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自転車に乗れる自由を求めてサウジで奮闘する女性

ニューズウィーク日本版 2017年9月25日 19時30分

<女性のさまざまな活動が制限されているサウジアラビアで、自由に自転車に乗れる権利を手に入れるべく、奮闘している女性がいる>

自由に自転車に乗れないサウジの女性たち

「ママチャリ」という言葉があるほど、日本では自転車と女性は切っても切れない関係だ。しかし世の中には、女性が自由に自転車に乗ることが許されない国もある。

イスラム教の戒律が厳しいサウジアラビアでは、女性はさまざまな活動が制限されている。海外へ行くには男性の後見人(父親、夫、息子など)の許可が必要で、就職や就学にも、後見人の許可が求められることが多いという。また自動車は、許可の有無以前に、女性は一切運転できない。

2013年、女性が公の場で自転車やオートバイに乗ることが許されるようになった、とアルジャジーラは伝えていた。ただし、公園や娯楽施設内などに限られ、男性の後見人が立ち会う必要がある。また、頭の先からつま先まで覆う「アバヤ」というイスラムの伝統服を着用しなければならない。

しかしそんなサウジアラビアで、女性が自由に自転車に乗れる権利を手に入れるべく、奮闘している女性がいる。

サウジ初、女性が使える自転車ショップ

ガーディアンによると、25歳のバラー・ルハイドさんは2016年、サイクリング・コミュニティ「スポークス・ハブ」をビジネスとして立ち上げた。サウジアラビア初の、男女どちらも入れるコミュニティだ。ショップ内にはカフェや作業場が併設されており、サウジアラビアで唯一、女性が使える自転車ショップだ。

しかし当然ながら、サウジアラビアで女性がこのような活動を行うには、注意が必要だった。家族の中には応援してくれる兄弟や姉妹もいたが、親からは心配された。また、自分の娘が悪影響を受けると心配した女性たちからも攻撃された。自転車に乗っていると、通りすがりの車が窓を開けて、ルハイドさんに侮辱的な言葉を吐いていった。警察に通報されたことも幾度となくあるという。

こうした経験から、女性だけのサイクリング・コミュニティを作るのが法律だけでなく社会的にも無理だと気付き、ルハイドさんは別の方法を模索した。

まず、弟が通う大学内で男性向けの組織としてスポークス・ハブを立ち上げた。女性に対しては、構内でワゴン車を使ってサービスを提供した。また、投資を募る際も、女性がCEOだと投資家たちに冷笑されるため、弟を代表者にした。

ルハイドさんは、夢はサウジの女性が自由に自転車に乗れるようになることだとガーディアンに話した。法律で着用が定められているアバヤも、そのままではスポークに裾が絡んでしまうため、足がズボンの形状になったものをデザインし、現在特許申請中だ。



こうした活動は、少しずつではあるのが実り始めている。サウジアラビアでスタートアップ企業に贈る賞にスポークス・ハブが選ばれ、リーマ王女も公的にスポークス・ハブ支持を表明した。リーマ王女は、サウジアラビアのスポーツ総合庁で女性スポーツ振興担当を務めている。

女性解放が進むサウジ

サウジアラビアではここ数年、女性を解放する動きが活発化している。2012年にはサウジの女性選手が初めてオリンピックに出場できるようになり、2015年には、同国の歴史で初めて、女性が地方議会選に立候補する権利と投票する権利が与えられた。またインディペンデントは今年5月、サウジアラビアの女性が男性後見人の許可なしに教育や医療などの国のサービスを受けられるよう許可した、と伝えていた。

ところで自転車が発明されたのは19世紀のドイツだと言われている。自転車と女性、服飾の歴史について調査を行う「バイクス・アンド・ブルーマーズ」によると、19世紀の英国でも、ルハイドさん同様に、女性が自転車に乗っていると石を投げられたり、侮辱的な言葉を浴びせられたりした時代があった。

日本語で「ブルマー」と言えば、昔の女性用体操着だが、もともとは女性解放運動をした米国人女性ブルーマー夫人が考案した服装だ。ルハイドさん同様、動きやすいように足の部分をズボンの形状にし、自転車に乗る女性たちに愛用されたらしい。

自転車が生まれた西側諸国でも、そのような歴史を経て女性たちは自転車に乗る自由を手にしてきた。ルハイドさんの活動で、サウジの女性たちが自由に自転車に乗れる日も、きっといつか来るだろう。





松丸さとみ

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