国の強権指導者に従ったことになり、メルケルの移民政策にますます批判が集中しかねない。
伝統的にトルコ系ドイツ人の圧倒的な支持をつかんできたのは中道左派のSPDだ。トルコ系の多くは、西ドイツ政府が労働力不足を解消するため「ゲストワーカー」として移民を受け入れた60~70年代に流入した人々とその子孫。労働者の権利擁護とイスラム系移民に寛容な政策を掲げるSPDの支持率は約70%と高い。一方、トルコのEU加盟に反対し続けてきたCDUを支持する人は、トルコ系有権者の6%前後にすぎない。
ドイツとトルコは共にNATOの加盟国で、本来は協力関係にある。だが昨年7月に起きたトルコのクーデター未遂事件で、関与した軍人の引き渡しをドイツが拒否したため、関係が悪化した。
さらに今年4月、トルコで大統領権限の強化などを盛り込んだ憲法改正案が国民投票に付されることになり、エルドアン率いる公正発展党(AKP)の関連団体がドイツ国内でトルコ系向けに改憲支持キャンペーンを展開しようとした。ドイツ政府がこれを禁止すると、怒ったエルドアンはメルケルを「ファシスト」呼ばわりし、険悪ムードは一気にエスカレートした。
文化戦争に駆り立てる
それ以上に危惧されているのは、トルコ系ドイツ人の「エルドアンびいき」だ。ドイツにいる約300万人のトルコ系住民のうち約140万人はトルコ国籍を持ち(ドイツでは事実上二重国籍が認められている)、トルコの国民投票に参加できる。彼らの63%が改憲支持に回った。
この結果から移民統合を悲観視する向きもある。長年ドイツで暮らしても、トルコ系住民の考え方は個人の自由や民主主義とはなじまないというのだ。
「民主主義と自由と安全を享受してきたのに、彼らはトルコの民主主義を圧殺する票を投じた」――独ニュース週刊誌シュピーゲルの元トルコ特派員ハスネイン・カジムはそう嘆いた。
エルドアンの選挙介入にドイツの世論と政治家は強く反発している。メルケルは「いかなる干渉も容認しない」と宣言。ジグマル・ガブリエル外相とハイコ・マース法相は「エルドアンはドイツのトルコ系住民を扇動して、文化戦争に駆り立てようとしている」と警告した。
だが改憲を支持した人たちがドイツの選挙でエルドアンの指示に従うとは限らない。ベルリンのフンボルト大学のセラト・カラカヤリ教授によると、「トルコ系ドイツ人はトルコとドイツという2つの異なる文化圏とその社会規範を自分の中に抱えていて、その場に合った規範を採用するようだ」という。
彼らが下す判断はドイツの将来を決める大きな要因になる。
From Foreign Policy Magazine
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[2017.9.26号掲載]
ベサニー・アレン・イブラヒミアン
9月24日に行われるドイツの総選挙に露骨な介入を試みたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領。その強引さにはドイツ人もあきれるのみだ。
エルドアンは8月、アンゲラ・メルケル首相率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)と連立相手の社会民主党(SPD)、そして野党の緑の党を「トルコの敵」と決め付け、トルコ系ドイツ人にこの3党に投票するなと呼び掛けた。
ドイツにいるトルコ系有権者は約100万人。このグループに的を絞った世論調査は最近行われていないため、エルドアンの呼び掛けがどの程度選挙結果に影響を及ぼすかは未知数だ。
結果次第ではドイツ社会に「統合」されたはずの移民が祖国の強権指導者に従ったことになり、メルケルの移民政策にますます批判が集中しかねない。
伝統的にトルコ系ドイツ人の圧倒的な支持をつかんできたのは中道左派のSPDだ。トルコ系の多くは、西ドイツ政府が労働力不足を解消するため「ゲストワーカー」として移民を受け入れた60~70年代に流入した人々とその子孫。労働者の権利擁護とイスラム系移民に寛容な政策を掲げるSPDの支持率は約70%と高い。一方、トルコのEU加盟に反対し続けてきたCDUを支持する人は、トルコ系有権者の6%前後にすぎない。
ドイツとトルコは共にNATOの加盟国で、本来は協力関係にある。だが昨年7月に起きたトルコのクーデター未遂事件で、関与した軍人の引き渡しをドイツが拒否したため、関係が悪化した。
さらに今年4月、トルコで大統領権限の強化などを盛り込んだ憲法改正案が国民投票に付されることになり、エルドアン率いる公正発展党(AKP)の関連団体がドイツ国内でトルコ系向けに改憲支持キャンペーンを展開しようとした。ドイツ政府がこれを禁止すると、怒ったエルドアンはメルケルを「ファシスト」呼ばわりし、険悪ムードは一気にエスカレートした。
文化戦争に駆り立てる
それ以上に危惧されているのは、トルコ系ドイツ人の「エルドアンびいき」だ。ドイツにいる約300万人のトルコ系住民のうち約140万人はトルコ国籍を持ち(ドイツでは事実上二重国籍が認められている)、トルコの国民投票に参加できる。彼らの63%が改憲支持に回った。
この結果から移民統合を悲観視する向きもある。長年ドイツで暮らしても、トルコ系住民の考え方は個人の自由や民主主義とはなじまないというのだ。
「民主主義と自由と安全を享受してきたのに、彼らはトルコの民主主義を圧殺する票を投じた」――独ニュース週刊誌シュピーゲルの元トルコ特派員ハスネイン・カジムはそう嘆いた。
エルドアンの選挙介入にドイツの世論と政治家は強く反発している。メルケルは「いかなる干渉も容認しない」と宣言。ジグマル・ガブリエル外相とハイコ・マース法相は「エルドアンはドイツのトルコ系住民を扇動して、文化戦争に駆り立てようとしている」と警告した。
だが改憲を支持した人たちがドイツの選挙でエルドアンの指示に従うとは限らない。ベルリンのフンボルト大学のセラト・カラカヤリ教授によると、「トルコ系ドイツ人はトルコとドイツという2つの異なる文化圏とその社会規範を自分の中に抱えていて、その場に合った規範を採用するようだ」という。
彼らが下す判断はドイツの将来を決める大きな要因になる。
From Foreign Policy Magazine
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[2017.9.26号掲載]
ベサニー・アレン・イブラヒミアン