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小池新党の政権構想、自民との大連立の可能性は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年10月3日 17時10分

<小池都知事は政権選択選挙と位置付けているが、選挙後に自民党と大連立を組むことも視野に入れていると考えれば辻褄は合う>

小池百合子東京都知事の立ち上げた「希望の党」ですが、果たして政権奪取が可能なのか、その構想については、いくつかの疑問が残ります。ですが、以下のようなシナリオを持っていると考えると、辻褄が合うと考えられるのも事実です。

まず、小池氏は立候補するのかという点に関しては、恐らく「ノー」でしょう。何よりも、東京都政に関して言えば、五輪も、豊洲も投げ出すわけにはいかないからで、投げ出して批判を浴びる間は辞められないはずです。その辺の世論の空気に関しては、かなり敏感に見ていると思います。

では、小池氏が国会議員にならないのであれば、仮に選挙に勝ってしまったらどうするのか。仮に「希望」と、これに連携するグループが過半数を取れば、政権を担うことになります。ですが、そこには大きな問題があります。それは参院では自民党は242議席中の125議席ということで、単独でも過半数を持っていて、2019年まで選挙がありません。

ですから、衆院選だけ勝っても「ねじれ国会」になり、思うような政権運営は出来ません。そこで、おそらく小池氏としては自民を巻き込んでの「大連立」を工作するのではないでしょうか。

一部には、最初から大連立を公約したら良いではないかという声もあるようですが、それはないでしょう。「政権批判の風」によって票を集めるのが、今回の選挙の戦略なので、「最初から現政権と組む」などと「種明かしをしては効果が半減してしまうからです。

仮に大連立を前提にするのであれば、別に「希望」とその支持グループとしては大勝する必要はありません。辛勝すなわち自公の過半数割れ程度であっても構わないわけで、自民党内に安倍首相の責任論が出て政権が崩壊していくプロセス、後継の議論が出てくるプロセスでタイミングを見計らって「大連立」を仕掛けて来るのではないでしょうか。

では、首班指名をどうするかという問題ですが、恐らく以前からの盟友である石破茂氏を擁立する、そんなシナリオが考えられます。大連立ではなく、石破氏なり石破グループを「一本釣り」してしまうと、自民全体との関係は悪化して、参院でのコントロールが利かなくなる危険が出てきます。

ですが、仮に大連立、つまり自民全体を与党として迎えるのであれば、少数派の方の自民の代表として石破さんを首班指名することになります。その場合は、自民党の議員もそれほど悪い気はしないでしょう。1994年に自民党が政権復帰した「自社さ政権」の発足時に、村山首班という荒業(成立経緯は単純ではありませんでしたが)を使ったのと似た手法です。



問題はそこから先です。石破首班で大連立して何をやるのかというと、やはり憲法改正に取り組むことになるのだと思われます。安倍首相の提案した9条3項加憲などというのは葬り去られて、本格的な改憲へ行く可能性です。ですが、そうは簡単には行かないでしょう。そこで世論やメディアの批判を受け、そして政権内部の動揺や不和が起きていくとして、そのタイミングでは「改めて民意を問う」という形で、再度解散が行われるのではないでしょうか。

仮に石破首班で行き詰まりが出てきて解散するのであれば、石破首班のままでは議席を減らすことになります。かといって、石破氏など自民党が政権離脱して勝ち目があるかというと、それも分かりません。

そんな中で、それこそ三顧の礼か何か色々な手続きを踏んだ形で、「大連立の与党みんなに頼まれたから」という格好にして、小池氏の国政復帰、選挙後に小池首班で組閣というような展開になるのではないでしょうか。その頃までには、東京都知事の後継も見えてくるでしょう。

もちろん、そうすんなり行くかどうか、分かりません。特に公明党の動き方、あるいは大阪維新の動き方などによっては、小池新党の思い通りにはならないかもしれません。

そうであっても、この現代社会、つまり相当に盤石に見えた安倍政権もアッと言う間に崩壊が始まってしまうという、恐ろしい世の中を制するためには、安易な手法ではダメなのでしょう。自分が政権を獲得し、それだけではなく、政権を巧妙に運営し、名誉を手にして任期を全うするのには、このぐらいの「手の込んだ」シナリオは必要です。

ちなみに女性を首班とした「国難対応の大連立」ということでは、ドイツのメルケル首相の事例が思い起こされます。小池氏というのは、新党などを渡り歩いてきた「風見鶏」であるとか「節操がない」などという批判も浴びていますが、反対に、細川政権の失敗と小泉政権の成功を当事者として見てきた歴史の生き証人でもあります。勝負に出た以上は、良くも悪くも、このぐらいの見通しは持っているのではないでしょうか。


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