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大リーグがホームラン量産時代に突入した理由

ニューズウィーク日本版 2017年10月24日 14時40分

<本塁打の記録ずくめだった今シーズン。要因は何なのか? 三振激増との関連は?>

今シーズンの米大リーグ(MLB)は、本塁打の記録ずくめだった。とにかく、ボールがよく飛んだ。シーズン総本塁打数は史上最多の6105本。選手の薬物使用が横行した00年の5693本を大幅に上回った。

あおりを食った一人は、フィラデルフィア・フィリーズの新人リース・ホスキンス。MLBデビューから34試合で18本塁打という史上最速記録を達成したが、全体の本塁打量産のせいで影が薄くなってしまった。

ルーキーによる新記録樹立は、まだある。ナショナルリーグでは、ロサンゼルス・ドジャースのコディ・ベリンジャーがシーズン39本塁打を放ち、リーグの新人本塁打記録を更新。アメリカンリーグではニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジが52本を打ち、こちらはMLBの新人記録を塗り替えた。

マイアミ・マーリンズのジャンカルロ・スタントンは60本塁打達成かと思わせたが、惜しくも59本で終わった。シーズン60本を打ったのは、ステロイド疑惑を持たれた選手を除くと、ロジャー・マリス(61本)とベーブ・ルース(60本)しかいない。

なぜ本塁打がこれほど増えたのか。『ロングボール──ホームランをめぐる伝説と伝承』の共著者マーク・スチュワートは「三振が恥ずかしいことではなくなったからだ。思い切りスイングすれば、ボールは飛びやすくなる」と語る。

だったら、三振が増えたのも納得できる。三振総数は4万105個と、10年連続で増加した。ヤンキースのジャッジは、三振数がMLB最多の208個だ。

70年代の名選手レジー・ジャクソンはスイングの思い切りがいいので、空振りすると自分ごとくるくる回っていた。ジャクソンはワールドシリーズで1試合3本塁打を打った選手として記憶されているが、一方で2597個というMLBの通算三振記録を持っていることはあまり知られていない。

工夫のない投手も問題

だが、ジャクソンは三振を気にしていなかった。「ファンは価値のない人間にはブーイングをしない」と語ったことがある。

スチュワートによると本塁打増加の裏には、打者の体格がよくなったこともあるが、投手にも責任がある。「ピッチングは『柔術』によく似ている。相手のバランスを崩すのが目的だ」と、彼は言う。「投手はそのためにスピードや球質を変える。しかし、こうした巧みな投球をする投手は少なくなってきた。真っ向勝負をしたがる」



「飛ばないボールの時代」と呼ばれる1900~19年には、打者はおずおずと打席に立っていたし、三振は恥だった。

リーグ本塁打王に6度輝いたフィリーズのギャビー・クラバスが1915年のワールドシリーズで、満塁で打席に立ったとき、監督はスクイズのサインを出した。この時代には珍しくないことだ。クラバスはバントしたが、ダブルプレーに終わった。

今、そんなサインが出ることは考えにくい。スタジアムは打ちっ放しのゴルフ練習場と化した。「打撃コーチは『発射角度』についての話をしている」と、スチュワートは笑う。野球はロケット科学になったようだ。

三振は恥という野球文化を変えたのは、「野球の神様」ベーブ・ルースだ。スチュワートは彼を「大きく空振りしてバランスを崩し、地面につんのめった最初の選手」と言う。「しかし大変な才能の持ち主だったから、三振しても本塁打を打ったときと同じような声援が送られた」

ファンは価値のない選手にはブーイングをしない。もちろん、声援も送らない。


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[2017.10.24号掲載]
ジョン・ウォルターズ

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